プロローグ
鮮血が舞い、漂う鉄の臭いに鼻を刺激される。
それはわずかに身を震わせた矢先に糸が切れたように転がった。
月明かりに照らされた地面が赤黒く染まっていく。夜間とはいえ、悲鳴の一つでもあげれば誰かが駆けつけてくることもあったかもしれないが、男は目の前の惨劇に竦んでそれどころではかった。
こんな路地裏の区画に、気紛れでも足を運ぼうとする酔狂な者などいるはずがなく、男は地に倒れ伏している仲間に自分の姿を幻視した。
後退ろうとするも、恐怖のあまり動けない。辛うじて正面に立つ女を睨むが、震えを止められず虚勢を誤魔化せていなかった。
「汚らわしい人間が……」
女はまるで汚物を見るような瞳を向けながら無機質な声で呟くと、血が滴るナイフを振った。付着していた血が飛び散って男の顔まで飛び、冷酷な輝きを取り戻した凶刃に息を呑んだ。
「え、エルフのくせに……こんなことをしてただで済むと思ってるのか!」
辛うじて声を絞り出す。
少なくとも男には、このような事態に陥る心当たりがなかった。
まして女はエルフ。この国ではエルフの大半は奴隷で、市民権を得ているごく一部の例外を除いて地位が低い。そんな者が犯罪に手を染めれば、待ち受けている未来は悲惨なものでしかない。
それほど恨まれているのであればそれまでだが、男は特別にエルフを虐げた意識はなく、せいぜい路上で娼婦として買って楽しんだくらいだ。
この街では特別珍しくもない。そもそもこの女エルフには見覚えすらなかった。
「こんなこと、だと? 私はお前たちに家畜小屋の場所を尋ね、用がなくなったから処分しただけだが?」
エルフが淡々と返すと、男は絶句した。
「ふ、ふざけるなよ!」
「ふざけてなどいない。姫様の居場所を突き止めることが、私に課せられた最優先事項なのだから」
「だから答えただろうが!」
彼女は地位の低いエルフ。情報もタダではない。報酬として、娼婦が自分を買った男と路地の奥へ消えることだってある。彼女はそのつもりで自分たちをこの場に誘ったものだと思っていたのだ。
殺されるなど、微塵も想像していなかった。
「どこかで私のことを漏らすとも限らないからな」
「お、俺は余計なことを言ったりしねぇよ!」
男が必死に懇願すると、エルフは呆れたように大きくため息を吐いた。
「お前は一つ勘違いをしている。私は人間が大嫌いだ……エルフの尊厳を踏みにじる人間など、生きているだけで反吐が出る」
話の通じない存在を前にして、男は自分の未来を確信する。
「お前、狂ってるぞ……奴隷がこの街で生きていられるのは誰のおかげだと!?」
「狂っているのはお前たち人間だ!」
初めて女の表情に感情が露わになる。
これまでの無感情で淡々としたものではなく、瞳に憎悪が灯って声を荒げた。
牙を剥き出しにした獣のような激情に晒された男は、震える足に鞭を打つと背を向けて駆けだした。
「――逃がさない」
冷たい声と同時に、首に熱を伴った激痛が走った。
それは刹那の一瞬の出来事だったが、自分が刺されたと認識できてしまった。
無駄だと理解しつつも必死に意識を保とうとするが、力任せにナイフを振り抜かれて頸椎を切断されると男の意識は永遠に戻ることはなかった。
「こんな人間どもに我らの東の森の国は……っ」
女はこみ上げてくる激情を抑えきれず、物言わぬ躯と化した男を蹴り続けた。
百七十年前、エルフたちが暮らす東の森の国は、当時加速度的に勢力を拡大させていた人間の国であるバリステン王国と戦争を繰り広げていた。
豊かな森の恵みを享受して、穏やかに暮らしていたエルフは本来争いを好まないため、組織的な戦闘の技術も知識も乏しかった。
エルフの森は土足で踏み荒らされ、村や町が次々と襲われた。
そして日増しに人間の魔の手が迫った東の森の国は、ある決断した。
その美しさは人間の世界にも名が知れ渡るほどの東の森の国の姫君――アルフィリアが、バリステン王国ベルグ王に嫁ぎ、和平を結ぶということ。
やがて世継ぎが産まれれば、両国のかすがいとなり、いっそうの繁栄をもたらす――はずだった。
東の森の国は長命な種族であるがゆえに、短い生涯を謳歌する人間の強欲さを理解できていなかったのだ。
最初から和平など考えていなかったベルグ王は、アルフィリアを無残に凌辱し、快楽漬けにしてエルフの尊厳を徹底的に踏みにじった挙句、戦争に利用し、争いは激化させた。結局、敗戦した東の森の国はバリステン王国の植民地となり、エルフは奴隷にされた。
そして現在、豊かだった森林は伐採され、山は削られて炭鉱や金脈の穴だらけ。そこに住んでいた動物も乱獲され、毛皮や角が高額で取引されている。
エルフは奴隷としてバリステン王国に愛玩用に出荷される。辛うじて戦火を逃れて隠れ住んでいた者たちも、エルフ狩りによってほとんど狩り尽くされてしまい、元東の森の国では純血のエルフは希少価値が高くなり、奴隷市場では高値で扱われていた。
だがすべてのエルフがそうなったわけではなかった。
逃げ延びた者の中には、新米であることを理由に見逃がされた若い騎士たちもおり、彼らは同じエルフの国である北の森の国へ亡命を果たし、後に解放軍を組織して再起を誓ったのだ。
そして一度だけ、敗戦後間もない頃に奴隷に落とされた王家の救出を試みたことがあったのだが、奴隷に堕ちたエルフは何度も売買され、その都度所有者を転々とする。それは王家の姫君たちも例外ではなく、解放軍はアルフィリアや母后ベアトリスら王族の所在を掴むことができなかった。
それでも決死の捜索の末、辛うじて救出に成功したのはアルフィリアとベアトリスの実子である二人の赤ん坊だけだった。
奴隷のエルフが身ごもることは、その扱いから想像に難くない。しかも赤子たちの父親は、アルフィリアの実弟でありベアトリスの実息ビョルン。人間の戯れによって近親相姦で生まれた禁忌の子なのだ。
他にも彼女たちの血を継ぐ子は存在したが、人間と交わった子は必ずハーフエルフとなり、耳など外見こそエルフに似ているが寿命は人間並みとなってしまう。
助けた赤ん坊は本来なら近親により忌み子とされる。しかし正当な王家の血筋を受け継いでいるのは救出に成功した二人だけ。幸いにも共に男子であるため、二人は人間から祖国を取り戻すために東の森の国の解放軍の御旗となった。
北の森の国もかつてはバリステン王国と争っていたが、今では不可侵条約を結んでいる。ところが、エルフ狩りによって東の森の国からエルフがいなくなったことで、人間の奴隷商は国境沿いにある村を襲うようになった。
しかしバリステン王国はその見る事実はないと否定しており、大国との争いは避けたい北の森の国にとっては頭の痛い問題だった。
そこで、野蛮な人間を追い出すために、亡命してきた東の森の国の解放軍を受け入れ、援助していた。
とはいえバリステン王国は将来的なエルフの反乱にも備えており、エルフ同士による純血の出生を認めていないため、二人の王子の存在を公言することができなかった。
そのため、かの戦火を逃げ延びて各地に散った同胞を探して解放軍を大きくするだけでも相当の時間がかかってしまった。
どうにか時を経て組織としての体制は整えたものの、未だに情報が足らない。以前はアルフィリアら王家の所在を掴むことすらできなかった。
同じ轍を踏むわけにはいかないと、ひとまずバリステン王国貿易都市バルローニへ解放軍の密偵としてララノアが単独で潜入することになった。
ララノアは東の森の国の騎士だった。
もっとも当時はまだ幼く騎士見習いでしかなく、戦場に出ることも認められない未熟者ではあったが、エルフとしての誇りと王家への忠誠心は誰にも負けないと自負していた。
アルフィリアが人間の王に嫁ぐために、国を出立する式典では見習いも含めて騎士団全員で見送ることとなり、それがララノアが最後に見たアルフィリアの姿となった。
今でも、祖国を守る覚悟を秘めた凜とした佇まいが目に焼きついている。
以降はよりいっそう尽くし、姫が愛した国を守るために改めて立派な騎士になることを誓ったのだが、祖国がバリステン王国の侵攻を受けていると知ったのは、ララノアたち見習いが国を離れて演習を行っていた時だった。
しかし時すでに遅く、救援に駆けつける前に王が人間の手で討たれたという報が届き、敗残兵となったララノアたちは国交のあった北の森の国へ助けを求めることしかできなかった。
忠誠を誓った祖国の危機に駆けつけることもできず、蹂躙される同胞たちの無事を遠くの地から祈ることしかできなかった絶望感は、百七十年経った今もララノアの心に棘として刺さり続けている。そしてこの都市に向かう途中で、変わり果てた森の惨状を目の当たりにしたことで、今になるまで助けに来られなかった己の弱さを呪うと同時に、人間に対する憎悪が膨れ上がった。
今のララノアは、かつての弱く未熟な頃とは違う。必ずアルフィリアら王家に連なる者を探し出し、東の森の国から人間を一人残らず駆逐してやる――と。
もっとも、今回の目的は情報を集めて姫や母后、王子らを見つけ、その情報を北の森の国にいる解放軍に知らせて救出作戦を練ることが目的だった。
ところがララノアは目の当たりにしてしまった。
アルフィリア祭――かつて肉欲に溺れて国と民をバリステン王国に差し出したと伝えられている売国姫アルフィリア。そんな姫の淫乱な肉体を慰めるため、衆目環視の中で姫役のエルフを犯すという狂気の祭りを。
そして慰み者にされながら悦び喘いでいるエルフの姿を。
集まっている人間たちは、犯されているのは姫役を務めている頭のおかしいエルフだと思いこんでいる様子だったが、ララノアにはわかってしまった。
彼女が本物のアルフィリア姫であると。
風に靡けば長い髪が煌めき、彫像のように端整な顔立ちで幻想的な美貌の持ち主だが、その微笑みは爛漫と咲き誇る花の可憐さを思わせ、美しくも素朴さを感じさせて誰からも慕われていた。
王族として気高い品性と優雅なる振る舞いもさることながら、その美貌から森の宝石とさえ称えられていたほどで、豊かなバストやくびれたウエストは異性のみならず同性のララノアでさえ見惚れるほどだった。
ところがようやく発見した姫君は、透き通るように白かった肌は見る影もなく、いくつものタトゥーを彫りこまれ、滑稽なほど肥大化した乳房は垂れ下がり、子宮にいたっては飛び出していた。
それだけでなく、代わる代わる男たちに犯されては獣のようなよがり声をあげ、かつての面影など見る影もない。しかしどれだけ変わり果てていようとも、己が忠誠を捧げた主を間違うことはない。彼女がどれだけ過酷な環境に置かれていたのか、否応なく理解させられると同時に、なぜもっと早く助けられなかったのかと、自身の不甲斐なさをこれほど悔やんだことはなかった。
そんなララノアの心中を逆撫でするように、周囲の人間たちは無様によがり狂うアルフィリアを嘲笑い、売国姫だの淫乱姫だのと罵り続けていた。
何も知らずに為政者に踊らされている民衆に殺意すら覚えた。
当時戦時下だった国を憂いて和平のためにバリステン王国へ嫁いだというのに、凌辱された挙句に売国姫の汚名を着せられて利用されたのだ。
そして目の前の惨状が、彼女の百七十年間を物語っていた。
人間の国はエルフの国と比べると人口密度は圧倒的だった。
道端で声を張り上げ、果物や肉などを売る商人たちや、老若男女にかかわらず通りを所狭しと行き交っている。長命のエルフに対して、短命な人間は頻繁に繁殖を繰り返しているため、自然と数が多くなる。自然の中で穏やかに暮らしていたエルフにとっては騒々しいとしか思えないが、よく言えば活気のある光景だった。
しかしそれらがすべてエルフの犠牲の上で成り立っていると思うと、ララノアには彼らが悪魔や魔物と同じ存在としか見られなかった。
人間たちは笑顔の裏でエルフを奴隷と蔑み、売買をしていると考えるだけで反吐が出る。ララノアの任務は王族の所在を突き止めることであって、憎い人間を感情に任せて断罪することではない。しかし、実際に平然と同胞を弄ぶ光景を目の当たりにすると、否応なく憎悪が膨れ上がってしまう。悠長に事を構えている間も、アルフィリアには想像を絶する仕打ちが繰り返されているのだ。
まだ他の王族の所在は掴めていないが、もはやララノアの頭にはアルフィリアを救うことしか考えられなくなっていた。
「――ここに、姫様が」
居住区から離れた区画にそれはあった。
荒れ家としか形容できない木造の小屋――いわゆる家畜小屋だった。
事前に情報を得ていたとはいえ、実際に姫が繋がれているという小屋を前にしてララノアは絶句した。
「人間はどこまで、姫様をぉ……っ!」
馬や豚と同列の扱いに、叫びたくなる衝動を砕けんばかりに歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめることで抑えこむ。己の中で優先順位を言い聞かせながら、張り詰めた風船のように膨れ上がった憤怒に呼吸を荒げて小屋へ近づいた。
「見張りすら置いていないのか……」
物陰から周囲に視線を巡らせるが、見回りの姿どころか気配すら感じられない。あまりにも警備が手薄すぎた。
容易く侵入できるのは僥倖だが、まったく警戒されていないというのは、本当に家畜程度の価値しかないと揶揄されているようでもあった。
窓から中を覗けば、裸にされたエルフたちが首に縄をかけられて柵に繋がれてるのが見えた。
咄嗟に彼女たちも解放したい衝動に駆られるが、ララノアだけでは連れ出せる人数はせいぜい一人か二人が限度だ。
今はアルフィリアの救出が最優先だと言い聞かせ、救えない同胞に己の無力さを謝罪しながら順番に小屋を覗いていくと、ほどなくして獣じみた呻き声が聞こえてくる。
「……まさかっ」
ララノアは息を呑んだ。
艶を含んだ声に、否応なく昼間に見たアルフィリア姫の姿が脳裏を過ぎる。
騒ぎを起こせば警備が厚くなって救出が困難になるため、無残な同胞の姿を目撃しても堪えてきたが、もはや我慢の限界だった。
百七十年もの間弄んできたというのにまだ足りないのかと、中に何人いようと皆殺しにするつもりでナイフを握りしめ、小屋に飛びこんだ。
小屋の中にいた人間は男が一人だけだったが、いきり勃ったペニスでアルフィリアを背後から貫きながら、肥大して垂れ下がった乳房を握りしめて、まるで手綱のように引っ張って笑っている姿がそこにあった。
当のアルフィリアは無様な姿を晒しながらも苦悶に呻くどころか「チ×ポ、チ×ポぉ♡♡」と、顔を淫らに蕩かせているのだが、ララノアには主君の穢した下賤な人間の姿しか映っていなかった。
「きぃさまぁぁぁああっ!!」
他に人影はない。目の前の男さえ葬れば解放軍の念願が叶うのだ。
激情に駆られたララノアは、姿を認めた瞬間にアルフィリアを嘲る男に襲いかかっていた。
しかし、ララノアは己の役割をまっとうするべきだった。
怒りに支配されてしまったがために思慮が足らなかったのだ。
この男が何者であるかを。
この都市で、最も敵対するべきでない相手が誰であるかを――
第一章
「ようこそ。領主様に代わってこの街を取り仕切っているシャウアよ」
「なん……だと……?」
ララノアは己の耳がおかしくなったのかと、疑わずにはいられなかった。
昨夜、家畜小屋で凄惨な仕打ちを受けていたアルフィリアを救うために飛び出したものの、感情に任せたララノアとは対照的に男は狡猾だった。
その喉元を斬り裂こうとナイフを振るった瞬間、男は慌てるでもなく冷静にアルフィリアの首を掴んで己の盾としたのだ。
解放軍の一員として潜伏していた以上、本来であれば騒ぎを起こすなどご法度である。まして絶対に捕まるわけにはいかない。あっさりと出鼻を挫かれた時点で男と距離を取るなり、任務失敗として撤退するべきだったのだ。
しかしララノアは、その判断を下すことができなかった。
それどころではなかったのだ。
目の前に突き出されたアルフィリアは、王家として、エルフとして、そして女としての尊厳さえ弄ばれ、涙と鼻水と涎で顔中をグシャグシャに汚しながらも、はっきりと笑みを浮かべていた。
祭りで一度目の当たりにしていたが、見間違いであってほしいと内心で願っていた。しかしそこには、かつて森の宝石と称されて敬愛していた美しい姫君の面影はどこにも見受けられなかった。
東の森の国の生き残りとして彼女を必ず助け出すと誓っていたはずが、あまりの姿に頭が真っ白になってしまった。
時間にしてみればほんの数秒だったが、それが致命的な隙となった。
ララノアが気がついた時には、男の拳が腹部にめりこんでおり、殴り飛ばされて壁に頭を打ちつけた衝撃で意識が闇に沈んでいった。
「ど、どうして人間の街をエルフが支配している!?」
ララノアが意識を取り戻した頃にはすでに手足を縛られて拘束されていたが、殺されることもなくなぜかマダムと呼ばれる都市の上役の屋敷に連行された。
そして通された部屋の天井には宝石が散りばめられた煌びやかなシャンデリアが吊るされており、床はわずかに足が沈むほど柔らかく滑らかな真紅の絨毯が敷かれていた。
調度品は言うに及ばず、扉や柱などには細やかな一流の匠の彫刻が施されている。恐らく壁や窓枠の木材に至るまで、すべてが一級品なのであろうが、ララノアにはそこまでの知識はない。とりあえず理解できたのは、この屋敷の主人はこの都市においてかなりの地位に就いているのは間違いないということだった。
もっとも、それだけで充分だった。
これらの財はすべて、踏みにじられた同胞たちの尊厳によって築かれたものであることは想像に難くなかった。
これからララノアを待っているのは尋問だろう。さすがに野蛮な人間でも不審者だからといって浅慮に処分することはなく、それが苦々しかった。
自分から解放軍の情報が露呈すれば、王家の救出が再び遠のいてしまう。それどころか今回の件で北の国を糾弾し、戦争の口実にされる可能性すら考えられる。
失態を犯した時点で自死することも考えたが、ララノアにとってこの状況は好機でもあった。拘束されてはいるが、幸い口を塞がれることはなかった。
死ぬことはいつでもできる。背後にララノアを捕らえた男が控えているが、せめてマダムと呼ばれる者の喉元を噛み千切って道連れにしてやりたいと考えた。
欲に塗れてエルフを虐げる人間の上位者である。どれほど醜悪な存在なのかと想像を巡らせていた。ところがララノアの前に現れたのは下卑た人間ではなく、まだ幼さを残したエルフだった。
悪趣味と思えるほど金をあしらった装飾を身に着けている彼女はララノアより若く見えるが、特に乳房は豊満で、布地の少ない淫靡な服と相まって男を惑わす妖艶さを漂わせている。横に立つ人間の執事に煙管に火を点けさせ、咥える仕草も様になっていた。
「あら、支配なんて人聞きが悪いわね。私は領主様に代わってこの街を取り仕切っているだけ」
わけがわからなかった。
バリステン王国でのエルフは奴隷身分である。奴隷産業の盛んなこの都市をまとめているのが同じエルフなどと、悪い冗談にもほどがあるだろう。
「エルフは……奴隷の、はずでは……」
「あら、エルフでも特定の条件を満たせば市民権を得られるのよ? まあ全体からすればごくごく一部だけれど……私の後見人は領主のオスマン男爵。そして司祭様からも許しを得て市民権を頂いたの」
ララノアにとって人間の街、それもエルフを奴隷として売りさばく貿易都市をエルフが支配しているなど想像もしていなかったが、混乱しつつも誇らしげに語るシャウアに対して湧き上がってくる感情は憤りだった。
「なぜだ……」
「ん?」
「お前もエルフだろう!? お前の立場ならアルフィリア姫を、王族の方々を解放することもできたはずだ!」
「解放、ねぇ。飽きられて捨てられて肥溜めのような場所にいたところを拾って差し上げたのだから、むしろ感謝されるべきではないかしら?」
あっけらかんと言ってのけるシャウア。
「感謝だと? ふざけるな! なぜ同族のエルフであるお前が王族を貶める!?」
畜生以下の扱いを受けていたアルフィリアの姿が脳裏を過ぎり、ララノアは当初の目的を忘れて怒気に任せて吠えた。しかしシャウアはそれに動じるどころか、不思議そうに首を傾げる。
「それを姫様自身が望んでおられるのに?」
「んなっ!? そ、そんなハズがないだろう……っ!」
あまりにも平然と言い放つシャウアに、たじろぐララノア。
「では聞くけれど、犯されていたアルフィリア様の様子はどうだったかしら? その顔は苦痛に歪んでいた? 絶望に泣き叫んでいたかしら?」
「そ、それは……」
ララノアは即座に否定することができなかった。
見るに堪えない惨い仕打ちであったのは間違いないはずなのに、脳裏にこびりついているアルフィリアは恍惚とした笑みを浮かべていたのだ。
何人もの人間に代わる代わる犯されながらも、一度だって悲鳴をあげなかった。
背筋に冷たい汗が伝うが、頭を振って己の想像を振り払う。奴隷に堕とされたとはいえ、彼女は王家の高貴なエルフである。今でこそその威光は陰っているが、まだ失われたと決まったわけではない。そう信じて、ララノアたち解放軍は北の森の国の支援を受けながら潜伏し、機会を窺っていたのだ。
北の森の国にとっても、バリステン王国は無視できる相手ではない。だからアルフィリアを救出し、奴隷としての長年の呪縛から解き放つことさえできれば、東の森の国を占領している人間を追い出して、現在匿っている二人の王子を旗印に王家を復興させるという密約を交わしていた。
「私が拾って差し上げる以前は、路上でチ×ポ乞いをしても相手にされないほど落ちぶれて、オナニー中毒になっていたのよ? そんなアルフィリア様のために、あの祭りは存在しているの。人間は百七十年前のエルフの姫君なんて覚えていないのだから、物好きな連中がいくらでもチ×ポを恵んでくれるわ」
「どこまで……どこまで姫様を辱めれば気が済むんだっ!」
ろくに反論さえままならないが、当時はまだ見習いだったとはいえ王家に忠誠を誓っていた騎士として、シャウアの言動は目に余る。もはや同族の皮をかぶった別のナニかとしか思えなくなっていた。
「はぁ~、頭が固いのねあなた……もしかして解放軍にはそんな連中しかいないのかしら?」
頑なに認めない姿勢に呆れたシャウアはため息をこぼすが、ララノアは今の一言で冷水を浴びせられたかのような冷や汗を吹き出した。
「な、なぜ私が解放軍だと……っ」
すでに素性を知られていたことに愕然とするララノア。対してシャウアは、気づかれていないと思っていたことに目を丸くする。
「解放軍はよほど人員不足なのかしら? 百七十年前の一件で解放軍の存在は知られていたし、人間ならともかくエルフにとって百数十年なんて大した時間じゃない。もう一度事を起こすくらい想像に難くないもの……それに、この都市に住んでいるエルフが今さらアルフィリア様が犯されていたくらいで家畜小屋に忍びこむとでも? 今時東の森の王族に固執しているのは、解放軍のエルフくらいしかいないわ」
「少し考えればわかるでしょうに……」と、想像力の足らないララノアへ憐れむような視線を向けるシャウア。
「くっ……」
「で、適当に拷問して解放軍の情報を吐かせてもいいのだけど……素直に話してくれればそれなりの待遇で奴隷にしてあげるわよ?」
「奴隷に堕とされるとわかっていて、仲間を売るエルフがいるものか!」
「この都市について多少なりとも調べているのなら理解しているでしょう? 奴隷ギルドへの所属の意味を」
ララノアでもそれくらいは知っていた。
娼館で働きながらもギルドの庇護下で人権が保障され、罪人でない限り理不尽な暴力に曝されることなく、ある程度の自由が約束されている。対してギルドに所属しない奴隷には人権など存在せず、所有者の思うがままに家畜同然の扱いを受けている。同じ奴隷であっても、その立場は大きく異なる。
「だからどうした! そのような脅しに私が屈するとでも!?」
ミスを犯した時点で死は覚悟の上である。無様に生き恥を晒すつもりもなければ、仲間を売って生き延びるなど論外だ。
ララノアが死ねば、再び新たなエルフが派遣されるだろう。自分のような短慮を起こさなければ、次こそアルフィリアを救うことができるはずだ。
もはやララノアにできることは、この場で舌を噛み切って一切の情報を漏らさないことだけである。
「強情ねぇ。まあそれがいつまで続くか見ものではあるけど――」
――コンコン。
姫を救えない己の無力さを呪いながら、ララノアは顔を伏せ、舌に歯を当てたところで、不意に扉がノックされた。
「――誰かしら? 今いいところなのだけど」
「ウルスラです」
(ウル、スラ……?)
扉越しに告げられた名前に、ララノアは顔を上げた。
その名に記憶の奥底が刺激された気がしたのだ。
そして現れたのは、黒のボンデージを身に纏った妖艶な隻眼のエルフ。右目は前髪で隠れているものの、わずかに眼帯をしているのが見えた。左目にはモノクルを着けており、露出している肌には拷問を受けたと思われる痛々しい傷跡が刻みつけられていた。
「急にどうしたの?」
「お楽しみのところ、申し訳ありません。家畜小屋で賊を捕らえたと耳にしましたので」
そう告げるウルスラと目が合った瞬間、ララノアは身を強張らせた。
言葉遣いや振る舞から教養が感じられ、物腰こそ柔らかいものの彼女の瞳は道端の小石でも見るような冷たく濁った眼差しをしていた。
「それでわざわざ? 相変わらず仕事熱心ねぇ」
「家畜小屋の管理者として当然の務めです。それで、彼女がそうなのですか?」
「ええ。東の森の国の残党で組織された解放軍の一人よ」
「解放軍、ですか」
ウルスラは顎に手を添えて逡巡する素振りを見せる。
「何か気になることでも?」
「いえ、大したことではありませんが……シャウア様は解放軍の情報をどのように活用するおつもりで?」
自白を前提に話を進める二人。ララノアは仲間を売るなど絶対にありえないとしながらも、不安を拭いきれなかった。
「そうねぇ……猊下や将軍閣下に相談して、今回の件を火種にして解放軍を匿っている国と戦争を起こすの。そうすれば奴隷と武器が売れるし、戦場で捕らえた新しい奴隷も手に入るわね。東の森の国のエルフはほぼ狩り尽くしちゃったから、最近は新品の純血エルフは高値で売れるし」
「お前は、エルフの皮をかぶった悪魔だ……っ」
嬉々として語るシャウアがまったく別の生物に見えた。彼女にとっては同族であるエルフでさえ、私利私欲を満たすための道具でしかないのだと、少なくともララノアにはそう思えてならなかった。
せめてもの救いは、彼女たちが解放軍の情報に明るくないということ。潜伏している国についても確証はないらしく、ララノアが永遠に口を閉ざしてしまえば最悪の事態は避けられるのだ。
ところが、そんな内心を嘲笑う者がいた。
「ではいっそのこと、悪魔らしく振る舞ってはどうですか? 悪魔は対価と引き換えに相手の望みを叶える存在です。情報に対価を支払ってみては? 拷問で自白を迫れば死にますよ、彼女」
「どういうことかしら?」
「知り合いに彼女のような人がいましたから。誇りのため、仲間のためなら自分の命も惜しくない――そう考えている人ですよ」
ララノアは冷や汗が止まらなかった。
今し方顔を合わせたばかりだというのに、すべてを見透かされているようだった。
「誇り、ねぇ……」
「ですから、こういうのはいかがでしょう? 見たところ彼女は潜入捜査よりも戦闘が得意なようですから闘技場で闘ってもらい、勝てば無罪放免、負ければ解放軍の情報を提供させるというのは」
「でもそれだと、この娘にとってメリットが薄くないかしら?」
仮に助かったとしても任務は失敗。しかも人間に解放軍が活発に動き始めたことを知らせてしまったというオマケ付き。責任を感じているララノアは、この都市から逃れたところで仲間の元へは帰れないだろうと首を傾げるシャウアに、ウルスラはさらに続けて条件を提示した。
「はい。なのでもし彼女が勝利した暁には、アルフィリア様とベアトリス様ら王家のエルフを解放いたしましょう」
「な――っ!!」
淡々と付け加えられた条件に、驚愕するララノア。解放軍にとって救出対象である王家のエルフを解放すると、あまりにも簡単に言ってのけたのだ。
「あら、あなたにしては思いきったことを言うのね」
解放軍にとっては命を賭けるべき存在のエルフ王家。少なくとも同族であれば敬うべき王家を、平然と賭け事の景品のように扱う発言にララノアは驚愕する。同時に、それほどアルフィリアの価値は低いと言われているようで憤りも感じた。
「彼女にとってこれほど破格の条件はありません。迂闊に命を散らすような真似はできないでしょう」
「本気で王家の再興を願っているのなら――」と、ララノアを挑発して死という逃げ道を塞ぐウルスラ。無論その言葉が真実である保証などないが、まだ所在の掴めていなかった后母ベアトリスまで解放するという。
「それは本当……なのか? 私が勝てば、お二人を――」
「約束しましょう」
これほど破格の条件を提示するということは、自分たちの勝ちは揺るがないという絶対の自信があるということ。
(しかしシャウアや人間たちにとってアルフィリア様たちに価値を見出していないからこそ、平然と解放するなどと言えるのか……)
そう考えれば彼女たちの王族軽視の発言も理解できてしまう。つまり勝てばいいのだと、昨夜失態を犯したばかりだというのに、ララノアの中では首を縦に振る以外の選択肢は消えていた。
「絶対……絶対だぞ!」
「無論ですよ。あと念のために確認をしておきますが、闘技場がどのような場所かはご存じですか?」
「……知っている」
腕に覚えのある者や、奴隷、犯罪者らによる一対一、もしくはバトルロイヤルをショーとして提供し、勝敗を賭ける人気の賭博場の一つである。さらに闘技場の人気に拍車をかけているのが、その場に限り敗者は勝者に絶対服従という掟だった。
生殺与奪はもちろんのこと、女剣闘士が敗北すれば衆目環視の中で凌辱ショーが行われる。ララノアにはそれを観て喜ぶ人間の感覚が理解できないが、参戦する者は後を絶たない。なぜなら勝利は金と名声に繋がり、さらには十の勝ち星を挙げた者には市民権が与えられるのだ。
逆に十敗を喫した場合はすべてを奪われ、奴隷よりもさらに惨めな家畜の身分へと堕とされてしまうのだが、一縷の望みに賭けて闘技場に立つ者は多かった。
「――ということでよろしいですか、シャウア様?」
「あなたたちねぇ……何を勝手に話を進めているのかしら?」
不服そうに、ジト目をウルスラに向けるシャウア。
「いけませんでしたか?」
「……別にいいわよ。なかなかいい体をしているから、見世物としても充分に使えるわ。ただし闘技場で闘うからにはあそこのルールには従ってもらうわ。姫様たちの解放には十勝が条件よ」
「もう勝ったつもりか」
「その威勢は素敵よ。そんな態度がいつまで続くか楽しみにさせてもらうわ」
すでに凌辱が確定しているような物言いに眉を吊り上げと、シャウアはララノアの反応に笑みを深めた。
都市の中心部に位置する円形闘技場。
直径は百メートルほどで、何層にも連なる客席が中央の空間を取り囲んでいる。
(悪趣味な……)
格子戸が開かれて中央に進むララノアが最初に抱いた感想だった。
闘技場は外観の印象に比べて手狭で客席に比重が置かれており、観客との距離はかなり近い設計になっていた。
今ならシャウアの〝見世物〟という発言がよく理解できた。
敗北すればすべてを失うララノアとは対照的に、観客はまるで演劇を楽しむかのような気軽さだった。
劇の内容は殺戮と凌辱。そして彼らが、ララノアに後者を望んでいるのが手に取るように伝わってくる。さらに潜入のための軽装であったため、露わになっている素肌に男たちの下卑た視線を感じていっそう不快感を積もらせていく。
(十勝だ……十勝さえすればアルフィリア様とベアトリス様をお救いできるんだ。姫様たちに比べたら、この程度の恥辱……っ)
王家を救出するまでの辛抱だと言い聞かせる。ララノアは解放軍の中でも相応の実力を有していた。
東の森の国が奪われて以来、王族を救出するために血の滲む訓練を積んできた。今ではかつて騎士団長を務めていたヴィルヘルミナに引けを取らないと言われるほどの実力であった。
一昨日こそ迂闊にも冷静さを欠いて不覚を取ってしまったが、大抵の人間に後れを取ることはないと自負している。
シャウアたちが望む凌辱劇も、血沸き肉躍るような決闘も演じるつもりはない。全力を持って敵を斬り捨てるのみだ。
ところが、肝心の対戦相手がまだ現れていなかった。
ララノアは視線を貴賓室に向けた。
すると、それを待っていたと言わんばかりに妖しい笑みを浮かべるシャウア。そしてその傍らに立っていたウルスラが前に出ると、下品な騒音を撒き散らしていた客席が一斉に静まり返る。
「さて皆様。本日はなんと、常勝無敗の王者アムラスに挑戦者が現れました! 他国からやって来た流浪のエルフです! 無敵の王者が本日も勝利を収め身の程を知らしめるのか、それとも奴隷の意地を示して武名を轟かせるのか、勝敗のベットはただいまを持ちまして締め切らせていただきます!」
ララノアが解放軍に所属していることが知られればシャウアとの賭けが成立しなくなるため、肩書はウルスラのアドリブによるものだった。いくら奴隷身分のエルフであっても、観客からすれば国外からわざわざ現れた実力不明の存在である。
オッズを少しでも均等にする狙いもあるのだろうが、先ほどからララノアの耳に届くのは圧倒的にアムラスを支持する声だった。
(それはそうだろう。無名なうえに奴隷身分のエルフと、現王者との一戦なのだ。金銭が絡んでいる以上安牌に流れるのは理解できるが……あの女の余裕の正体はこれだったのか)
領主の代理としてこの都市を牛耳っているのだから、闘技場でララノアの対戦相手を操作するのも容易いだろう。敵の間者に対して王族の解放という大盤振る舞いを演じてみせたのも、絶対に負けないと確信していたからだ。
だからといって負けるつもりなどない。今のうちに笑っていればいいと、ララノアは貴賓室を鋭く睨みつけた。
「では、この闘技場で常勝無敗の剣闘士〝王者〟アムラス!」
ウルスラが入場を宣言すると対面の格子戸が開かれ、場内に割れんばかりの歓声が沸き起こった。
『ア・ム・ラ・ス!』
『ア・ム・ラ・ス!』
今し方までララノアの肢体を舐めるように眺めていた下劣な男たちでさえ、声を張り上げては足で床を打ち鳴らしていた。
巨大な闘技場が振動で揺れるほどで、王者の人気が窺えた。
「お、お前は……っ」
アムラスが堂々とした足取りで闘技場中央まで歩を進める。その姿を認めた瞬間、ララノアは激しい動揺を余儀なくされた。
ただ歩いているだけだが、その動作に隙はなく、一筋縄ではいかない相手だと一瞬で看過できたものの、ララノアにとってそれ以上に衝撃的なものがあった。
現れたのは自信と驕慢に満ちた目をした男だった。
「またいきなり飛びかかってくるかと思ったんだがな……一昨日のように」
互いの距離が五メートルほどの位置で相対して煽るように呟くのは、家畜小屋でアルフィリアを犯し、ララノアを捕らえた男だった。
「くっ……お前のような男が、チャンピオンだと?」
「ああ。この俺こそが王者、アムラス様だ」
見下した笑みを浮かべ、言葉の端々から己こそが絶対強者だという自信に溢れている。
焼けた肌は赤銅色で、引き締まった腕はオーガさえくびり殺せそうなほど太く逞しい。全身がはち切れんばかりに筋肉の鎧で覆われており、防具など不要とばかりに腰布一枚しか身に着けておらず、武器も右手に量産品とわかる粗悪な剣を握っているだけだった。
一昨日はアルフィリアを助けたい一心で気づかなかったが、目の前の男からは相対しているだけで圧し潰されそうなほどのプレッシャーが感じられた。
(相手に呑まれるな……この男は強い。確かに一度不覚を取ったとはいえ、落ち着いて臨めば対処できないはずがない。私がアルフィリア様をお救いするんだ!)
ララノアは己を鼓舞し、まっすぐ睨み返すと、アムラスは愉快そうに口を歪ませた。
「ほぉ、いい目だ。俺の強さに萎縮しない奴は久しぶりだな。だったら簡単に潰れてくれるなよ? せいぜい俺を楽しませるよう努めてくれ」
その歯牙にもかけていない物言いに、ララノアは眉を顰める。
「私は負けない……負けられないんだ!」
「その意気だ。ここでは力こそが正義。敗者はすべてを失う……。あの家畜のようにな」
「か、ちく……っ! お前はどれだけアルフィリア様を弄ぶつもりだ!?」
冷静に努めなければと頭ではわかっていても、アムラスの一言一句がララノアの神経を逆撫でしてくる。
「弄ぶも何も、あれはそういう玩具だろう? チ×ポを挿れるしか存在する価値のないものを、俺が使用してやっているんだ、むしろ感謝するべきじゃないか?」
それが当然だと、あっけらかんと言い放つ。
どこまでもアルフィリアを貶めるアムラスを、沸騰しそうになる激情を抑えながら、ララノアは低い声で止めた。
「もういい。それ以上喋るな……」
これ以上この男の声を聞いていると怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。
(ふう……落ち着きなさい私。冷静さを欠いてしまえば、一昨日の二の舞だ)
性根こそ腐っているが、アムラスは油断できる相手ではない。闘いにおいて常に冷静な判断を求められるため、心を鎮めていなければならない。
ララノアの失態でこのような状況に陥ったが、王家に不敬を働いた人間を誅殺できると思えばよい機会である。
「そうか。では観客も待ち侘びていることだからな、さっそく始めよう。先手は譲ってやる」
どこまでも相手を格下と見くびるアムラスに歯を食いしばりつつ、腰を低くして構えて戦闘準備を整える。
「その減らず口を黙らせてやる!」
ララノアはその場から腰に下げていたナイフを投げて先制攻撃を仕掛けた。
常に目立つように帯剣しており、剣を抜くと見せかけての奇襲だった。しかし相応の速さで飛来したそれを、アムラスは難なく半身になって躱す。
「堅物そうに見えたが、なかなかいい攻撃だ」
飛ばしたナイフが当たれば儲けもの。避けられたとしても体勢を崩したところへ斬りこもうとララノアは突進した。だがアムラスは無駄のない最小限の動きであっさりと躱してしまった。
舌打ちをしたくなる気持ちを抑えながらそのまま飛びこみ、裂帛の気合をこめて大上段から剣を振り下ろした。
当時は祖国を滅ぼされ逃げることしかできなかった未熟なララノアも、王家を救出することを悲願として百年以上剣を振るい続けてきた。
並みの人間では視認さえ難しい斬撃だった。
しかしアムラスは並みどころではない。渾身の一撃が空を斬るもララノアは取り乱すことなく身を翻して連撃に切り替えた。
それでもアムラスはそれらをことごとく避け、時には剣で防いでみせた。
そんな攻防が数十秒ほど経過したあたりで、ついに一撃が命中した。
「おごぉおっ!?」
アムラスのボディブローがララノアの腹部を捉えた。
掠りもしない苛立ちから、わずかに大降りになった隙を狙われた。
剣を振り下ろすよりも速くアムラスの拳がめりこみ、ララノアは体をくの字の状態で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「おげええぇぇ!! ぉ、ぐっ……げほっ、げほっ!」
軽装の革鎧ではアムラスの膂力を受け止めきれなかった。
衝撃によって押し上げられた内臓から内容物が逆流して血液も交えて嘔吐した。
「む、加減を誤ったか? すぐ終わってはつまらないからな、一昨日より拳の振りを緩めたつもりだったが……」
あまりにも脆いと、呆れたように呟くアムラス。普段から、相手が男であれば初撃から容赦なく殺しているが、女は負かした後で犯して楽しむため、過剰な攻撃は控える傾向にあるのだが、たまにはうっかりすることもある。
しかし相対しているララノアからすれば、それは敵としてさえ認識されていないに等しい物言いでしかなかった。
「くっ、ぁ……なめ、るなぁあっ! 私は、姫様をお助けするんだ!」
「それはさっきも聞いたぞ。つまらんことを囀るだけならガキでもできる」
重いダメージを負っているのは一目瞭然だが、アムラスはララノアを煽りつつ剣を構えるまでその場から動くこともなく待った。時には命さえ落とす決闘の場とはいえ、観客が存在している以上はショーである。後に犯される運命にあるのだから、今くらいは好きにさせてやろうと。
「言わせて、おけばっ!」
まだ鈍痛が響いているのだろうが、歯を食いしばって突撃する構えを取る。
「ふむ、感情の高ぶりで痛みを抑えこんだか。俺の前に立つからには、これくらいの気概は見せてもらわんとな」
敵意を剥き出しにして立ち上がったララノアを眺めながら愉快に笑う。
闘技場での勝者には莫大な金と名声が手に入る。いずれは奴隷身分から市民になることも可能となる。ゆえに参加者は後を絶たず、死に物狂いで這い上がろうとする。
理由は様々だが、ここに立つ者は誰でもララノアと同様に負けられない理由がある。しかしアムラスはチャンピオンに昇り詰めて自由市民としての身分を得てもなお、闘うことが好きというだけで王者として君臨していた
ただ自分が楽しむためであり、アムラスにとってララノアは文字通り身を削ってまで自分に愉悦を提供してくれる道化でしかなく、決死の覚悟で向かってくる姿には感謝の念さえ抱いていた。
「ああぁぁあっ!」
これまでで一番速い動きでララノアが飛びこむ。
剣の届く間合いまで入り振りかぶると、アムラスの視線がわずかにそれを追って躱すようララノアより先に反応した瞬間を見計らい、左足で地を蹴ってスライドするように彼の右側へ瞬時に移動すると、斬り払うのではなく強靭な筋肉の鎧を貫くために剣を首へと突き出した。
(これならっ!)
確実にアムラスの意表を突いた。圧倒的な強者であるという自覚が慢心を生み、決定的な隙を生んだのだ。
コンマ数秒でしかないが、それで充分だった。長年剣を振ってきた経験から、寸分違わずに首を突き刺せると確信する。
ララノアは思わず笑みさえ浮かべそうになったのだが――王者という肩書は伊達ではなかった。
アムラスは、躱すどころか突き出された剣先を右手で掴んでみせた。
「あ、ありえない……っ!?」
勝利を確信していただけに、目の前の光景が信じられなかった。
するとアムラスは、反撃するどころか掴んでいた剣を解放し、ニヤリと挑発的な笑みを浮かべると「続けろよ」と手招きする。
百年以上剣を振るい続けた自負のもとで、最高のタイミングで放ったはずの一撃でさえ、アムラスには通用しなかった。アルフィリアの救出というエルフの悲願をこめた刃さえ防がれたララノアには、もはや有効な攻撃手段など存在しなかった。
「こんな、こんなっ……うぅ、あぁあああ!!」
ララノアは負けるわけにはいかないのだと、どれだけ自分に言い聞かせても、アムラスへ刃が到達するイメージすら湧かなかった。
ついには進退窮まって癇癪を起こし、叫び声をあげながらひたすら斬りかかった。
感情に任せたそれは、お粗末なほど精彩を欠いており、騎士の振るう剣と呼べるものではなくなっていた。
「所詮はこの程度か……」
「ぐがっ!?」
アムラスは手にしていた剣を放ると、大降りの剣を躱すと同時に膝蹴りを叩きこんだ。そして苦悶し怯んだ隙に、右手でララノアの首を掴み、片手で持ち上げた。
華奢な首に、筋骨隆々とした太い指を食いこませて締め上げる。
「はぐっ、んんぅ、あがぁあっ!」
さらに持ち上げられているために自重が加わり、ララノアは苦悶に顔を歪めて拘束から逃れようと必死にアムラスの腕に拳を叩きつけ、足をバタつかせる。
「大層な口を利いていたから、多少はマシかと思ったんだがなぁ」
アムラスはつまらなそうにため息をついたかと思えば、次の瞬間には獲物を捕らえた野獣のよう獰猛な笑みを浮かべていた。
「がふっ! んぎぃいっ……!」
グッとまた指が首に食いこむ。
歯を食いしばるララノアだが、額からは珠の汗が吹き出てくる。体格差は圧倒的で、身を捩りながらアムラスの胴を蹴り続けるが、分厚い筋肉に阻まれてダメージが通らない。
「なんだそれは? あの家畜を助けるんだろう? だったらもっと気合を入れろよ」
「わ、私は……っ、あっ、負け、ないぃぃ……ぃ、ぐぅぅ!」
「諦めの悪さも度がすぎれば見苦しいな。まあ、それもいつまで続くか客は楽しみにしてるんだろうがなぁ」
「んぐっ……な、何をぉ……あぁあっ、や、やめ――っ!!」
アムラスは空いていた左手でララノアの軽鎧を掴むと、力任せに腕を振った。
生地が軋むどころか破断する音を響かせ、纏っていた装備をいとも容易く剥ぎ捨てられ、闘技者には似つかわしくない白い柔肌が、観衆たちに晒される。
「ほう……あの家畜のように下品に肥大化した肉塊とは違った、張りがあって形のいい乳をしてるじゃないか。男を知らんのか乳首の色もくすんでいない綺麗な色だ。下の毛は少し無造作に生やしすぎているようだがな」
ララノアは一瞬、自分のみに何が起こったのか判断できなかったものの、間を置かずにドッと沸き起こった歓声に現実へ引き戻され、色白の素肌を瞬時に真っ赤に染めあげる。そしてアムラスの舐めるような視線に、屈辱と羞恥に声を張り上げた。
「み、見るなぁぁ……あっ! かはっ、ぁ、んぁあっ!」
「そう言うわりには見られて乳首が硬くなっているようだが? まさか最初から期待していたのか? あんなチ×ポ狂いの家畜を姫と崇めているような連中なら、同類だとしても不思議じゃないか」
母性の象徴とも言える双乳の頂に鎮座するピンク色の突起。観客の好色な視線に敏感に反応したかのようにそれは隆起していた。
自分だけでなく、アルフィリアを冒涜し続けるアムラスに対して殺意を募らせていくものの、ギリリッと首を絞め上げられていくにつれて、ララノアの意思とは関係なく抵抗の力が衰えていく。
「あ? 抵抗しないのか?」
「うぐぅ……うっ、あっ、ぁ……!」
絶え難い屈辱に言い返したいララノアだったが、呼吸がままならないために、もはやまともに言葉を発することができなかった。
「もう終わらせるか」
手も足もでないララノアに落胆するアムラス。
「うっ、ぁ……わ、だじ、はぁ……ま、まげ……られ、なぃぃ……っ!」
シャウアとの賭けは、十勝もしくは十敗すること。ここで負けたとしても、まだ終わるわけではない。しかし、だからといってアルフィリアを玩具として弄ぶ男に負けを認めることは、ララノアの騎士としての矜持が許さなかった。
「そこまで言うなら足掻け。それができなければこのまま落ちるだけだ」
「かひぃ!? がっ、あがぁ、ぁ……!」
戯言だと、アムラスは鼻で笑いながらギリギリと首を絞めていく。
もはや勝敗は誰の目にも明らかだった。
そんな無様な姿を晒すララノアに向けて、観客から『落とせ!』『落とせ!』とコールが起こり、中には『大穴狙いだったのによぉ! 首をへし折っちまえ!』と、金をすった当てつけに声を荒げるものもいた。
だが屈辱に身を震わせる余裕もなく、締めつけが強くなるにつれてララノアの顔から血の気が引いていく。
「これで終わりだ」
「ふぎぃ!? んがっ、ぁ……ぁぁ……」
限界を迎えたララノアの黒目がぐるりと上に上がり、手足が垂れ下がった。
力尽きて全身の筋肉が弛緩すると――
ジョロッ! ジョロロロロロォ!
股間から黄金水が溢れ出し、足元に水溜まりを作り上げた。
醜態に闘技場が静まり返り、ジョロジョロと無様に失禁する音が響き渡る。
そして『漏らしやがったぁ!』と誰かが笑えば『ギャハハハッ!』と連鎖し、場内が割れんばかりの笑いに包まれた。
「よかったな。これまでお前の弱さに盛り上がりに欠けていた観客も喜んでいるようだぞ!」
アムラスは衆目に応えるように、落ちたララノアを高々と掲げた。
ジョロロォ――と、意識を失って弛緩しきった尿道から溢れ続ける黄金水。水溜まりはどんどん広がっていくが、ララノアは白目を剥いたままビクッ、ビクッと痙攣するばかりだった。
間もなくすると場内に勝敗が決した鐘が打ち鳴らされ、闘技場が揺れるほどの歓声が沸き上がる。だがそれはアムラスの勝利を祝福するだけのものではない。敗北をしたのが女の闘技者であることに興奮しているのだ。
「うぅ……ぁ、ぁぁ……」
ララノアは呻き声しか発することができない。自分が陥っている状況すら理解できずにいた。
「想像以上に口だけだったな。おい、起きろ負け犬!」
アムラスはそう呟くと、首を絞めていた手を放した。
「あぐっ、んぁ……ぁぁぁ……わ、私、は?」
重力に沿って力なく地面に崩れ落ちたが、その衝撃で意識を取り戻した。
白目を剥いていた瞳に、徐々に光が戻っていく。
「さっさと、起きろ!」
「ぐぼぉ!? おっ、おぇ……っ、あっ、ぁ……わ、私は、負け……た?」
アムラスに蹴り上げられ、強制的に立たせられる。
『ケッ、威勢がよかったの最初だけかよっ!』
『何が流浪のエルフだよ、ただの臭ぇションベンエルフじゃねぇか!』
『てんで弱っちいくせに出てくんなよな!』
浴びせられる罵声の数々。まだ意識が朦朧としているものの、醜態を晒したララノアを嘲笑う観衆の声が、否応なく現実を突きつけられる。
「お前の負けだ。汚らしく小便を撒き散らしながらなぁ!」
自分の股間が濡れているのを自覚して、大きく目を見開くララノア。震えながらも、視界に不自然な水溜まりを捉えてしまう。
「あっ、あ、あぁあああっ!」
王家の救出を出鼻から躓いてしまっただけでなく、衆目に裸身を晒された挙句に失禁しながら敗北した事実に、恥辱と絶望感が一気に押し寄せてきた。
それでも現実はさらに非情だった。
「うるさいぞ、いつまで喚いている。つまらん試合に付き合わされたんだ、こっちでは俺を楽しませてみろ!」
「あうっ! ま、まさか……本当に、こんな場所で!?」
アムラスはララノアの腕を掴んで力任せに立ち上がらせると、観衆に見せつけるように自身は背後に回り、両手首を左手で握って拘束すると脚を開いた低い体勢を維持させられた。
元より筋力に差があるうえ、意識を取り戻したばかりのララノアではろくに抵抗することさえ敵わない。装備を剥かれているため、豊満な乳房や性器が丸出しの状態で、自ら恥部を突き出すような屈辱的なポーズを披露していた。
『なかなかいい体してるな』『ションベンエルフのわりに……』『生意気なエルフがどんなアヘ顔を見せてくれるか……』と、嘲笑っていた観客もララノアの痴態にざわめき始め、大きく喉を鳴らす音があちこちから聞こえてくる。
敗者を気遣う者など、この場には誰一人としておらず、欲望を剥き出しにした視線が乳房や股間に突き刺さるのをひしひしと感じた。
「や、やめろぉ! 私を見るな、見るなっ……放せぇ!」
「やかましい! ここはそういう場所だ。今さら何を言ってるんだお前は?」
呆れるアムラスの呟きを耳にしながら、その気になれば簡単に斬り殺せる観衆にも柔肌を見られ、なす術もなく嘲られる。女である自分の負けが何を意味しているのか理解はできても、早々に自分が負けることはないと根拠もなく思いこんでいたのだ。
人間の下劣さを一身に浴びたララノアは、こみ上げてくる屈辱感に顔を歪めた。
「やはり人間はクズだ……っ」
仮にアムラスから逃げ出すことに成功したとしても、ルールを反ゆえにすればアルフィリアとベアトリスの解放が遠のいてしまう。ララノアは逃れられない現状に歯噛みした。
「ここでは勝者が絶対だ。誰がお前に言葉を発するのを許可した!」
「んひぃいいっ!!」
立場を弁えろと、アムラスの平手がララノアの無防備な尻たぶを容赦なく打ち据えた。バチィーンッ! と、尻肉がブルンッと弾み、一発で真っ赤に染まってその痛烈さを物語った。
「この場のお前は俺のペットだ! 身の程を知れっ!」
バチンっ! バチンッ! と、立て続けに見舞われる平手打ちに、
「痛っ! あぁあっ、やめっ――きひぃいっ!」
どれほど非道な仕打ちを受けても、エルフを弄んで悦に浸る人間に頭を下げるなど、プライドが許さなかった。尻を真っ赤に腫らしながらも、それだけは譲れない。
悶絶しながらも懸命に歯を食いしばっているのが観客にもわかり『いつまで保つんだか……』『やっぱり最初は生意気なくらいのほうが……』と、むしろにわかに盛り上がり始めた。
その様子に、アムラスも口角を吊り上げる。
この闘技場で王者に逆らう者など滅多に現れない。しかも今し方ボロ負けしたばかりだというのに、意地を張る姿は逆に新鮮だった。
「ひっ!! お、お前どこを触って!?」
アムラスの手が尻から股を潜って股間へ触れた。
ララノアは悲鳴をあげるが、密着した指は離れない。
「負けたお前のどこを触ろうが、俺の自由だ」
股間の割れ目に沿って指でなぞられると、ララノアは背筋に軽い電流が流れるのを感じつつ、羞恥に唇を噛むしかなかった。
しかし本人の意思に反して、敏感な器官はピクピクと震えてしまう。
「家畜どもはここを弄ってやると悦ぶが、お前はどうだ?」
「んっ、ふぅ……そう見えるのなら、お前の目がおかしいんだ……不要なら私が抉ってやるぞ……っ」
「クハハッ、裸でガニ股を晒してるヤツに言われたくないな」
「……どこまで我々を弄べば気が済むんだ、人間はっ」
怒りをぶつけても、最初から奴隷と認識している女の言葉など彼には届かない。時折他の観衆にも見えるように、ララノアの体の向きを変えていく。
「くっ、ふぅ……くそ、私は……んくぅ!」
恥部を見世物にされ、悔しさを隠しきれない。だというのに、肉体はアムラスの愛撫に反応してジンジンと熱を持ち始めていた。
決して感じているわけではないと言い聞かせるが、膣口を刺激されて体が火照りだす。膝がプルプルと情けなく震え、全身に力が入ってしまう。
「指が濡れてきたな。これはさっきの小便とは違うようだが?」
「ただの、生理現象だ……くっ、人間如きに私は屈しない!」
「そこまで言うなら最後まで抗ってみせろよ?」
アムラスはララノアの態度も含めて楽しんでおり、試すように徐々に指へ力をこめていく。
「んあっ!? こ、こんなことをして何が楽しいんだ……ぁ、理解、できんっ」
悪態をついて誤魔化そうとするが、今度はアムラスの指が淫裂を割って体内に滑りこんできた。異物の侵入を許してしまったララノアは、わずかに声が高くなっていた。
「ん? 思ったよりキツいな……お前、処女だな? まさか数百年と生きていながら男を知らんとは……白馬の王子でも夢見てたのか?」
アムラスの煽りに観衆がいっそう沸いた。
「わ、笑うな……っ!」
祖国を守れず北の森の国へ亡命した時から、女であることは捨てていた。奴隷に堕とされた王家を救うまでは、自身の幸せなど二の次だったのだ。
アムラスの言はまったくの的外れなのだが、それを正直に告げたところで処女が証明されたと喜ばせるだけだ。あえて黙ってはいるが、どれだけ馬鹿にされてもまともに抵抗すらできない不甲斐なさに、涙がこみ上げてくる。
ところが、悔しいはずなのに指を押しこまれた膣内がジクジクと痺れて震えが止まらない。貞操が脅かされているというのに、嫌悪感とは異なる感覚を覚えつつある自分がいた。
「口ではなんとでも言えるが、体は正直だな。音まで聞こえるぞ?」
「ふぅ、ふぅ……うぅ、うるさいっ……んんっ」
膣内で指が蠢くたびに、クチュクチュとねっとりとした水音が聞こえてくる。
(なんだこれは! なんだこれはっ! なんだこれはっ!?)
不快であるはずなのに、敏感な場所を弄られると声がこぼれそうになる。ララノアは眉を震わせながら、淫らな声を噛み殺すのに必死だった。それがアムラスや観衆の嗜虐心を刺激していることを気づかずに。
「処女のくせにこれだけ垂れ流していれば、問題ないなっ」
「ひぐっ!? こ、これ以上指を押しこむなぁぁ……!」
「クハハッ! 処女のくせに指くらいなら難なく入るぞ! 数百年間誰にも相手にされない化石マ×コが、とんだ淫乱だなぁ!」
無遠慮に指を挿入しているように見えて、後で楽しむためか器用に処女膜の隙間を縫って侵入してくる。これまで経験したことのない体内を異物が埋めこまれる感覚に自然と口が開いて、息を吐くのと同時に淫らな声が溢れてしまう。
「んひぃいっ!?」
男の太い指が、膣内の肉を掻き混ぜるように蠢く。誰にも触れられたことのない場所を刺激され、甲高い悲鳴をあげてしまった。
思わず自分の声なのかと疑ってしまうほどの艶を含んでおり、愕然して息を呑んだ。
「一気にマン汁の量が増したな。感じているのが丸わかりなんだが?」
「こんなもの、気持ち悪いだけだぁ……あっ、ぐぅ、私は感じてなどぉ……あぉ、おっ……動かす、なぁ……っ!」
どれだけ無様でも諦めるわけにはいかなかった。
「これだけ垂れ流しておきながら否定されてもな……さらに要求されているようにしか聞こえんぞ。まあ逆に肯定されても別に遠慮などせんがな」
小馬鹿にしつつ、未通の肉穴を捏ねくり回していく。
「あくぅ……! 卑猥な音を、立てるなぁ……んぐぅ!」
どれだけ歯を食いしばっても、膣口の奥から卑猥な粘着音が聞こえてくる。果てはアムラスの指を伝ってポタポタと垂れ落ちる始末。腹立たしいが、どれだけ拒絶してもララノアは分泌される粘液を止めることができなかった。
滴る淫液を目の当たりにして、自分の情けなさに泣きたくなりながらも、同時に昂ぶっていることも自覚していた。
解放軍として王家を救うために、娯楽や己の幸せなど考えたこともなかったララノアにとって、快楽を知識としては知っていても体験したことのない未知の感覚だった。
(ありえないっ……この私が人間に弄ばれて感じるなんて……! 耐えないと、耐えないとぉ!)
気を抜けば達してしまいそうだった。
歯を食いしばって押し寄せてくる衝動に抵抗する。
「どんどん溢れてきたな。好きなだけイケよ、何百歳で初めてアクメだぞ! 小便まで漏らしたんだ、イキ顔を晒すくらい今さらだろ?」
「んぁ、はぁ、はぁ……んんぅ、調子に、乗るなぁ……っ!」
殺したいほど憎い敵に弄ばれ、挙句に公衆の面前で果てるなど、これ以上恥の上塗りをするわけにはいかない。
「いや、調子に乗らせてもらうぞ。いつまでも同じことをしていたら観客が楽しめないからな。このままイカせてやろう!」
「も、もうやめ――ふぎぃいっ!? あっ、あぁああっ!」
ララノアの制止を遮って、アムラスは二本目の指を捻じこんだ。
相変わらず処女膜を傷つけることなく、乱暴な言動には似つかわしくない繊細な指使いで、粘膜を掻き毟るように動かしていく。勢いを増した強烈な刺激に、もはや声を抑えることができなかった。
衆目環視の中で大きく喉を仰け反らせ、みっともなく甲高い嬌声を響かせた。
指を咥えこんでいる淫裂からは、先の失禁を思い起こさせるほどに淫らな汁が溢れ出して、足元を色濃く染め上げていた。
「これだけ弱いくせに剣を振って無駄な時間を費やしてきたんだ、自分が女であることに感謝しながらたっぷりイッてしまえ!」
アムラスが、膣肉の敏感な場所を無遠慮に擦り立ててくる。誇りを愚弄されているというのに、もはやララノアはろくに言葉を発する余裕もなく、全身をガクガクと震わせていた。
そしてトドメとばかりに手首を捻り、膣粘膜を抉る。これまでとは違った摩擦感に、ララノアの意思がついに決壊した。
「おひっ!? ぃあっ、あっ、あひぃぃいいいっ!!」
ララノアがグッと背筋を仰け反らせ、調子の外れた淫声を張り上げる。それと同じタイミングで、割れ目の上部に位置する尿道口から、透明な体液が放物線を描いて盛大に飛び散った。
とうとう観衆の面前で絶頂した挙句、潮吹きまで披露してしまった。
案の定『潮か、小便か!?』『ギャハッ、吹きやがった!』だのと観衆は大いに沸き、ララノアを罵るものからアムラスの手練手管を賞賛するものまで、様々だった。
あまりにも惨めだというのに、ララノアの瞳に涙は溢れてこず、代わりに震える唇から言葉にもならない嬌声ばかり溢れてしまう。
(なんだこれはっ!? こんなの知らない! 知らないっ! ダメだダメだ! こんなものに、流されるわけにはぁああっ!!)
敵の玩具にされて悦ぶなど、ララノアのプライドが許さない。しかし味わったことのない性感を繰り返し刻みつけられ、堪えていた分だけ蓄積していた快感は途方もないほどの悦楽だった。
意識さえ飛びそうになり、視界が明滅する。
大勢の男たちの下卑た視線を浴びているというのに、全身を震わせて潮噴きを止めることもできなかった。
(違うっ……私は姫様たちをお救いするのだ! 敵に弄られて気持ちいいなんて、あるはずがないぃぃいっ!)
まだ東の森の国が健在だった頃は、アルフィリア姫を傍で支えていた騎士ヴィルヘルミナに騎士見習いの従者として剣を教わり、解放軍に入ってからも王家の再興しか頭になく、色恋などの己の欲求など二の次だった。
ララノアがこの世に生を受けて三百二十年間、ろくに意識したこともなかった反動なのか、初めて体験するオーガズムの壮絶さに翻弄され、無様に下半身を躍らせて喘ぐことしかできなかった。
「かはっ! はぁ、はぁ、はぁ……んぁ、ふぁぁ……っ!」
甘美な痺れに苛まれながらもアムラスの指が動きを止めると、ララノアはようやく意識を取り戻すことができたものの、全身が熱くなって汗を滴らせて、最初のような勢いが失われていた。
乳首はビンビンに勃起し、内腿から足首まで滴った淫液で濡れている。大きく肩で息をしながら熱い吐息とこぼす様は、誇り高いエルフとはかけ離れただらしないものだった。
「また威勢がいいのは最初だけだったな。観客に見られながら派手にイッたな」
「んぁ、はぁ、ぁ……ぁぁあっ、誰の……せいだとっ」
「あっさりと負けたヤツのせいに決まっているだろう? そもそも、この状況でマン汁を撒き散らしてたんだ、満更でもなかったんじゃないか?」
「そんなわけが……っ、くぅ……ある、かぁ……!」
「別に認めたくないならそれでもかまわん。認めさせるまでだからな」
虚勢を張るララノアに、アムラスは不敵に笑う。
「ま、まだ……終わらせない、つもりかっ……」
ララノアの瞳が不安に揺れるが、絶頂の余韻に震える震える口から漏れたのは艶を含む息遣いだった。敗北と屈辱のショックが胸中を渦巻いているはずなのに、まだ体内に残っている官能の灯がヒクヒクと淫裂を痙攣させてしまう。
「終わる? バカを言うな、まだこれからだろうが!」
アムラスによる絶望的な宣言が告げられると、今度は膝裏に手を回されて股間を観客に見せつけるように抱え上げられた。
「ああっ! こ、これ以上何をするつもりだ……っ!」
疲弊したララノアの表情に、困惑と恐怖の色が浮かぶ。
『ヒュ~、またいい声で啼けよな!』
『最初の自信はどうしたぁ? そんなに股をおっぴろげて恥ずかしくねぇのかよ!』
『こっちに向いてくれアムラスぅ! デカチンでマ×コをガバガバにしてやれぇ!』
観衆はこれから行われるショーに股間を熱くして野次を飛ばしてくる。
(野蛮人どもめ……敗者を弄って悦ぶ下衆が!)
どうにもできない悔しさに唇を噛むララノア。
先の強烈な絶頂感が抜けておらず、痺れてまったく力が入らない。
「観客も待ちきれないようだしな、続きをするぞ負け犬」
「くっ、ぅ……次は、何をするつもりだ……っ」
「決まっているだろう? お前の貫通式だ」
元より腰布一枚しか身に着けていなかったアムラスは、気がつけば裸になって漲った男根を反り返らせていた。
「ひっ!? そ、そんな……無理だ、こんなものっ!」
敗北した時点でこうなることは理解していたが、考えないようにしていたのだ。
近づけられただけで、それから発せられる熱が伝わってくるほどの極太ペニス。
巨大なアムラスの体躯に見劣りしないどころか、より凶悪さを放っていた。
細身な女の腕と錯覚させるほどで、腹を突き抜けるのではと、気丈に振る舞いながらもじっとりと冷や汗を滲ませていた。
「お前は俺があの玩具で遊んでいたのを見ただろう? だいたいここからガキをひり出すんだ、問題ない」
アムラスが無慈悲に呟くと、抱えているララノアをゆっくりと降下させる。
(た、確かにアルフィリア様は……だがこんな大きなモノが本当に……!?)
男根が股間に近づくにつれて、これを挿入されたら自分が壊れてしまうのではと恐怖に息を呑んだ。依然として観衆から野次を飛ばされているが、緊張のあまりまるで聞こえない。
「い、いやっ! やめ――」
赤黒く腫れ上がった亀頭が股間に触れると、ララノアは男の熱さにゾクゾクと背筋を震わせながらも、恐怖を抑えきれなかった。
だがそれよりもアムラスの行動のほうが素早かった。
「――んぎぃいいっ!? うぁあああああっ!!」
初めての行為への恐怖心を焦らすこともなく、いきなり拳と見紛うばかりの亀頭を膣穴へズッポリと埋めこんだ。
目を見開いて悶絶するララノア。体格差もさることながら、不慣れな処女の肉穴には凶暴すぎて悲鳴をあげた。
「先端が入ったんだ、これで問題ない、なっ!」
アムラスは笑いを堪えつつ、ララノアの膣内へと押しこんでいく。
「あぐぅうっ! ぉ、おっ、大きすぎるぅ……む、無理だ、入らなぁ……ぁああっ!」
どれだけ喚こうがまるで意に介さない。
圧倒的な力で、ララノアの狭い膣穴を強引に押し広げていった。
そして瞬く間に処女膜へと到達するた、感慨を覚える暇もなく突き破られ、激痛に身を捩るものの限界以上に広げられながら膣奥まで咥えこんでいた。
「ほらみろ、やればできるじゃないか!」
上機嫌で嘲笑しながら、腰を揺すって可能な限り根元まで捻じこんでいく。
「ふぅ、ふぅ……んぅぅうっ! ぐぅ、ぅ、あぁぁあああっ!」
訓練でそれなりに痛みには慣れているつもりが、体の内側から抉られる痛みはこれまで経験のないもので、堪らず声をあげてしまう。さらにはあまりの巨大なペニスに、ララノアの下腹部がうっすらとアムラスの形に膨らんでいた。
子宮を押し上げられるような感覚と、これまで経験したことのない痛みに、だらしなく開いた唇から涎が垂れてくる。無様すぎて、激痛によって失神ができればどれだけ楽になれるかとさえ考えてしまうほどなのだが、ララノアは自分が感じているのが痛みだけではないとも自覚していた。
膣内を蹂躙されて痛くて苦しいはずなのに、同時に甘い痺れのようなものも感じていた。挿入される前に散々愛撫されて昂ぶっていた影響で、本能で牡を求めてしまった挙句に、圧倒的な存在感を放つ男根に子宮が狂わされてしまっていた。
破瓜による出血も少なく、流れ出る淫液がうっすらと朱に染まっているものの、観衆の距離からではそれを判別するのは難しく、ただひたすらに淫猥な蜜を垂れ流しているようにしか映らないだろう。笑い者にされて憤りを感じるが、膣奥も燃えるように熱くなっていく。
乳首も限界まで肥大化して煩悩が理性を侵食しつつあり、先ほどのアムラスによる愛撫と同様に、強い牡に牝が目覚めた肉体を抑えきれなくなりそうだった。
破瓜の痛みさえ上回る暴力的な快楽。
苦痛で頭がおかしくなったのか、徐々にララノアはだらしなく破顔していった。
(ど、どうして……!? 苦しいのにっ……殺したいほど憎いはずなのにっ……どうして私の体は……っ!)
子宮をズンッと突き上げられるたびに、思考が乱れた。
まるで肉体に別の意思が宿ったかのように、肌が泡立ってアムラスに抱えられながらしきりに身を揺すっていた。
『アイツ、自分から腰振ってないか!?』
『ブッ、ハハハッ! 人間には屈しないとかほざいてたの誰だよ!』
『最初から犯されるつもりだったんだよ! アムラスのは特別デカイからな!』
観衆からは罵りよりも、馬鹿にする笑い声のほうが大きくなっていく。
「気持ちいいんだな? 無駄に歳だけ重ねて男を知らなかったザコマ×コのくせに、一丁前に自分から腰を振ってるぞ?」
「あぉおっ! ぉひっ、み、見るなぁ……んぉ、こ、これは違っ……私は、そんなつもりはあぁぁ……!」
「つもりはない? お前のマ×コが俺のチ×ポに吸いついてはなさないんだが? こんな淫乱マ×コでよく今まで処女でいられたな、よほどエルフの男どもは祖チンばかりなのか?」
頑なに官能を認めようとしないララノアだが、アムラスは粗暴で我侭な男である。反抗されれば、むしろ嬉々として責め立ててくる。
やれやれと呆れながらも、腰の角度を調節してペニスにグッと力をこめた。
「おごっ、おっ、おんんんぅ……! こっ、これ以上入らないぃぃ! んぉ、奥まで、届いてるからぁぁぁあっ!」
そんな訴えも、苦痛を上書きする勢いで子宮へ強烈な快感を叩きつけていく。
「まだだ! まだイケるだろ! 俺の極太チ×ポでガバガバになったマ×コを、もっと客に見てもらえよ!」
「んぎぃ! いっ、いやだぁぁあああっ! 私は屈しないっ、屈したくなんか――ぁおおおおおっ!?」
子宮を突き破らんばかりにペニスがめりこみ、ララノアは激痛と快感が綯い交ぜになった混沌の渦に呑みこまれていく。それでも肉体の反応は顕著で、一突きごとにアクメを叩きつけられているかのようで痙攣が止まらない。
(気持ちよくない! こんなので気持ちよくなるわけがっ! わ、私は姫様を――王家の方々をお助けするのだっ!! 下賤な人間に子宮を潰されてながら、イグわけがないぃぃいぃいっ!!)
それでもララノアは必死で首を横に振り、理性を保とうとする。
「わかりやすすぎるだろ……まあ好きなだけほざいてろ! これから何百年も男を知らなかったマ×コに、種付けするところを見てもらうんだからなぁ!」
アムラスは笑って、腰使いを加速させた。
「いっ、いあっ! やめぇええっ! んごっ、ゴツゴツ突くにゃぁあっ!」
種付けと耳にして背筋に悪寒が走り、思わず悲鳴をあげるララノア。しかしこれまで幾度となく女を犯し、弱点を知り尽くしている力強いペニス捌きに性感帯を刺激され、あっという間に声を上擦らせてしまう。
「今期待したな? マン汁が一気に溢れてきたぞ?」
「ばっ、馬鹿を言うなぁ! んぉ、おっ……私は誇り高きエルフぅ……お、お前に、お前にゃんかにぃ……ぃんんんっ!」
心身共にズタズタにされながらも、ララノアは淫声をあげてしまう。まるで目の前の絶望から逃れるために、脳の防衛本能が感覚を狂わせているのかもしれない。
だがアムラスにとってそんなことはどうでもよかった。この男は自分の思うがままに女を弄り犯したいだけだ。
「遠慮せずイケよ誇り高いエルフ様ぁ! 俺のチ×ポに屈して種付けアクメを客に披露するんだよ!」
通夜を含んだ声で泣き喚くララノアに満面の笑みを浮かべながら、アムラスはラストスパートをかけた。
男を知ったばかりの肉穴へ、体を弾ませるほど力強くペニスを打ちつけていく。
「おぐぅうっ! いぎっ、あぁあっ! やめっ、やめりょぉおっ、おぉおっ!」
懸命に拒絶するが、ララノアの肉体はビクビクと痙攣するばかりだった。
「マ×コがどんどん熱くキツくなってきたぞ!」
当人の意思とは裏腹に、牡の逞しさが漲ったペニスによる容赦のないピストンによって官能は限界まで膨れ上がっている。途方もない悦びが下腹部で渦巻いており、かつてない境地へと押し上げようとする。
(イヤ、イヤだっ! こんな男にイカされて種付けされるなんて絶対にぃいっ!)
そう内心では思い続けていても、体はまるで主人の言うことを聞いてくれない。
絶望感に苛まれながらも、烈火のごとく子宮を抉られるララノアの顔は蕩けていた。
「イケよザコマ×コ! 誇り高いエルフ様のアヘ顔を見せつけろ!」
クライマックスが迫り、観客たちは食い入るように見つめている。ララノアの処女喪失と種付けアクメは、この場にいる人間の目に強く焼きつくことになるだろう。
「わ、私はイカにゃいぃぃ! 私はっ、わらひはぁああ――」
「おらぁ!!」
アムラスが短く声をあげると同時に、張り詰めたペニスが子宮を串刺しにして、そのまま精液を撃ちつけた。
「――おごぉおおおおおっ!?」
大量の牡汁によって爆発的な勢いで子宮が張り詰め、最も過敏な場所で灼熱の奔流を浴びたララノアの理性は瞬く間に崩壊する。強烈な絶頂感に白目を剥くと獣じみた咆哮をあげ、アムラスに背を預けて仰け反った。
男根を咥えこんだ膣口がプルプルと震え、許容量を超えた白濁液が隙間を押し広げて溢れ出した。
『ギャハハハッ! 生意気なクソエルフがガチイキしてやがる!』
『舌伸ばして涎垂らしてやがっぞ! さすがアムラスのデカチンだな、なかなかあんなみっともないイキ方させられねぇよ!』
「んぃやぁああっ!! み、見るにゃ、見るにゃあぁぁあっ!!」
ララノアは絶叫するものの、目尻は垂れ下がって衝撃が引かずに脚は突っ張ったまま。さらには結合部から精液を垂れ流しているため、場内はいっそう下品な笑いに包まれた。
屈辱のあまり目尻には涙が浮かぶ。圧倒的な快感の前に積年の想いなど無力でしかなかった。憎い人間によって、ララノアは人生で初めてのアクメを刻みつけられてしまった。
「無様にイッたじゃないか。所詮あの玩具の同族か」
子宮にペニスを嵌めたまま、アムラスが嘲笑する。
「あ、あぁ……そ、それはぁ……っ! 違う、わらひっ、私はぁ――おほぉおっ!!」
言い訳の言葉すら浮かばないほど、敗北感と不甲斐なさに襲われる。解放軍としての使命やエルフの誇りを持ちながら、敵のペニスによって大勢の前で種付けアクメを晒してしまった。
さらにはそんな状態でも、体内で男根が震えた途端に甘美感を覚えている己がいた。
「ハハッ! いいぞ。少しは身の程を知ったようだが、マダムとの賭けは始まったばかりだが、簡単に壊れてくれるなよ」
そう呟くと、アムラスは深く埋没させていた男根を再び抽送させ始める。
子宮を充満させるほどの射精をしたばかりにもかかわらず、極太ペニスは些かも硬さを失っていなかった。
「ぬひぃぃいいい!? やめろっ、動くなぁぁあっ! んぉ、これ以上、私を乱すなぁ――んぁ、あへぇぇえっ!!」
依然として絶頂の余韻に震えていた膣粘膜を掻き毟られ、ララノアは感極まったような淫声を迸らせ、そして――
ジョロ、ジョロロロロ……。
先ほどの失禁で出しきっていなかったのか、抽送の刺激に触発された膀胱から堰を切ったように黄金水が溢れた。
『おい見ろよ! アイツまた漏らしてるぞ!』
『何百年も生きてるババアだから、下が緩くなってたんじゃないか?』
『俺なら恥ずかしくて自殺もんだぜ!』
観衆の笑い声に、もはや言い返す気力も沸かなかった。
するとそんな下品な声も、徐々に聞こえなくなっていく。
(アルフィリア様……申し訳ありません。いずれ必ず私が、お助けを……)
これまで培ってきた自信を打ち砕かれ、弄ばれた心身はとっくに疲弊しきっており、押し潰されそうになる心を懸命に鼓舞しながら、ララノアの意識は闇に溶けていった。