【2017年11月20日】

『金色狼な妹と新婚スローライフ』わかつきひかる/三上ミカ の出だし公開です!

『金色狼な妹と新婚スローライフ』わかつきひかる/三上ミカ の出だし公開です!

ぜひご購入の参考に!

 

プロローグ
帽子を押さえてうずくまる妹に、石が次々に投げられる。
「魔物は村を出ていけ!」
「俺たちを騙していたのか!?」
「嘘つき! 最低っ、許せない」
「あんたたちはしょせんよそ者なのよっ」
リヒトは妹を守ろうとして、彼女の前に両手を広げて立ちふさがっていた。
――なぜだ。なぜ、こんなことになったんだ? グリッタが楽しみにしていたんだ。豊穣祭の楽しい夜のはずだったのに。俺はカフカス村を守ってきたのに。
木々から下げられた何十個ものランタンが、絶望と混乱にうちひしがれる兄妹を、皮肉なほどの明るさで照らしている。

カフカス村の豊穣祭。
リヒトは、村の広場で、妹のグリッタと腕を組んで踊っていた。速いリズムの舞踊曲だが、グリッタのステップは軽快だ。
腕を組んでくるっと回って顔の横で手を叩き、またくるっと回って手を叩く。
帽子の下で彼女の髪が揺れて金色に輝き、ドレスの裾が弧を描く。ドレスの胸元を飾る水晶石のネックレスが美しく揺れる。
笑顔が輝いていた。たくさんの踊りの輪の中にあり、体重を感じさせないグリッタのダンスはひときわ目立ち、視線が集まっている。
「グリッタさん。かわいいな」
ささやく声が聞こえてきた。
その通りだ。妹はかわいい。兄の欲目ではなく、ほんとうに美人になった。
ブルーダイヤモンドの瞳は笑みを含んで細められ、形のよい鼻梁とピンクの唇が続いている。金色の髪はランタンの光を弾いてきらきらと輝く。
細い首になだらかな肩。ドレスの胸を押し上げる形のよいふくらみ、きゅっとくびれたウエスト、ハート形にせり出した腰。ほっそりと長い手足。
十五歳の少女に特有の、成熟する寸前の硬さを残した、どこか不安定な美しさだ。くるっと回るたびに、首から掛けた水晶石のネックレスがきらっと光る。
「グリッタさんは、なんであんな大きな帽子をかぶっているんだ? 夜なのに。最近、いっつも帽子かぶってないか?」
「似合ってるからいいっすよ」
「ふたりとも、ダンスすっげぇうまい」
「身体能力が高いんだよ。勇者の家系だからな」
「シャルロットさんとグリッタさんと、どっちが魅力かな」
「両方ともだよ。シャルロットさんは綺麗で、グリッタさんはかわいいんだ」
シャルロットは十八歳。村長の娘で、男たちの人気を二分していた。
鄙には稀な垢抜けた美しさを持つシャルロットは、パートナーチェンジを繰り返しながら踊りを楽しんでいる。
「おーい、リヒト、兄妹で踊るなよー。俺たちもグリッタさんと踊りたいんだよー」
妹は青年たちの女神様だ。いずれはあの中の青年のひとりと結婚するのだろう。白いドレスを着て夫の横に立ち、神の祝福を受けるグリッタを想像すると、せつないような晴れがましいような複雑な気分になる。
「どうしたの? お兄ちゃん」
グリッタがリヒトに向かって笑いかけてきた。
「楽しそうだな」
「うん、すっごく楽しい」
「元気になったな。よかった。ここんとこ元気がなかったから、心配していたんだ」
「私、元気だよ。お兄ちゃんと一緒だったら、ずっと踊ってられるよ」
「そんなわけにはいかないよ。兄ちゃんはモテモテなんだぞ」
わざと軽い口調で言うと、まるでタイミングを合わせたみたいに嬌声が響いた。
「リヒトー。次は、私と踊ってーっ」
「ああ、なんてかっこいいのかしら。細身なのにがっちりして、二枚目だし、嫁になりたいわー。黒髪黒瞳って素敵よね」
妹がくすくす笑う。
「ほんとね。お兄ちゃんはモテモテよね。お兄ちゃんの嫁は、私がなりたいんだけど、ダメかなぁ?」
「それは困った。グリッタを女神様みたいに思ってるエランやビリーやデュークたちに、兄ちゃんが殺されてしまう」
村娘たちの話し声が聞こえてくる。
「リヒトは勇者だもの。魔物や野盗と戦うのよ。カフカス村の守り役なのよ。かっこよくて当然よ」
「あら、魔物はいなくなったんでしょ? リヒトのご両親が、命と引き替えに魔物を退治したのよね」
「そうよ。でも、野盗が来たり、災害が起こったりするかもしれないじゃない? リヒトは村を守ってくれてるの」
「そうね。増水のときは活躍してくれたよね」
「リヒトは二十三歳なんだから、そろそろ結婚していい頃よねぇ」
「ふたりとも大きくなったのう。あの兄妹、やんちゃなちびっこだったのになぁ。なぁ、村長さん」
「ほんにのう、魔物と戦って死んだご両親も、喜んでいなさるだろうよ」
青年たちがグリッタの愛らしさに見とれ、娘たちがリヒトの二枚目ぶりにため息をつき、お年寄りと村長が、兄妹の成長を喜ぶ。
手を組んでくるっと回ったとき、グリッタの帽子がひらっと落ちた。
音楽が止まった。皆がぽかんとして妹を見つめている。
グリッタの側頭部には、二対の三角錘があったからだ。
モフモフの犬耳はグリッタのかわいさを引き立てこそすれ損なうものではなかったが、村人の間に動揺が走った。
「えっ?」
「おい……」
踊っていた村人たちもダンスをやめ、妹を注目している。
グリッタは、震える手で帽子を拾うとすぐさま頭に乗せ、両手で鍔を押さえて座りこんでしまった。
「ひぐっ……えっぐ、ぐす……」
泣きじゃくる声が聞こえてきた。
リヒトは、妹を背中で庇った。
「魔物?」
「そんな……。勇者の妹が、まさか……」
「嘘だろ。俺たち、騙されていたのか……」
「でも、あの耳、魔物だよな?」
村人は動揺のあまり、どうしていいのかわからないとばかりに顔を見合わせている。
半獣半人の魔物は、数年か十数年に一度現れて、家を破壊し村人を喰らっていた。勇者の父と魔法使いの母が倒したが、村の人々にとって、魔物は恐怖と嫌悪の対象だ。
「魔物は村を出ていけっ!」
悲鳴のような声が上がり、グリッタに向かって石が投げられた。
リヒトはグリッタの前に立ちふさがる。憤りと怒りと驚きで頭が沸騰した。
「やめろっ!」
リヒトは叫んだ。
「グリッタは魔物じゃない。人間を襲ったりしない! 石を投げるのはやめてくれ。村長さん、なんとか言ってくれっ」
村長は知らんぷりだ。群衆心理に駆られた村人たちは、聞く耳を持たなかった。
グリッタを守ろうとして投げられた石をキャッチするが、全部防ぐことはできない。石はリヒトにもグリッタにも当たった。
「やめてくれっ。グリッタに石を投げるのは。エラン、ビリー、デューク! シャルロットさん、この人たちを止めてくれっ。アマンダ。君はグリッタの友達だろうっ?」
彼ら彼女らはそっぽを向いた。
友人たちの豹変ぶりは、リヒトを絶望させた。魔物より人間のほうが怖い。
「きゃっ。痛いっ」
妹の悲鳴が、反射だけで石を防いでいたリヒトを、正気に返らせた。
――グリッタを守らなくては……。
リヒトは頭上のランタンに向かって石を次々に投げた。ヒュッ、ヒュッと空気を裂いて飛んだ小石は、衝撃音とともにランタンを破壊し、ひときわ明るい光を放ちながら発光体を散らした。
明かりが次々に消え、フッと薄暗くなった。
「うわっ、な、なんだっ?」
村人のあいだに動揺が走る。人間は暗いと動きを止める。あたりが見えず不安になるからだ。リヒトは夜目が利くが、夜でも戦えるように自分を鍛えた結果だ。
「行こう」
泣きじゃくっている妹に手を伸ばした。
もう、村にはいられない。
違う。村にはいたくない。
「どこへ行くの?」
「山へ。耳もしっぽも隠さなくていいところへ」
グリッタは、ドレスのお尻を後ろ手に押さえ、知っていたの? とばかりに瞳を見開いた。涙に濡れて青い瞳が曇っている。
そして、こっくりと頷くとリヒトの手を取った。

村人が松明に火を入れたときには、勇者の兄と美少女の妹は消えていた。
グリッタのかぶっていた帽子だけが、ぽつんとひとつ残されていた。
第一章
リヒトは妹の手を引きながら、山道を歩いた。
「お兄ちゃん、戻ろうよ」
「いいから」
「私は大丈夫だから、ひとりで山に行くから。お兄ちゃんはカフカス村に戻ってよ。お兄ちゃんは勇者なんだから。村を守らなきゃいけないんだよ」
「その通りだ。兄ちゃんは勇者だ。みんなを守る使命がある。だけどよ。妹ひとり守れないで、何が勇者だよ!」
「…………そ、そうだね。お兄ちゃん」
「カフカス村の人たちも、もちろんグリッタも守ってやる。黙って歩け。夜の山は危険なんだぞ」
「うん」
夜の登山は大変だ。ランタンを下げているとはいえ、足元は見えにくいし、夜になると活動的になる猛獣もいる。
だが、ふたりとも、普通の人間ではない。戦うために鍛錬を重ねた勇者の兄と、獣人少女の妹は、さして困難もなく山道を登っていく。
梢の間で、二対の丸い金色のものがちらちらしていた。
リヒトは緊張した。手を横に伸ばし、グリッタに静かにするように合図する。
あの大きさだと猿だろうか。気配からすると一匹だけのようだが、猿は集団行動を取るため、何匹もいるかもしれない。
腰の剣に手を伸ばしたとき、猿がササッと地面を移動していった。
安堵の吐息をつくと、今度は山犬の遠吠えが聞こえてきた。
なんだろう? 今日は特別、動物たちが興奮しているように思える。
つないだ手に力をこめ、気配を殺して歩いていく。
山の中腹で、リヒトは足を止めた。
「たしかこのあたりのはず……。あった。あれだ」
グリッタが不思議そうに小首を傾げた。夜の暗がりの下では、オレンジの巨木が枝をしならせているようにしか見えないだろう。
雲が流れ、月明かりが巨木の上のツリーハウスを浮かび上がらせた。
巨木の枝の間に板を渡して作った家だ。扉からは縄ばしごが下がっている。
「わぁっ。すてきっ! ツリーハウスね。なんでこんなところに家があるの? なんて大きな木なのかしら」
「山から降りてくる魔物を監視するための見張り台だ。父さんと母さんが作ったんだ。バンブーで川から水を引いてるんだが、水道は壊れてるな。明日は修理だな。こっちはキッチンと食料保存庫だ」
木のうろに案内する。
「分厚い扉ね」
「テーブルなんだ」
木の扉を引っ張り出してテーブルにすると、妹が目を丸くした。歪んだ逆U字型のテーブルは、うろの入口をぴったり塞ぐ形に作ってある。
「これ作ったのお父さん?」
「母さんかも。母さんの魔法はすごかったから」
うろの中は、ひんやりとして涼しかった。奥には棚がしつらえてあり、鍋やケトル、フォークやナイフが並んでいる。
リヒトは壺をチェックした。
「乾燥野菜や保存食料がダメになってる。塩の瓶も割れてるし。紅茶もダメだな」
水と塩と食料がないと、山ごもりは難しい。絶望のあまり、とっさに妹を連れて逃げ出したが、リヒトの判断は正しかったのだろうか。村人に説明し、納得させることだってできたはずなのに。
猛獣のいる山に妹を連れてきたのは失敗だったのではないか。
後悔で顔が青くなっていく。
「平気よ。だって、山だもんっ! 鳥も魚もオレンジもあるわ。それにお兄ちゃんがいるもんっ」
妹は、両手を伸ばすとその場でくるくると回った。星明かりに照らされた金髪が、宝石のように光る。
このところずっと元気がなく、病気なのかと思うほどだったのだが、にこにこ笑っている妹はかわいい。笑顔が輝いていた。名前の通りのキラキラだ。
「腹減ってないか?」
「お祭りでごちそう食べたばっかりだよ。なんとかなるわ。大丈夫」
グリッタを見ていると、緊張と不安で気負っていた肩から力が抜けた。
その通りだ。山暮らしは過酷だが、勇者と獣人少女だ。なんとかなるだろう。
「ツリーハウス、入っていい?」
「もちろん」
グリッタはランタンを片手に持ち縄ばしごに足を掛けると、すいすいと登っていく。
ツリーハウスは高い位置にあり、縄ばしごを登るのは容易なことではない。まして今は夜だ。
「大丈夫か?」
心配のあまりランタンを掲げたところ、ドレスの中を見てしまい、あわてて目を反らす。
スカートの中で犬しっぽがゆらゆらしているのがばっちり見えたからだ。
グリッタはあっさりと縄ばしごを登りきると、ツリーハウスの扉を開けて中に入った。
「お兄ちゃん。けっこう広いよーっ。ベッドもテーブルも椅子もあるよ。ふふっー。羽根布団だーっ」
リヒトも縄ばしごを登ってツリーハウスに入る。手に持っていたランタンを、天井から下がっているフックに掛けた。テーブルの中央には妹が持っていたランタンが置いてあるので、部屋はほんのりと明るい。
窓から差しこむ星明かりのせいもあり、ベッドの上をごろごろしているグリッタのしっぽが見えた。
スカートがめくれて真っ白な太腿とお尻の丸みを包むショーツ、尾骨から生えた金色しっぽがのぞいている。先端だけがわずかに黒い。
「ごほんっ」
わざとらしく咳払いをすると、グリッタは、お尻が丸出しになっていたことにやっと気付いたいたらしく、しっぽを後ろ手に押さえてベッドに座った。しっぽの先端がお尻の丸みに添ってくるんと丸まる。
「お兄ちゃん。その……知ってたんだ?」
「ああ」
リヒトは椅子に座り、ベッドに腰掛けている妹と話した。
「いつから?」
「最近。グリッタが帽子をかぶるようになった頃から」
「そうなの。私ね、急に耳としっぽが生えたの。あわてちゃって。とりあえず隠そうって、帽子をかぶったの」
「相談してくれたらよかったのに」
「言えないよ。勇者の妹が魔物になってしまったなんて」
「グリッタは魔物じゃない。魔物は知能が低くて欲望だけで生きているが、グリッタは自分で考えて行動しているだろ」
「じゃあ、私はなんなの?」
「獣人だ。昔、大陸の東に獣人の国があったそうだ。戦争が起こって獣人の国はなくなったらしいんだが、獣人は戦争のあとも生き延びて、いろんな国で生活している。耳としっぽが出てきたのは、大人になった印なんだよ。いいことじゃないか?」
獣人は、子供は人間と同じ姿だが、思春期になって第二次性徴を迎えると、耳としっぽが生えるという。
グリッタは大きな瞳を見開くと、小首をかしげてふふっと笑った。
彼女の背後で、しっぽがもっふもっふと動いている。犬の獣人少女にしては大きすぎるのではないかと思うほどの立派なしっぽだ。
しっぽの動きが、グリッタが機嫌を直したことを示していた。
「私、お父さんとお母さんの子供じゃなかったんだね」
「ああ。そうだ。父さんと母さんが、仲間たちとパーティを組んで魔王討伐に行ったとき、旅先でグリッタを拾って帰ってきたんだ」
旅から戻った両親が布に包まれた赤ん坊を差し出したときの驚きは、今も鮮明に覚えている。
――あんたの妹よ。グリッタっていうの。守ってあげてね。
当時、リヒトは七歳だった。
赤ん坊は温かく、ふわふわでミルクの匂いがして、リヒトに向かって笑いかけていた。
かわいくてかわいくて、胸の奥がきゅーっと疼いたことを覚えている。
「おかしいと思っていたのよ。私が金髪碧眼で、お兄ちゃんが黒髪黒瞳だもん」
「俺は父さんに似て、グリッタは母さんに似たんだよ」
「拾われっ子なのに」
「でもよ。グリッタと母さんはそっくりだぜ。子供ってさ、育ててくれた人に似るんだよ」
グリッタはふふっと笑った。
「お父さんとお母さん、私が獣人少女だと知っていたら、拾ってくれたかな?」
彼女の背後でゆさゆさしていたしっぽが動きを止めた。
まっすぐに立っていた三角錐の犬耳も、不安そうに下を向く。
「拾ったよ! 当然じゃないか!?」
頭をぽんぽんすると、しおたれていた耳がぴこんっと立ち、しっぽがばっさばっさと大きく揺れた。
「えへへ。頭ぽんぽん好き。気持ちいい」
大きな瞳を三日月のように細めてうっとりしている。
かわいい。すごくかわいい。
「グリッタは勇者と魔法使いの娘で、兄ちゃんの妹だよ。グリッタは、神殿学校でも、かけっこはいちばん速かっただろ?」
「実はね。コンプレックスだったんだよ。なんで私だけ足が速いのか、力が強いのかって思ってた。獣人少女だったなんて知らなかったから」
「そうなのか! 兄ちゃんは鍛えまくってやっとグリッタと同じぐらいだぞ。グリッタはいいなぁって思ってた!! 身体能力が高いって、すごいことなんだぞ!」
しっぽがうれしそうに、ふっさふっさと大きく揺れた。しっぽは言葉よりも饒舌に、妹の気持ちを伝えてくる。
グリッタは苦しんでいたのだ。誰にも言えずひとりで。
兄なのに、妹の苦しみをわかってあげられず、それどころかグリッタが離れていくのではないかと思い、淋しい思いをしていた。
「ふふっ。大好き。お兄ちゃん」
妹がぱふっと抱きついてきた。
メロンのように瑞々しく実った胸乳が押しつけられ、甘酸っぱい体臭が鼻孔をくすぐる。引き離さなくては、と思いながらも、背中に回した手に触れるふわふわしっぽが心地よい。
好奇心に負けてしっぽをなでなですると、グリッタがせつない声をあげた。
「ああ……っ。だめ、お兄ちゃん……しっぽ、くすぐったいの」
「あっ、そ、そうなのか!? ごめんっ」
あわてて抱擁をほどこうとしたが、グリッタがきゅっと抱きついて離してくれない。
「好きよ。お兄ちゃん。私をお兄ちゃんのものにして」
「えっ、ええっ? そ、その……」
「お兄ちゃんは私が嫌い?」
「す、好き……だけど……」
妹だからと封印していた感情があふれ出す。
そうだ。リヒトは、グリッタが好きだ。
無邪気に甘えてくるかわいい妹。手を出してしまいそうで怖かった。
「大好き。お兄ちゃん。私のはじめて、もらってほしいの」
頬をスリスリしながらねだってくる。甘酸っぱい体臭が鼻孔をくすぐる。すべすべと弾力のある、柔らかい肉体が触れ合ってくる。
――いいのか。妹だぞ。
――血はつながっていないんだから……。
――だめだ。俺は、妹を守らなくてはならないんだぞ。
男としてグリッタを欲しい気持ちと、兄として妹を守りたい気持ちがせめぎ合い、リヒトは義妹を抱きしめたままで呆然としていた。
「私は獣人少女だから……、だめなの……?」
「ダメなもんかっ!」
リヒトは妹をベッドに押し倒して覆いかぶさると、唇を重ねた。ふたりの距離がゼロになった。グリッタのぷるぷるひんやりした唇の感触が新鮮だ。
自分から誘ったくせに、義妹は驚いたように目を見開き、がちがちに歯を噛み合わせている。舌先で歯列をなぞると、紅唇がわずかに開いた。
「んっ、……あぁっ……はぁ……」
緩んだ歯のあいだに素早く舌先を入れて、彼女の舌を絡め取る。舌先をちゅっと吸うと、義妹の身体にぶるぶるっと震えが走った。
グリッタのキスは甘く、オレンジの味がする。
舌先が猫のようにザラザラしていて、舌を絡め合わせるとゾクッと来る。
「んっ、んっ、んんっ」
深いキスを重ねていくと、グリッタが目を閉じた。長い睫毛が伏せられて、整った顔立ちに陰影をつける。

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