【2018年10月16日】

『I WANT YOU! 魔王はキミを求めてる』出だし公開

序 名も無き者
「もういい。限界だ――君には失望した」
若く精悍な戦士の、けれどややいらだった声が、辺り一面に響き渡った。
「同じ勇者の血を引く者として、多少なり恩恵を受けていると信じて仲間に加えたというのに、貴様は……」
――声が怒りに震えていた。
「ガスプ、だけど……」
「……貴殿が悪いわけではないとは思うが、これは我々みなの命と世界の命運とを賭けた旅なのだ。ガスプ殿が否と言われる以上は、私も弁護は出来ない」
戸惑い混じりに弁明しようとした僕の声を、鎧に身を固めた偉丈夫が押しとどめた。
「オッゾ……」
「ま、しょーがないわよね。名前だけの勇者じゃ、この誉れ高い戦隊には釣り合わないもの」
角型帽を目深にかぶった魔女も、やや居丈高にガスプの発言に同意した。
「ソラニア……」
突然のことで僕には理解出来なかったが、三人の息がこれだけ合っているということは、事前に意見はまとまっていた――ということなのかも知れない。

「お前とはここまでだ、ライト。解雇する」

「名も無き者に戻れ」――その彼のひと言で、男は勇者の戦隊をクビになったのだった……。


「……っ!?」
ダンダンダンダン!
「治癒師さま! 治癒師さま!」
最悪の目覚めだった。気づくと誰かが懸命に部屋のドアを叩いている。
「うう、待って。今開けますから……」
安酒をあおって眠ったのがいけなかったのか、頭痛がひどい。軽く頭を振って、男はよろよろと起き上がった。

「……さ、これでどうかな」
呪文を唱え、手で患部をなぞると、傷がゆっくりとふさがり、再生していく。
「ああ、ありがとうございます。もう痛みもありません」
仕事中に商売道具で怪我をしたらしい。鍛冶屋の親父さんは恐縮しきりだった。
「大丈夫かとは思うけれど、もし痛むようならもう一度来なさい。その時は傷の毒抜きをするからね」
傷がふさがっても穢れが残り、それが新たな痛みを呼んでしまうこともある。
「がはは、大丈夫ですよ治癒師さま! あっしはもうこの通り、ピンピンしてますぜ。気にしすぎですとも!」
「そうかな。まあ、そうかも知れないね」
改めて注意を促そうとしたけれど、治癒師はそこで言葉を継ぐのをやめた――このお節介焼きの性格が元で、自分はクビになったのではなかったか、と。
「じゃあ、これで終わりだ。傷はふさがったけれど、あまり無理はしないように」
「へい! それであの、お代の方なんですが……」
鍛冶屋は顔色を伺う。あまり持ち合わせがないのか――治癒師は直感でそう思う。
「そうだね。じゃあ、僕の相棒の手入れを頼んでもいいかな」
「そ、それでよろしいんで!?」
「お願いするよ。ちょっと年季が入っているけれど……」
部屋の隅に立てかけていた戦鎚を取り、鍛冶屋に渡す。
「任せて下せえ。他の仕事を飛ばして、すぐに取りかからせてもらいまさあ!」
鍛冶代に較べれば、治癒術の代金の方がよほど高いのだから、鍛冶屋の喜びようもわかりやすく顔に出た。鎚を預かると、鍛冶屋はいそいそと部屋から出ていく。
「…………ふう」
起き抜けの来客をこなし、部屋が静かになって――男は小さくため息をついた。
このままこの街に家を借りて、治癒師として生きていくのもいいのかも知れない。そう思った瞬間に、襲ってくる頭痛がゆうべのヤケ酒を思い出させ、本当はそんな気がカケラもないのだ、ということを思い知らされる。

男の名前は、ライト――ライトゥーサ・トエル・バルガンスハルトと言う。
何だか偉そうだけれど、男はこれでも「勇者」の子孫なのだから仕方がない。
ただ――。

大六世界と呼ばれるこの世界には、太古から「魔王」率いる魔族と、地上に居を構える人類、亜人類たちとの抗争が続いていた。
地底に存在すると言われる、「魔界」に棲むこの魔族たちは、唯一地上に繋がっていると言われている「魔王の城」を拠点に、地上に侵攻を繰り返している。
今この時も、魔王城周辺では地上の各国から派遣された騎士団が取り囲み、魔王の眷属を地に蔓延らせないように――という睨み合いが続き、それが間もなく二千年の長きに達しようとしていた。

しかし二百年ほど前、ある戦士たち六人の戦隊が魔王城に攻め入り、当時の魔王を撃ち倒した――それが「勇者」だ。彼ら彼女らは、列国の王たちから叙勲を受け、家門を安堵され、晴れて一代の英雄となった。
英雄たちはその後、みなそれぞれに子孫を多く儲けて家を発展させていった。
魔王を倒すことは出来たが、魔王城に施された太古の呪いは強力で「地底からの移動手段」である城そのものを破壊することは不可能だった。つまり、魔族の侵攻そのものを完全に食い止めることは出来ないと、勇者たちは身を以て知っていたからだ……そして。

「勇者の血、と言われても……こんなに大安売りではね」
そう、勇者の子孫――勇者の血族は二百年の間にその数をいや増すと、その名を持つ家門はすでに百を超えてしまっていた。今や、勇者の血族というだけでは実力の証明になりはしない。すっかりとそんな時代を迎えてしまっていたのだった。
ライトもそんな「名前だけ勇者」のひとりだった。分家の分家のそのまた分家、バルガンスハルト家はその頭に「遠縁」という冠がわざわざつくほどに末端の分家なのだ。
とはいえ、勇者の血筋であることには疑いない。折しも新たな魔王が魔王城に出現し、その野望の毒牙を地上世界に伸ばし始めて十年――魔王討伐の意志なしとなると、家門ごと「子孫失格」という烙印を市井から捺されかねず……ヴァリム神の修道士を目指して修行していたライトも、やむなく破戒して戦隊に参加することにしたのだが……。

「お前とはここまでだ、ライト。名も無き者に戻れ」

「ダメだ。また気が滅入ってきた……」
そんなことを少しでも考えようものなら、すぐに戦隊リーダーであったガスプのあの「解雇の言葉」が脳内に甦ってきてしまう。昨日も頭からその場面を追い出したくて、慣れない深酒に手を出したばかりだというのに。
「はぁぁ……」
追い出されてみて、自分自身、思った以上にあの戦隊に思い入れがあったのだ、と気づかされるライトではあった。
――戦隊「救世の旅団」
鼻持ちならないところはあるが、戦士としての実力は折り紙付き、使命と意欲に燃える「勇者本家」の血を引くガスプ。
大貴族の出でありながら、勇者の覇業の支えとなるべく、戦いの時にはいつも進んで前に出ていく聖騎士のオッゾ。
そして才能と野心を隠そうともしない、燃えるような赤髪の女魔法使いのソラニア。
「……考えてみれば、確かに僕では釣り合わない仲間だったかも知れないが」
それでも、あの戦隊にいなければ、今の自分はなかっただろう――新しい魔王に対する危機感も、戦う者としての自覚もなく、日々をただ漫然と過ごしていただろうことは間違いない。
ライトとしては、自分なりに戦隊に尽くしてきたはずであった。様々な治癒や解呪の法術を修め、戦術を学び、身体を鍛えて近接格闘の術も学んだ。仲間それぞれへの心配りも彼なりにしてきたつもりだったのだか……どうやら、それが裏目に出てしまった。
ライトの、自信のなさ故の神経質さから時折発せられる心遣いの言葉――それが、高い矜恃を持つ他の三人には受け容れがたいものだったのだろう。
ひとつひとつの疑問や助言が大したものではなかったとしても、それが積み重なっていくと、それが心の中で大きな不快の感情に繋がっていく……そして気がついた時には、それが不可避の、耐えられない嫌悪に至ってしまったのだった。
もちろん、ライト自身にはそんなことが気づけるわけもなく……こうして、放逐後の無為な時間を過ごしている。
「……こうして悩んでいても、戦隊に復帰することはもう出来ないんだ。路銀もまだ十分にあることだし、少しゆっくり休もうかな」
正直、それは言いわけだった。いまだに頭が真っ白で、どうすればいいかライト自身にもわからないだけなのだった……。
一幕 黄昏の戦隊
「ライトさん、お客さんが見えていますよ」
それからしばらく、ライトは自身が置き去りにされたルーデントの街で宿屋に逗留しつつ、その路銀を街の人々の治療で賄っていたのだが。
「……客?」
ある日、ライトが「往診」を済ませて宿屋に戻ると、宿の女主人に声をかけられた。
「ええ。救世の旅団のライトがここに逗留しているだろうと……帰ってくるまで待つと言われるので、酒場の方にご案内しましたが」
宿である「シオルの竪琴亭」は、一階が酒場、二階が宿屋というこの世界ではよくある店構えをしている。
「そうか。行ってみるよ……ああ、治療の礼で野菜をもらったんだ。宿で使って」
「あら、よく熟れた袋茄子! 宿代、負けておきますから!」
よほど受け取った野菜の出来がよかったのか、女主人は鼻歌まじりに帳場に引っ込んだ。彼女が酒場で出す煮物は、その味のよさで街の名物のひとつに数えられている。
「さて……誰か知っている相手だといいんだが」
ライトの所属していた「救世の旅団」の名は、魔王討伐者候補の筆頭として知れ渡っている。相手が誰なのかはライトにもまったく予想が出来なかった。

「ライト殿」
真昼を過ぎて、少し薄暗い酒場に入っていくと、相手が椅子から立ち上がりライトを見た。背の低さのせいでまだ幼い少女のように見えるが、その明るい髪色、そして魔装甲冑と大剣の組み合わせには微かに見覚えがある。その横には、長身長髪黒髪の、この辺りでは珍しい形の鎧に身を包んだ、やや年上に見える少女――帯刀している。恐らくは彼女の仲間なのだろう。
「君は……確か、どこかの魔洞で――」
「……以前、ワルトマの魔洞で仲間を助けてくれたことがあった。覚えていたか」
無表情に、ぼそり、という感じの口調。明るめの見た目からは少し様子が異なる。
「予はイムエル。この黄昏の戦隊を率いている」
けれど、その声色そのものはまるで清涼な鈴の音のように透明で、不思議な魅力を持っていた。
「そうだったね。ええと、それでここにはどういった用件で……」
無言で席を示されて、ライトは向かい合わせの席に着く。
「……風の噂で、そなたが救世の旅団をクビになったと聞いた」
「うぐ……っ」
グサッと――。
イムエルの端的な物言いが、ライトの心に深々と突き刺さった。
「ど、どうした。何かつらそうな顔になったが……予は何かおかしなことを言ってしまったか?」
「い、いや……じ、じじ、事実だしね……は、はは……」
微かに眉根を下げて、イムエルは困惑を覗かせた。悪意はないようだが、その言葉がライトをどんな気持ちにさせるのかは理解していないように見える。
「ええと……」
そこで少女の唇は止まってしまう。自分の言葉が、ライトに予想外の反応を引き出してしまったことに気づいて、戸惑っているようだ。
「……予の戦隊に加わって欲しい」
「は……」
その言葉を聞いて驚いた。こんな年端もゆかぬ少女たちの戦隊に、自分が? ライトは、まずそう思った。いやそもそも――。
「噂に聞いたと言うのなら、その、僕は戦隊をクビになったようなヤツだよ?」
「それは聞いているが」
「なら……」
「何か問題があるのか?」
イムエルは強気だった。というか、そんなことはまったく意に介さないというか……そもそも、彼女はずっと無表情のままだ。
「いや、その……」
正面切って気にしないと言われると、逆にライトの方が困惑してしまう。当然、その噂には悪い話が尾ひれとしてついて回っているはずなのに。
「じゃあ逆に、どうして僕を戦隊に加えようと思ったの?」
「クビになったと聞いて」
「いや、えーっと……確かにそれも理由だけど、そ、そうじゃなくて!」
話が噛み合わない。いや、質問には答えてくれているのだが……ライトは正直、途方に暮れた。
「……仲間が、そなたならいいと、そう言ったのだ」
「え……」
「覚えているか。ワルトマでそなたが治療してくれた、予の仲間のことだ」
「あ、ああ……あの子ですか」
黒づくめの外套を羽織っていたが、声を聞く分には少女のように思えた。そう言えば、彼女たちは女ばかりの三人の戦隊だった。それをライトは思い出していた。
「あれは予よりもよほど人見知りで……お陰で仲間を増やせずに困っていた。そこに、そなたがクビになったという噂だ。それでこうしてやって来た」
「……そう、か」
「これから魔王城に近づくにつれ、戦いは厳しいものになる。今までは三人でどうにかやって来たが、これからはそうも行くまい。予の戦隊は剣士が二人に魔法使いが一人だ。戦力としてはそなたのような修道兵がいてくれるとありがたい」
聞いてみれば、思ったよりもまともな理由ではあったが……しかし。
「とはいえ、女所帯の戦隊に加わるというのは……」
以前の戦隊にもソラニアがいたが、彼女ひとりのために、他の仲間たちは色々と気を遣っていた……もっとも、ソラニアの気位の高さも要因のひとつではあったのだろうけれど。
「……それは、何か問題があるのか?」
「えっ……」
問題は大ありだった。戦隊の行動というのは基本野外における冒険の繰り返しだ。つまり、生活における生理活動も総て外で行われる。ソラニアなどは外で用を足すためにわざわざ姿をくらます隠行の術式を使っていたくらいだ。
「つまり、その……」
年端もいかぬ少女に、そんな説明をするのは気が引ける。ライトが躊躇していると、ドン! という音が響いた。異邦の鎧を着たもうひとりの少女が、刀鞘の尻を床板に強く突いたもののようだ。
「間怠っこしい! 我が主君の提案に、如何なる不服があると貴殿は言われるのか!」
「えっ!? いや……」
今まで一言も発しなかった少女の、突然の豹変にライトは驚いた。
「おい、サイアン……」
「慈悲深き魔王イムエルさまが、これほどまでに膝を交えたご提案をされているのに、貴殿は……!」
「わわっ……ば、バカっ……!!」
それを聞いて、今度はイムエルが慌てた。何やら呪文を口走ると、ライトの視界がぐらり、と揺れた……!

「ん、んん……?」
次の瞬間、ライトの身体は見知らぬ場所にあった。まだくらくらする頭を押さえて周囲を見渡す――散らかっているが、どうやら旅に使われる幌馬車の中にいるようだ。
「ばか! サイアンのあんぽんたん! おたんこなす!」
「うあぁ……も、もうしわけござりませぬー……!」
遠くから、少女たちの言い争う声――というか、一方的に叱りつけられている声が聞こえた。それで、直前の遣り取りを思い出す。
(そう言えば、魔王とか何とか言っていたな……え、魔王!?)
ライトの心中を嫌な予感が駆け巡ったが、しかし叱り叱られている彼女たちの声は何やらかわいらしいというか、吞気というか……どうにもイメージからかけ離れていた。
「きが……ついた?」
「うわっ!? あ、ああ……君は確か……」
気配はしなかったのに、声をかけられて驚く。そこにいたのは、かつて助けたことのある黒い法衣を着た少女だった。彼女も戦隊の仲間なのだろう。
(それにしても、随分と散らかっているな……)
彼女たちの馬車なのだろうけれど、物資が雑に積み上げられ、散らかっている。もちろん馬車なのだから、考えて収納しないと、走らせるたびに荷物は散乱するのだが。
「……話、聞いてみるか」
不思議と、逃げようという気にはなれず、ライトは声のする方へと歩いていくことにしたのだった……。

「ライト! そなた、もう起き上がっても平気なのか?」
「え、ああまあ……ちょっとまだ目まいがしてますけどね。幻惑の術でも使いましたか?」
「その、すまない……この能なし骸骨女が不用意なことを街中でわめき立てたものだから。一応慌てて逃げ出してきたのだが」
「うう……」
能なし、と言われた彼女は、涙目で地べたに頭をこすりつけている。
「ええと、じゃあ……やっぱり君は……」
イムエルは、無表情の上にほんのり気まずさを乗せると、小さく肯いた――次の瞬間、黒い炎と共に、彼女の頭には大きく、そしてねじくれた二本の角が現れた……!
「予は先代の『魔王』――イムエルミナ・アバンドーラ・センデベルケ・ランスマスカ・エデリス・ミアランデルス・ラザス・マルヴァスだ。勇者の子孫よ」
確かに、そのねじれた角は魔族の証だ。しかし、魔王が戦隊を率いているというのはおかしな話でもある。ライトにはその矛盾が理解出来ない。
「それで……正体を僕に教えて、どうするつもりです。殺すのか?」
着の身着のままで連れ去られ、武器は宿に置き去りだった。身を護るのは呪文くらいしかないが――それでも、ライトは身構える。
「いや、だから仲間になって欲しいのだ。本当は仲間になってくれるという話になったら、正体を明かすつもりだったのだが……」
「は……?」
ライトは混乱する。いわゆる「世界の半分をくれてやろう」的な話なのだろうか?
はたまた……とにかく、総ての状況が噛み合わなかった。

「予はその……逐電した元魔王なのだ」
イムエルが長々としてくれた話というのは、要約すると、彼女が魔王の座がいやになって逃げ出した先代の魔王で、今の魔王を倒すために旅をしている――ということだった。
「だけどその……イムエルさん、逐電ってことは、逃げ出したんですよね? それなら放っておいてもいいのでは? 魔王に返り咲きたいのですか」
「イムエルでよい。正直、予も放っておきたいところなのだが……魔族の民たちが困っているようなのでな」
「困る……?」
「現魔王となったバンドレアスが、暴政を布いておるそうだ」
「暴政、ですか……」
「元々魔族というのは気性の荒い連中の集まりではある。だが、そんな魔族が悲鳴を上げるような事態に陥っているらしい。のんびりと地上で暮らしていた予の元に、命からがら惨状を伝える者がやって来てな」
「な、なるほど……」
「予としても、王位を放り出した責任を多少なりと感じてな。返り咲く気はないのだが、現在の魔王を排斥するというなら、それが出来るのは魔族では予だけなのだ」
「で、その旅へ、僕に参加しろということですか……」
「お願い出来ないだろうか。予の仲間は見た通り、どうにも少々頼りなくてな」
「そ、そんなぁ、イムエルさまぁ……」
叱られてから、ずっと土下座のし通しだった黒髪の少女が、涙目になって脚にすがりつく。気が短いようだが、忠義の者ではあるらしい。
「人間や妖精どもにとっても、現魔王は脅威であるはず。悪い話ではないと思うのだが……どうだろうか」
確かに彼女が言う通りだった。今の魔王が魔王城に現れてから、魔界からの地上への干渉が激しくなり、それ故に各国から討伐令と共に、多くの戦隊が魔王城に向けて旅をしている途中なのだった。
「……わかりました。そういうことであれば」
少し悩んだが、結局、ライトはそう答えた。何より、真っ直ぐな目をしたこの少女が、どうにも魔王らしからぬところに、不思議と心を惹かれていた。それに、いつまでもこの街でくすぶっていても何にもならないのだから。
「受けてくれるのか。ありがたい」
刹那、魔王を名乗る少女は柔らかく微笑む。
「うっ……いえ、こちらこそ、よろしく……」
その姿は、何とも可憐でかわいらしく思えて、ライトは、ハッと胸を突かれるような気持ちを味わったのだった。

「改めて紹介するぞ。予はイムエル、剣技と魔法を修めている」
そんなわけで、ライトは正式に黄昏の戦隊の一員となることに決まったのだが……。
イムエルは明るい髪の少女で、身体を魔装甲冑で覆っている――いや、覆っている面積よりも露出している肌の面積の方が多いのだが、魔装甲冑というのは魔力で防御を高める魔具で、余計なものは着ていないのが正義と言われている。
手にしている得物は、これまた少女が振るうにはすぎる大きさの大剣で、恐らくは魔力による筋力強化、もしくは剣の軽量化が前提の戦闘様式を取っているのだろう。
「これはサイアン、骸骨剣士だ」
「ス、スケルトン……!?」
――そして紹介された仲間たちも、みんな一筋縄ではいかない面々だった。
「拙は砦按と申す。縁あってイムエルさまに侍う者にて。これまでの無礼はどうか平にご容赦願いたい」
「ええと、今、骸骨兵って……?」
骸骨兵と言えば、墓地に埋葬した白骨に、悪霊が取り憑いて生み出される怪物なのだが、目の前にいるサイアンは、普通に少女としての瑞々しい肉体を持っている。
「サイは、予が逐電する際、異境の地で予の魔力に感化されて白骨から甦ってしまったのだが……何しろ骸骨兵のままでは忠義を尽くされてもな」
筋と肉がなければ口も利けないし、剣を滑らかに使うことも出来ない。だからこそ、骸骨兵というのは弱いというのが定説になっているのだ。
「だから、予が魔力を使って受肉させた。大分魔力をつぎ込まされたが、元は取れるほどの腕前にはなったな」
「はい。生前はアノツの国にて剣を生業としておりました故! こうして人として甦らせていただいたこの大恩、生涯の奉公にてお返しする所存――ただ拙はその、生前は男ではなかったかと記憶しているのですが……」
「しょ、しょうがなかろう!? 骨を見ただけでは男か女かなどわからぬのだから……かわいい女の子になれたと思って第二の生を生きるがよいぞ」
「さ、さようにて! こうして人に戻れただけでも、感謝にたえませぬ……」
「あは、あはは……」
確かに、骨から性器やらおっぱいやらを確かめる術はないわけで……ライトは思わず苦笑する。
「しかしこんな少女の態ではあるが、サイアンは剣については達人級の技倆を持っている。きっと生前はかなり名のある剣豪だったのだろう」
「お恥ずかしい限りであります……えへへ」
剣の腕を褒められると、サイアンは少女らしく照れてみせた。中身は老いた剣豪なのか……とちょっと素直に喜べない気もしたが、いずれにせよ彼女にとっては今の姿が総てなのだ。
「それで最後が……これ、アヌ」
黒い法衣を着た少女……背はイムエルよりも高いのだが、まるで叱られた子どものように、イムエルの背中にしがみついていた。
「わたし、あぬ……らいと、よろしく……うぅ」
幼い言葉遣いが恥ずかしいのか、イムエルの後ろでもじもじと身体を揺すっている。
「アヌは黒妖精だ。魔法使い……とは言えないか。呪術使いと言うべきだな。強力な呪術を操るが、ちょっと加減が出来ないのが玉に瑕だ」
「ごめん、いむ……」
「よいのだ」
しゅんとするアヌに、イムエルは気にする風もなく頭をなでる。それだけで、魔王としての彼女の器の大きさを見たような気持ちにさせられる。
「ではライト、今日からはそなたも仲間だ。よろしく頼む」
「ああ、その……よろしく、頼むよ」
こうして、ライトの新しい戦隊での日々が幕を開けたのだった。

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