【2019年3月22日】

美少女文庫でお花見!?②~『桜の咲く頃僕は妹と再会する編~

桜の咲く頃、僕は妹と再会する。

わかつきひかる/樋上いたる

桜が印象的な作品です 

 

「お客さん。このあたりですね」
「ありがとうございます」
 料金を払ってタクシーを降りる。
 きりん公園は、昔と変わらなかった。
 きりんの目が眠たそうなのも。
 ブランコとシーソの遊具も。滑り台も。
 真ん中の水銀灯も。
 公園の周囲に植えられた桜の木も。
「かわらないねぇ。きりん公園。懐かしいなぁ。あれ。ベンチは新しくなってる」
 クマのぬいぐるみを胸に抱いた桜子は、なつかしそうな声をあげた。
「ほんとだ。昔はもっとボロボロだったよな」
「体調のいいときしか遊べなかったのよね。たまに遊ぶときは楽しかったなぁ」
 桜子はしみじみした口調で言った。
「私の桜はどれだろ?」
「あれじゃないか?」
 公園を囲むように植え付けられた桜は大木なのに、一本だけ桜子の背丈ほどの桜が合った。
 大木の影に隠れて見えなかった。
 満開だった。
 濃いピンク色の花を枝からこぼれんばかりに咲かせている。
「綺麗……」
「桜子の花だな」
 優一は、スマートフォンを彼女に向けて写真を撮った。
 ひょろひょろと細い枝に咲く桜は、貧相でありながら華やかだった。
 桜子そのもののように。
「私、これが見たかったんだ」
「生き返ったかいがあったな」
「私、そろそろ消えるから言うけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんの人生を生きてね」
「ああ、俺、江府蘭大学を休学して、一年間予備校の医大コースに行くよ。そんでもって、来年の今頃は、帝王医科歯科大学の学生だ」
 優一は、わざと軽い口調で言った。
 簡単な道ではない。
 今の優一の偏差値は、おそらく五十程度。七十五まで上げるのは至難の業だ。
 だが、それでも。やってやる。
 桜子みたいに難病で苦しむ子供を救いたい。
 中学三年のときの医者になりたいは、たんに成績がいいからというだけで安易に考えていた。だが今は、本気で医者になりたいと思う。
 人生には回り道も必要なのだ。
「俺、がんばるから、天国で見守ってくれ」
「私、天国、行けないんだ」
「閻魔様をボコッたからか?」
「そうなんだ。えへへ」
「えへへじゃないだろ! なんでそんなことまでして生き返ったんだよ?」
「私ね。お兄ちゃんに、ありがとうとごめんを言いたかったの。私がお兄ちゃんに掛けた呪いを解きたかったの」
「呪いなんかじゃねぇよ。俺が勝手に自分で掛けたんだよ。呪いは溶けたよ」
 妹の姿がどんどん薄くなっていく。
「桜子。おい、消えないでくれ」
「閻魔様は時間を戻して、私がいたことそのものをなかったことにするけど、私、いつか必ず、お兄ちゃんに会いにいく」
 妹はもう、ほとんど見えない。
 優一は妹を抱きしめようとしてスマートフォンを持ったままで腕を伸ばした。
 その手はすかっと空気を通した。
「またね。お兄ちゃん」
 妹は完全に消え失せた。

           ☆

 スマートフォンが落ちた。
「あっぶねぇ」
 優一はびっくりしてスマートフォンを拾い上げた。
 アパートのコンクリートの廊下に落ちたにもかかわらず、スマホは無事だ。
 しゃがんだ表紙に食材が入ったスーパーの袋からネギが落ちた。あわてて拾い、もう一度袋に突っ込む。
「あれ?」
 待ち受け画面がパンケーキだった。
 食べかけのパンケーキを前にして、まるで誰かが座っていたかのように空席がある。優一はその横で、にこにこしている。
 ――俺、こんな写真撮ったっけ?
 違和感を感じてスマホをいじる。
 桜の写真があるが、撮った覚えがない。しかも、写真が横にあり、ひどくバランスの悪い写真だ。
 首をひねりながら、英検について検索しようとして、検索窓に「医大受験、奨学金」と文字を入れた。
 ――なんかおかしいな。
 ――へえ。地方の医大の場合、地方に就職すると返さなくてもいい奨学金が貰えるのか。公立は医大でも安いんだな。
 優一はついおもしろくなってしまって、興味の赴くままに検索を続けた。
 優一の今の偏差値は五十程度。医大の偏差値は七十を越えている。
 一年で二十上げるのは困難だが、できないことはない。
 優一は、その思いつきに夢中になった。
 ――桜子みたいな、難病の子を助ける医者になりたい!
 身体の奥から力が湧いてくる。
 ――俺はできる。絶対できる。
 自学自習では無理だ。大学を休学して予備校に行こう。予備校のお金は……。
 優一は父に電話をした。
「父さん。俺、来年医大受けたいんだ。つきましては先立つものが必要でございまして」
 揉み手をしながら話す優一に、父はあっさりと言った。
「ああ、いいぞ。桜子の見舞金があるから、それをやるよ」

 

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