【2013年2月21日】

中二病だからハーレムしたい!の出だしです

全国発売中です。

よろしくお願いいたします。

プロローグ
「……んー」
 夏休みも残りあと一週間と迫ったその日の朝。
 田無勇士はアパートを出ると、ボサボサの髪をかきながら路地をゴミステーションに向かって歩いていた。
 むろんゴミを捨てるためだ。ひとり暮らしのゴミは、一週間分でもスーパーの小袋ひとつほど。
 容赦なく照らす快晴の日差しに目をしかめながら、五十メートルほど離れた目的の場所にたどり着くと、ポン、と手持ちのゴミを捨てる。
「ふぁ、あ!」
 大きなアクビをひとつ。涙がにじんだ。
 寝間着兼用のスウェットの裾から手を突っこんで脇腹をバリバリ掻く。幸いにも小さいころからやせ型で、高一のいまでも贅肉はほぼない。
「もう一回寝直すか。まだ八時とかで……」
 アパートへ戻ろうと勇士が振り返ったときだ。
 視線を感じて顔を向けると、
「ん?」
 そこに少女がいた。
 勇士の学園の制服を身につけている。つまり同じ学園の生徒どうしだ。
 わりに長い髪をまとめて縛っているのは校則どおり。こっちに向けたうつむきかげんの顔に、驚いたような表情が張りついていた。
 その顔に、勇士は見おぼえがある。
(あれって、確か同級の)
 地味な感じなのが、唯一、眼帯でおぼえていた。
 右目に、眼科で施されるような治療用の眼帯をいつもしている。そんな女子が同じクラスに……、
「誰、だっけ」
 名前が出てこなかった。しかし勇士が視線を向けたことで目が合い、少女はますます驚いた顔になる。手を口に当てて、
「ぁ、あ……」
 つぶやく声が漏れている。見る見る頬が赤く染まった。と思うと、
「あ、おい、ちょ、っと」
 勇士が声を掛ける間もなく、サッときびすを返すと走り出す。
 よほどあわてたのか、軽やかな感じはまったくなく、ドタドタドタ! というふうに、けれどけっこうなスピードであっと言う間に走り去っていった。
「なんだったんだ、よ」
 ついに見えなくなる少女の背中から視線を離すと、勇士はため息のように吐き出した。そして不意に思い出す。
「そうだ。らんか……高崎蘭花ってコ、だよな」
 クラスで、ある意味いっぷう変わった存在感を放っている少女。
 いつもひとりで、女のコどうし話したり笑ったりするのを見たことがない。だから昼食のときもひとり、自分の席でお弁当を食べている。
 体育のときなど、ポツンとひとりで立っているのを見たことがある。そんな、
「ぼっち女、とか男子に言われてたっけか」
 けれどイジメの対象になっているわけではない。
 勇士の学園は、イジメは厳しく禁止されているし、違反すると処罰されるから表立って集団でイジメる、なんてことは起こらない。
 けれど、
(あれはあれで、消極的なイジメ、なのかもな。まあ、あいつが交わろうとしないのかもしれないけど)
 とも思う。
 勇士の知るところでは、蘭花は成績が飛び抜けていいわけではない。かといってひどく悪くもない。
 いつもひとりでいるが、超然としているふうでもなく、どこかビクビク緊張している。そう、いまみたいに。
「なんであいつ、制服着てたんだ。登校日とかじゃないし。クラブとかもやってなかったっぽい、よな。……ま、いいか。別に関係ねえし。帰って寝よ」
 そう言って、こんどこそアパートへと戻る。
 スチール製の階段を上りかけたところで、
「あ、やべっ」
 気がついた。
 目の辺りを指で軽く触れてみる、までもなく、
「コンタクト、忘れてたんだ」
 わかる。しかし無理もない。起き抜けにゴミを出してきたのだ。コンタクトレンズを目に入れてないのは当然と言える。
「あいつ、それで、か」
 蘭花が驚いた顔を向けていたのが、勇士はわかった気がした。
 勇士の目。
 朝陽を受けて、薄い碧に輝いていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……ついに、見つけた」
 一方、こちらは走り疲れてしゃがみこんだ蘭花。
 荒い息の中、けれど口もとにはかすかな笑いが宿っている。
 蘭花は自分で自分の眼帯をめくり上げる。閉じていた目蓋を開くとそこには、左目とは違う、真っ赤な虹彩の瞳があった。

「いまの、うちのクラスの……」
 つぶやいて、アパート側の電柱の陰から進み出る長い髪の少女。
 暗がりに同化するような、全身漆黒のタイツ。身体にぴったりとフィットして、見事なプロポーションを露わにしている。しかしこの快晴の昼間には、逆に目立ちすぎる出で立ちではある。
 たったいまの、勇士と蘭花のいきさつを見ていたらしく、片耳のイヤフォンを軽くおさえ、また、首のチョーカーの金具に手を添えると少女は、
「監視対象に変化あり、よ。指示を求めるわ。こちら古室万奈美……いえ、ブラックキャット、オーバー……!」
 そこまで言うと、全身タイツの少女……万奈美は気配を感じて振り返った。
 すぐ側の路地を、豪華なリムジンが滑るように走っていく。珍しく、スモークされていない後部座席のウインドーからは、中の人影が一瞬見て取れる。
 ひと目見たら忘れない、プラチナブロンドもまぶしいその少女。
「……三条・ウイングフィールド・綾音。どうしてここに。まさか」
 急いで再び物陰に隠れながら、万奈美はふたたびインカムに向かってなにやらつぶやく。
「ええ、ええ、了解よ。オーバー」
 しかしイヤフォンからは、なんの音声も鳴らなかった……。

最新記事

月別アーカイブ

  • 2019年3月 (6)
  • 2019年2月 (4)
  • 2019年1月 (1)
  • 2018年12月 (2)
  • 2018年11月 (4)
  • 2018年10月 (4)
  • 2018年9月 (3)
  • 2018年8月 (3)
  • 2018年7月 (4)
  • 2018年6月 (6)
  • 2018年5月 (4)
  • 2018年4月 (3)
  • 2018年3月 (3)
  • 2018年2月 (3)
  • 2018年1月 (2)
  • 2017年11月 (1)
  • 2017年9月 (1)
  • 2017年8月 (1)
  • 2017年7月 (1)
  • 2017年6月 (2)
  • 2017年5月 (2)
  • 2017年4月 (2)
  • 2017年3月 (1)
  • 2017年2月 (1)
  • 2017年1月 (1)
  • 2016年12月 (3)
  • 2016年11月 (3)
  • 2016年10月 (2)
  • 2016年9月 (2)
  • 2016年8月 (6)
  • 2016年7月 (1)
  • 2016年6月 (1)
  • 2016年5月 (2)
  • 2016年4月 (1)
  • 2016年3月 (2)
  • 2016年1月 (1)
  • 2015年12月 (4)
  • 2015年11月 (2)
  • 2015年10月 (3)
  • 2015年9月 (2)
  • 2015年8月 (2)
  • 2015年7月 (1)
  • 2015年6月 (2)
  • 2015年5月 (2)
  • 2015年4月 (1)
  • 2015年3月 (2)
  • 2015年2月 (1)
  • 2015年1月 (1)
  • 2014年12月 (3)
  • 2014年11月 (1)
  • 2014年10月 (1)
  • 2014年9月 (3)
  • 2014年8月 (4)
  • 2014年7月 (1)
  • 2014年6月 (2)
  • 2014年5月 (4)
  • 2014年4月 (3)
  • 2014年3月 (3)
  • 2014年2月 (2)
  • 2014年1月 (2)
  • 2013年12月 (3)
  • 2013年11月 (4)
  • 2013年10月 (3)
  • 2013年9月 (1)
  • 2013年8月 (4)
  • 2013年7月 (2)
  • 2013年6月 (4)
  • 2013年5月 (6)
  • 2013年4月 (15)
  • 2013年3月 (21)
  • 2013年2月 (16)
  • 2013年1月 (16)
  • 2012年12月 (18)
  • 2012年11月 (24)
  • 2012年10月 (15)
  • 2012年9月 (16)
  • 2012年8月 (13)
  • 2012年7月 (17)
  • 2012年6月 (20)
  • 2012年5月 (20)
  • 2012年4月 (21)
  • 2012年3月 (34)
  • 2012年2月 (34)
  • 2012年1月 (30)
  • 2011年12月 (25)
  • 2011年11月 (19)
  • 2011年10月 (20)
  • 2011年9月 (15)
  • 2011年8月 (19)
  • 2011年7月 (19)
  • 2011年6月 (35)
  • 2011年5月 (29)
  • 2011年4月 (39)
  • 2011年3月 (21)
  • 2011年2月 (26)
  • 2011年1月 (22)
  • 2010年12月 (28)
  • 2010年11月 (21)
  • 2010年10月 (25)
  • 2010年9月 (19)
  • 2010年8月 (17)
  • 2010年7月 (28)
  • 2010年6月 (22)
  • 2010年5月 (26)
  • 2010年4月 (29)
  • 2010年3月 (31)
  • 2010年2月 (20)
  • 2010年1月 (11)
  • 2009年12月 (18)
  • 2009年11月 (20)
  • 2009年10月 (19)
  • 2009年9月 (28)
  • 2009年8月 (17)
  • 2009年7月 (19)
  • 2009年6月 (19)
  • 2009年5月 (13)
  • 2009年4月 (8)
  • 2009年3月 (10)
  • 2009年2月 (9)
  • 2009年1月 (10)
  • 2008年12月 (17)
  • 2008年11月 (11)
  • 2008年10月 (9)
  • 2008年9月 (13)
  • 2008年8月 (13)
  • 2008年7月 (13)
  • 2008年6月 (11)
  • 2008年5月 (12)
  • 2008年4月 (14)
  • 2008年3月 (13)
  • 2008年2月 (19)
  • 2008年1月 (14)
  • 2007年12月 (18)
  • 2007年11月 (22)
  • 2007年10月 (24)
  • 2007年9月 (17)
  • 2007年8月 (26)
  • 検索