【2020年11月16日】

嫁入りメイド・栗栖川くるみは娶られたい第一章公開

 

 

 

 

続きを読むから第一章

○プロローグ~春
「あなたが、好きです」
 強風と雨とですっかり花が散ってしまった桜の木の下で、制服姿の少女はこれ以上なく短い、けれど強い声で男に告白をした。桜の花よりも鮮やかな色をした頬と、こちらを見つめたまま動かない黒い瞳を前に、男は激しく狼狽する。
「俺は……」
 いくつかの感情が頭の中で渦を巻く。本心だと思い込んでいた理性と、気の迷いだと目を背け続けた本音とが激しくぶつかり合う。
「俺は……お前を、そういう目で、見られない。すまん」
 言いながら、男は少女からわずかに視線を逸らした。
「……私は女として、魅力がないですか?」
 少女はその逃げた先に身体を動かし、再び男の目を覗き込んでくる。
「違う。贔屓目を抜きにしても、魅力的だと思う。だが、俺にとってのお前はその……娘みたいなもので……歳も離れてるし……」
 少女の大きな瞳に心の奥底まで見抜かれてる気がして、弁明がしどろもどろになっていく。だが、そもそも言い訳の相手が果たして少女なのか、あるいは自分自身に対してなのか、男にもわからなくなっていた。
「…………ふうん」
 長い沈黙のあと、少女はそれだけ言うと、くるりと背を向けた。
 呆れられたか、と思った瞬間、男の胸がちくりと痛む。この痛みこそがすべての答えだろうと思ったものの、今さら告白を受け入れられるはずなどなかった。
(違う、受け入れちゃいけないんだ)
 俯いた男は気づかなかった。少女が顔だけをこちらに向け、一人落ち込む自分をじっと観察していたことに。そして、男のつらそうな表情を見た瞬間、その口元にかすかな笑みが浮かんでいたことに。
 少女の笑顔を見たのは、くるみ色の髪を舞わせる春風だけだった。
○第一章~秋(九月、新学期)
 来客を告げるチャイムに、武士沢達郎は三文判を持って玄関に向かった。宅配だろうと思ったからだが、そこにいたのは見慣れない格好をした、とてもよく見慣れた、けれど諸事情で数ヶ月ほど会ってなかった人物だった。
「く、くるみ!? どうして……っ」
「お久しぶりです、達郎。ふふ、ずいぶんと準備がいいんですね。ああ、だけど残念です、スタンプ式のハンコは婚姻届には使えないんです」
 達郎の遠縁に当たる栗栖川くるみは、心底残念そうに眉を下げる。事情があって、達郎が中学生の頃からあれこれと面倒を見てきた少女だ。年齢的には兄と妹に見えるかもしれないが、関係性は父と娘のそれに近い。少なくとも達郎はそう思っていた。
「は? 婚姻届? いや、どうしてここに? その格好はなんなんだ?」
「落ち着いてください、達郎。まずは私に挨拶をさせてくれませんか?」
 動揺しまくる大の大人に、くるみが余裕たっぷりに微笑む。これでは、どちらが歳上かわからない。
「お、おう。……挨拶?」
 首を傾げる達郎の前で、くるみは脚を交差させると、そのまま軽く膝を曲げた。そしてスカートをつまみ上げ、こちらに向けて頭を下げる。
「突然の訪問、失礼しました。けれど、驚いてもらいたかったのです。……栗栖川くるみ、武士沢達郎様の専属メイドとして、本日よりこちらでお世話になります」
 ぎこちなさなど欠片も感じない、流れるような、そして優美な挨拶だった。気品すら漂うその動きに、達郎は完全に見惚れてしまう。
「達郎、どうかしましたか? あ、これはカーテシーという挨拶のポーズです」
「い、いや、俺が驚いてるのはそっちじゃなくてだな、その格好のほうだ。まるでメイドさんみたいじゃないか」
 名前と同じくるみ色の髪に着けられたカチューシャ、フリルたっぷりのエプロンドレスは、確かに大筋においてメイドの服装に見えた。
「はあ。メイドですけど。……今、言いましたよね、達郎の専属メイドだって。聞いてました?」
 くるみは軽く首を傾げ、訝しげに達郎を見る。が、その顔はすぐに笑みに変わった。
「なるほどなるほど。達郎は私のメイド姿に気を取られてたのですね? 端的に言って、見惚れてくれた、と」
「なっ……違う、俺はそんな」
「え。似合ってませんでしたか? 可愛くなかったですか? 私、達郎に褒めてもらえると期待してたのに……」
 悲しげに眉根を寄せるくるみの表情を前に、達郎は否定を断念する。
「……似合っては、いる」
 昔から、くるみのこういった顔には滅法甘くて弱い(自覚はある)達郎は、気恥ずかしさを押し殺し、素直に認めた。
「可愛くは、ないですか?」
 そんな達郎に対し、期待を隠さないメイド少女がぐっと身体を寄せ、さらなる言葉を露骨に要求してくる。
(こいつはもう、昔からこれなんだから……! 甘やかしすぎたか!?)
 しかし、達郎は求められるまま、答えを返す。甘やかしである。
「可愛い、ぞ、うん」
「やった! ありがとうございます!」
 無防備すぎるくらいの満面の笑みにつられ、達郎の口元も緩みかける。が、慌てて引き締め、小言も付け加えておく。
「でも、いくらまだまだ暑いとは、ちょっと肌を出しすぎだな。お前ももう子供じゃないんだから、そこらへんは気をつけなさい」
 ちょっと、とは言ったが、だいぶ出しすぎだろ、が本音だった。特に胸元の開きっぷりは目の毒だ。また、黒いストッキングを吊るガーターベルトも扇情的で、達郎は目のやり場に困ってしまう。
「大丈夫です、私がこの格好を、ううん、肌を見せるのは、達郎だけですから」
 そう言ってくるみは瞳を細め、微笑んだ。肉親以上に長く接してきた達郎も初めて見る、どこか妖しげな、艶めかしさすら感じる笑みだった。
「そんなわけですから、これからよろしくお願いします、ご主人様♥」
「ご、ご主人様ぁ!?」
 困惑続きの達郎の横をすり抜け、くるみは家の中に上がり込む。エプロンドレスのインパクトが強くて気づくのが遅れたが、くるみは大きなスーツケースを持っていた。
「待て待て、メイドだのご主人様だの意味がわからんぞ!? あと、その大荷物はなんだ、海外にでも行くつもりか!?」
「どこにも行きませんよ。私の居場所は昔も今もここ、あなたの側なんですから。これは、日用品とか最低限の着替えが入ってます。家具などは、あとで届きます」
 押しかけメイドは襖を開けて居間へと入る。達郎も少し遅れて続くと、くるみは座布団にちょこんと正坐をしていた。畳敷きの純和風の部屋と、フリルたっぷりのメイド服を着た美少女の組み合わせの違和感はなかなかのものだった。
「もうわかってると思いますけど、私、住み込みで働かせてもらいますから」
「は!? が、学校は!?」
「ここから通います。通学時間は変わりませんし。そもそも、私にとってのホントの実家はこっちですよ? むしろ、ここに来るのが遅すぎたくらいです」
 以前ここに住んでいたが、ようやく家庭環境が落ち着いたため、くるみは高校入学と同時に栗栖川家に戻っていた。その後、達郎の両親が中古マンションを購入。四人で暮らしてたこの古い平屋の一軒家には、通勤の関係で達郎だけが残り、現在に至る。
「ああ、安心してください。学生だからと甘えて、メイドの本分を疎かにはしません。放課後はまっすぐ帰宅し、完璧に家事やその他諸々をこなしてみせます」
 くるみは「任せてください」とばかりに自分の胸をぽん、と叩く。その拍子に、メイド服に包まれたバストが柔らかそうに揺れた。
(くっ、また育ってないか、こいつ。昔は定規を当てたように直線だったのに。……って、そうじゃないっ)
「ちゃんと、筋道立てて説明してくれ。なにがなんだか、まったくわからん」
 達郎もくるみの斜め前にあぐらをかいて座る。真向かいにしなかったのは、目のやり場に困りそうだったためだ。
「それも、そうですね。先走りすぎました。すみません。……すべては今から五ヶ月前の春、達郎が私の愛の告白を拒んだことから始まりました」
「ぶっ!」
「ショックでした。まさか拒絶されるとは夢にも思ってませんでしたから。私の人生設計が根底から崩れた瞬間でした」
 じろり、と睨まれた。
「うっ」
「でも、あれがご主人様の本心ではないと気づき、私は対策を講じたのです。つまり、メイドになればいいのだと」
「待て、筋道立てろと言っただろ!? 展開が飛躍しすぎて理解できんわ!」
「えーと……ご主人様が、本当はくるみのことが好きで、でも歳の差とか立場とか世間体とか気にして渋々、泣く泣く、イヤイヤ女子高生の告白を断った……ってところまでは理解できますよね? 自分のことですし」
 真顔だった。なんの疑いも抱いてない、心からの真顔だった。悪意も揶揄もなく、しかもまったくの間違いでもないせいで、達郎は咄嗟に否定できなかった。
「周囲の目を気にするご主人様を素直にさせるべく、私はまず、邪魔っけな保護者ポジションを排除しようと考えました。ご主人様とメイドの主従関係、雇用関係であれば、色々と都合がいいと思えたからです」
 呆然とする達郎の姿を肯定と受け取ったらしく、くるみは満足げにうんうんと頷いている。
「もちろん、いい加減な気持ちで達郎のお世話はできませんから、きちんとメイドの研修は受けてきました。権威ある日本メイド協会の検定試験にも合格してます」
「協会!? 研修!? 検定!? メイドの!?」
「はい。夏休みを利用して、メイド検定の合宿に参加してました。ご主人様と会えない夏は寂しかったですけれど、頑張りました。褒めてください」
 くるみは斜め前方、すなわち達郎のいる場所に向けて頭を差し出してきた。見慣れたくるみ色の髪と初めて見る純白のカチューシャを、達郎の視線が往復する。
(俺に頭を撫でさせたがるところ、昔から変わらないな)
 服は変わっても中身はよく知る少女のままだとわかり、少しだけ気持ちが落ち着いた。早く早く、と揺れる髪に手を伸ばし、カチューシャをずらさぬように優しく撫でてやる。少しだけ達郎の真似をした髪型も、昔と一緒なのも嬉しかった。
「なにを頑張ったのかは正直わからんが、まあ、その……よくやったな、くるみ」
 ここで請われるまま褒めてしまうのがまずいんだよな、と自覚はしてるが、幼い頃から面倒を見てきたくるみには、どうしても甘くなってしまう達郎なのだ。
「メイド研修の詳細についてはまたあとで説明します。今は、私たちの関係がドラスティックに変化したとだけ、理解してください。ドメスティックな変化も希望しますが」
「見た目は確かにドラスティックだな。……ドメスティック? なにが?」
 頭を撫でていた手を引っ込めながら聞くが、幼なじみは答えない。
「見た目だけでなく、中身も変わってます。身の回りのお世話はお任せください」
 もっと撫でて欲しそうな顔をしつつも、くるみは自信ありげに言った。
「まるで決定事項みたいになってるけど、俺は全然理解も納得も承諾もしてないからな? メイド云々はともかく、どうしてお前がここに住む流れになってんだよ」
「説明しましたよね、今? 達郎が保護者ポジションを言い訳に私の告白を拒んだから、それを改善するためにメイドになっただけの話です。そしてメイドをやるからには、当然、住み込みがベストでしょう」
 理解できないこちらが間違ってるのかと思わせるほど迷いのない、澄んだ目で見つめられた。
「幸い、ここは私にとっては実家以上に実家です。ホームです。文字どおりのホームです。学校も近いし、住み込むのが理論的にも最適解と思われますが?」
「実家からでも通えるんだろ? いくら遠い親戚とはいえ、若い女が独身男の家に住み込むとか、常識的にアウトだろ」
「ちょっと前までは実質同棲してたじゃないですか、私たち」
「妙な表現するな。あれは……親戚の子を預かってたってやつだろーが。それに、あの頃はうちの親もいたし」
 一瞬言い淀んだのは、己のセリフに潜む欺瞞に後ろめたさを覚えたためだ。確かに、かつてはそうだった。けれど、何年か前から、達郎はくるみに対し「ただの親戚の子」以上の感情を抱いてたことは否めない。
「私にしてみたら、こっちが実家なんですけどね。あっちは、他人の家みたいで落ち着きません。まあ、おかげさまで普通に暮らす分には問題ないですが」
「あー……」
 栗栖川家の事情をよく知る達郎には、くるみの気持ちはよく理解できた。同時に、自分の元を実家のようだと言われたことが嬉しくて、つい、頬を緩めてしまう。
 そして、くるみはそれを見逃したりはしなかった。
「達郎だって、今の一人暮らしより私との同棲生活のほうが楽しかったですよね?」
「だから、言い方! 誰かに聞かれたら、誤解されるだろーがよ。俺は保護者で、お前は親戚から預かってた子。妙な表現するな。通報されたらどーすんだ」
「誤解じゃなく、事実にすればいいだけでは? いえ、ここはいっそ、私をお嫁さんにするのはいかがですか? 一気にそこまで踏んぎるのが難しいのでしたら、カジュアルに婚約、なんてのはどうです? 通報されるリスクも回避できますし」
 くるみは身を乗り出し、真剣な表情で顔を近づけてくる。赤みがかった頬や潤んだ瞳は、あの春の、告白してきたくるみと重なった。
「婚約のどこがカジュアルなんだよ!」
「達郎は昔から、物事を重く受け止めすぎです。もっと気楽に、人生をエンジョイしましょうよ」
「婚約だの結婚を気楽に考えられる年齢じゃねーんだよ!」
「達郎も、四捨五入したら三十路の二十五歳ですもんね。もう、結婚して身を固めるお年頃ではないですか? 目の前のメイドとか、オススメです」
「いやいや、待て待て。ちょっと俺に落ち着く時間をくれ……」
 達郎がくるみと初めて出会ったのは十年前の春だった。とても子育てできる環境になかった栗栖川家を不安視した達郎の両親が、くるみを引き取ったのだ。
(まさか、あのとき親に連れてこられた女の子が十年後、メイド服着て俺のところに押しかけてくるとかさー……想像もできんわ)
 当時のくるみは小学生になったばかりだったが、早生まれに加え栄養状態にも恵まれておらず、ずいぶんと細く、小さく、弱々しく見えた。中学生だった達郎少年の庇護欲はいたく刺激され、くるみへの父性が目覚める最初のきっかけとなった。
「あ。達郎と呼ぶのはやめたほうがいいですかね? 歳下のメイドに呼び捨てにされるのはイヤでしょうし」
「十年もそう呼ばれてきてんだ、他の呼び方されるほうが落ち着かん」
 たちゅろ、たちゅろ、と懐いてくれた幼いときのくるみを懐かしく思い出しながら、答える。
「では、当面は現状どおりの『達郎』と『ご主人様』の二通りで。もちろん、いつでも変更可能ですので、遠慮なくお申し付けください、ご主人様」
「はあ。もう勝手にしろ。……栗栖川の親は承諾したのか? ここに来ること」
「ええ。あの人たち、私のことは完全は武士沢家に丸投げしてますから。一応、書類上はまだ私の保護者のはずなんですが、その自覚はまったくないですね。……ああ、もちろん、武士沢のママさんパパさんにも許可もらってます」
「うちの親にまで根回ししたのかよ!?」
「頑張れ、と応援されました。両家の親公認ですので、どうぞご安心を」
「どいつもこいつも……!」
 達郎は深いため息のあとで目を瞑り、腕を組み、考える。大人として、保護者としての良識と理性はくるみとの同居に反対したが、結局、折れた。
「お前が使ってた部屋は、そのままにしてある。好きに使え」
 達郎は保護者代理として、くるみに対して厳しくするところは厳しくしてきたつもりだ。くるみの両親は娘に関心がなく、逆に達郎の両親はくるみにとにかく甘かったから、自分だけはしっかり躾けなければと、子供心に危機感を覚えたせいである。
(甘いな、俺は)
 けれど、最終的にはなんだかんだと甘くなってしまう自覚はあった。これまで、くるみの本気の願いを拒んだのは、今年の春の、あの告白の一度きりだ。
(いや。今回のは、甘いとは違うな。なんだかんだと、くるみとまた一緒に暮らせることを喜んでるんだ、俺は。この、卑怯者め)
「ご主人様、どうかしました?」
 突然、視界の大半がくるみの顔面で占められた。互いの鼻先が触れ合うほどの距離に顔を寄せてきたくるみから、達郎は慌てて飛び退く。
「近い近い!」
「この程度でなにを驚くんです? ほっぺたすりすりなんて、しょっちゅうしてたのに。キスだって、何度もしたじゃないですか。私のファーストキスの相手はあなたなんですよ?」
「あ、あんなん、ノーカンだノーカン!」
「でも今は、ちゃんと私を女として意識してくれてますよね?」
「…………」
「あ、都合が悪くなると黙るのはずるいと思います。昔、私がふて腐れてだんまりしてたとき、ご主人様、怒ったじゃないですか。保護者として、そういう態度は教育上、よくないですよねー」
「こ、こんなときだけ保護者にするのは、それこそずるいだろ」
「恋する女はずるくなるんです。つまり、元凶はご主人様ってことです」
 くるみは畳の上を四つん這いでにじり寄り、再び距離を詰めてくる。さっきよりもさらに顔が近づけられ、昔とはまた別の甘い匂いが達郎の鼻腔をくすぐった。また、メイド服の胸元から覗く魅惑の谷間も、達郎を惑わせる。
「私をこれ以上狡猾な娘にしたくなければ、とっとと観念してください」
「脅迫かよ!?」
「誤解です。愛です。愛なのです」
 このままだとキスされかねないと危ぶんだ達郎は、メイド少女の肩を掴み、強引に突き放した。キスそのものではなく、その後の自分がどんな行動に出るかわからないことに危惧したのだ。
「ガードが堅いですね」
「お前のガードが緩いだけだ」
「ご安心ください、私がノーガードになるのは、ご主人様の前でだけです。普段はきっちりしっかり、ご主人様のために操を守ってます」
「み、操って」
 男の独占欲を刺激するワードに狼狽える達郎を、くるみはじっと見つめてくる。それはまるで、こちらのガードの隙を探ってるかのようだった。当然、隙を見つけたらがぶりと食いついてくるのだろう。
「ああ、そうでした。実は通学に使ってる電車、最近、痴漢が出るらしいんです。私はご主人様以外に触られるのは我慢ならないので、それもあってこっちの家から通いたいなって思ったんです」
 完全な嘘ではないにせよ、この家に住み込むための言い訳だろうとすぐにわかった。伊達に子供の頃から見ていないのだ。けれど、子供の頃から大切に面倒を見てきた少女が、卑劣な輩に襲われる状況を想像した途端、真偽などどうでもよくなっていた。
「お前の高校は、ここからなら近いからな」
「はいっ。歩いて通えます! そもそも、ここから通える学校だから受験したわけですし」
「…………わかった。ここから通え」
 セリフの後半はよく聞き取れなかった達郎は改めて、くるみに同居の許可を出す。
「やった! ありがとうございます、達郎っ! ううん、ご主人様!」
「だから、ご主人様はやめろ! メイドである必要はもうないだろ!? 通学のために親戚の娘を居候させる、それだけの話だろうが」
「それとこれとは別です。ただの居候だったら、ご主人様を誘惑する名目にならないじゃないですか」
「この娘、誘惑とか言いおった!?」
 己の教育は間違ってたのだろうかと、本気でショックを受ける。
「いいですか、私は本気であなたを狙ってます。だから、まずはご主人様のそのめんどくさい言い訳ガードをかわすため、メイドになったんです。保護者カードはもう切らせませんから」
「うっ」
 春以来のストレートな告白に、さすがに顔が熱くなる。
「同棲の許可はいただいたので、焦らず、急がず、逸らず、じっくり、しっかり、きっちりと迫ります。アピールします。私を娶りたくなってもらいます。覚悟してくださいね、たちゅろ」
 最後に、達郎の琴線を刺激するようにわざと舌足らずな発音で名を呼ぶあたりが凶悪だった。
     ☆
「ご主人様、こっち向いてください。ネクタイ、結んであげますから」
 くるみが達郎の元に押しかけてから、半月が過ぎた。長年、武士沢家で暮らしてたので、生活に問題はない。むしろ、親のいる自宅のほうがアウェー感がある。
「ネクタイくらい、自分でやれるってば」
「ダメです。ご主人様のネクタイを結ぶのはメイドの義務であり、権利なんです」
 朝は出勤前の達郎の支度を手伝う。他人のネクタイを結ぶ技術は、メイド研修の際、特に気合いを入れて学んだものだ。
(達郎の喉仏、可愛い。お髭剃りも、私に任せてくれればいいのに)
 初めて結んだときは興奮と緊張と感動とでそれどころではなかったが、今はだいぶ慣れ、達郎の喉元を観察したり、さりげなく撫でたり、さらには身体を密着させて女をアピールする余裕もできた。
「そ、それくらいでいいってば」
 逆に、達郎は日に日に落ち着きをなくしつつあった。こちらの若い肢体を意識してるのは明白で、それがくるみに新たな余裕を生み出す。
「いいえ、身だしなみは大切です。ご主人様だって、いつもそう言ってたじゃないですか。ハンカチとティッシュ持ったか、忘れ物はないか、宿題はランドセルに入れたか、防犯ブザーはあるか、とか」
「小学生と大人じゃ事情が違うだろうがよ。だいたい立場が逆だろ、これじゃ」
「当然です。いつまでもご主人様に保護者気分でいられては困りますから。今後はメイドである私があなたのお世話をする番なんです。いい加減、諦めてください」
 パワーバランスを押し戻そうとする達郎を、くるみはじわじわと追い詰めていく。(ホントは私のこと、好きなくせに。幼い頃から大切に育てた可愛い女の子に迫られて、内心、嬉しいくせに。さっさと素直になってくれればお互い幸せになれるんですよ?)
 けれど、くるみは決して急がなかった。焦らずじっくり迫ると宣言したとおり、少しずつ、達郎へのアピールを繰り返す。なにしろ、時間もチャンスもたっぷりとあるのだ。メイドとして同居できた時点で、作戦の八割は成功したも同然だった。
「でも、よかったです。もしご主人様の転勤話が実現してたら、こうしてまた一緒にいられませんでしたから。異動のおかげ、なんですよね?」
「あ、あー、うん。運よく転勤のない部署に異動になったからな。今のところは残業も少ないしさ。ラッキーだったよ。ま、給料は減ったけど」
(嘘ばっかり。ママさんたちから聞いてるんですから。あなたが出世コースを捨ててまで、転勤のない部署への異動を希望したこと)
 今年の春、慌てて達郎に告白をしたのは、異動が叶わず、転勤の可能性があったためだ。
(たとえ転勤で遠くに行くことになったとしても、妻として一緒についていくつもりだったんですよ、私。告白を断られるとは、想定外でしたけど)
 ネクタイを確認するふりをして、くるみは軽く達郎を睨む。
(これからは私があなたのお世話をします。メイドなし、私なしでは生きられないくらい、骨抜きにしちゃうんですから。かつて達郎が私にそうしたように)
「……さ、そろそろ出ましょうか」
 達郎に鞄を持たせ、自分も学校に行く準備をする。と言っても、すでに制服には着替えてるので、あとは頭のカチューシャを外すだけだ。
「外すくらいなら、最初から着けなきゃいいだろうに」
「メイドの嗜みです。本当は家にいるあいだはエプロンドレスも着ていたいんですけど、さすがに朝はばたばたしてますし……」
 その代わり、休日はちゃんと朝から正装、つまりメイド服のフル装備で家事や達郎の世話をするようにしていた。
「それに、制服とカチューシャの組み合わせも可愛いと思いません? 女子高生とメイド、奇跡のコラボですよ? もし、達郎がその気になれば、ここに幼妻、新妻属性までついちゃうんですよ? 最強ですよ?」
 一度は外したカチューシャを再び装着し、スカートをつまみ上げて生脚を見せつけつつ、達郎に迫る。
(押しまくると引かれる可能性大ですが、たまにこうした不意打ちするのは効果的なはず。めりはりや緩急、大事)
「バ、バカなことしてないで、出るぞ。遅刻するんだろ」
 今度は、達郎が強引に話を切り上げた。つまりは、アピールの効果があった証拠だ。
(ふふっ、この調子で徐々に、徐々に追い詰めていきますからね、ご主人様)
 悪くない手応えに、自然と口元が緩んでしまうくるみだった。
     ☆
 朝、優しく起こされる。
 居間には温かな食事が用意されている。
 ネクタイを結んでもらう。
 一緒に家を出る。
 美味しい手作り弁当を職場で食べる。
 疲れて帰宅すると、笑顔で「お帰りなさい」と出迎えられる。
 週末にまとめてやっていた洗濯や掃除が、毎日、完璧に終わっている。
 何気ない会話が交わされる二人での夕食が、楽しい。
(これ、控えめに言っても、幸せってやつでは)
 くるみが押しかけてきてから三週間、気づけばメイドとの共同生活が達郎の日常になっていた。また、当初懸念してたほどの過激なアタックがなかったことも、達郎の心に隙をつくる要因となった。
「一つお願いがあるんですが、聞いてもらえますか?」
 その隙をメイドが衝いたのは、台風が迫る金曜の夜だった。
「ん? なんだ?」
 仕事から帰り、美味しい手料理を食べ、風呂で汗を流した直後の達郎は、身も心もリラックスしていた。明日明後日が休日なのも、油断を招いたかもしれない。
「台風、これからこっちに来るんですよね?」
「ああ、直撃コースではないけど、それなりの強風と大雨って予報だな」
「あの……今夜、一緒に寝てもらっても、いいですか?」
「は?」
 予想外の申し出に、達郎は目を二度三度と瞬かせた。
(そういやこいつ、昔は台風とか雷とか怖がってたっけな)
 脅えるくるみと手を繋ぎ、一緒に眠ったかつての情景が甦る。
(なんだ、やっぱり中身はあの頃と大して変わってないじゃないか。可愛いもんだ。でも、だからっていい歳した男と女子高生が一緒にってのは色々とまずいよな?)
 懐かしさよりも良識が勝ったそのとき、狙ったようなタイミングで追撃が来た。
「たちゅろ……ダメ?」
 不安げに両手を握りしめ、軽く潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、さらにかつての呼び方をされた途端、懐かしさが庇護欲と同盟を結び、良識が一瞬にして駆逐された。
「……今夜だけ、だぞ? 布団は別々、だぞ?」
 くるみに甘いことにかけては定評のある達郎は、このあざとい攻撃に屈してしまう。
(ま、大丈夫だろ。俺がしっかりしてれば問題はない。そうだ、やっぱり俺はくるみの保護者だ。父親代わり、なんだからな)
 自分に言い聞かせてる時点ですでに大丈夫ではないのだが、当人は気づかない。あるいは、気づかないふりをする。
「ありがとうございます。じゃあ、夜、お邪魔しますね」
 このときくるみが見せた笑みの理由を、達郎は安堵、安心によるものだと思った。それが見事なまでの勘違いだと達郎が思い知るのは、三時間後のことだった。
     ☆
(くくっ、まさか高校生にもなって、一人で寝るのが怖いだなんてな。可愛いもんじゃないか、俺のお姫様は)
 達郎は自室で布団に寝転び、一人、思い出し笑いをしていた。
(風と雨、強くなってきたな。今夜から明日の午前中までがピークだったか)
 がたがたと揺れる古い家を心配し始めたところで、くるみが部屋にやって来た。
「お邪魔します。寝てましたか?」
「んにゃ、普通に起きてた。……なんだ、その格好は」
 布団を抱えたくるみがメイド服を着てるのを見て、達郎は半眼になる。
「え? ああ、これですか? いつ、ご主人様からご命令があるかわかりませんから。メイドにお休みはないのです」
「風呂上がりはいつも普通に私服じゃん」
「お布団、ここに敷きますね」
「なにしれっとスルーしてんの。あと近すぎだろ、布団」
 布団がぴったりと並んで敷かれるのを見て、達郎の目がさらに細まる。
「台風、怖いですから。達郎に手を握ってもらいたいですから。……ダメ、ですか?」
 くるみはまたも、あの上目遣いでじっと達郎を見つめてくる。
(こ、この顔、卑怯だろーがっ)
 たちゅろ、たちゅろ、といつも自分のあとをついてきたかつての記憶が、達郎の父性が揺り動かされる。同時に、メイド服から覗く白くて柔らかそうなバストに卑しい劣情も催してることに、胸の谷間以上に深い自己嫌悪を抱く。
「……好きに、しろ。ただし、俺の布団陣地には入ってくるなよ? 侵犯には断固とした対応を取るぞ?」
「はいっ」
 嬉しそうに笑ったくるみが、敷いたばかりの自分の布団に寝転がる。
「その服のまま寝るのか?」
「ご主人様のご要望とあらば、もちろんいつでも脱ぎますけど。……脱ぎます?」
 くるみがエプロンドレスの胸元を外しかけたのを見て、達郎は慌てる。さっき、ちらりと覗いてたことに気づかれたのかと、いやな汗をかく。
「いつものパジャマに着替えろって。それだとごわごわして寝にくいだろ?」
「だってあれ、可愛くないんですもん」
「そうか? お前はなに着ても可愛いと思うぞ?」
「た、達郎の可愛いと、私の目指す可愛いは違うんですっ」
「ふうん。……よし、台風が行って晴れたら、一緒にパジャマ買いに行くか。ああ、別にパジャマ以外でもいいぞ。好きなものを買ってやる」
「えっ!……で、でも」
 最初は素直に喜ぶが、すぐに遠慮するところは、昔と一緒だった。本人は気づいてないものの、表情や態度から、我慢してるのは筒抜けなのだ。
(本当に変わんねーな、こいつ)
 くるみが親に、大人に甘えられない家庭環境で育ったと知った武士沢家では、あるルールができた。それは、自分たちが親の代わりにくるみを甘やかす、というものだ。これはくるみが成長した現在もまったく変わらない。
「誰かに甘えられないやつは、他のやつからも頼られないんだよ。お互い様なんだ。甘えるってのは、相手を信頼してるって意思表示でもあるんだからさ。ま、ただ甘えるだけのやつは別だが」
「くるみは、ちゃんと甘えてますよ? 信頼してるあなたに、思いきり甘えてますよ? だから、お嫁さんにしてくださいってお願いしてるのに、ご主人様が逃げてるんじゃないですか。甘えさせてください、達郎」
 軽く口を尖らせたくるみに、恨めしげに睨まれた。
「そ、それはまた別の話だろ? 今はほら、パジャマの話だ」
「じゃあ、こういうの、着てみたいです」
 強引に話を戻したことを咎められるかと不安だった達郎の目の前に、スマホが差し出される。表示されてたのは、いかにも高級そうなスリップだった。
「い、色気ありすぎだろーよ。そもそもこれ、分類的には下着じゃね?」
「スリップをナイティに使うのは、別に変じゃないですよ。それとも、ご主人様的にはこういう感じのほうがお好みでした?」
 次に見せられたのは、ほとんど透けて見えそうなデザインのものだった。
「色気通り越してエロ気しかねーぞ、おい!」
「でもこれ、普通に大手国内メーカーの取扱品ですよ? ご主人様が喜んでくれるのなら、もっと凄いのだってくるみ、着ちゃいますから」
 妖しく濡れた瞳が、期待するようにこちらを見つめていた。昔の面影と現在の色香が脳内でうまく消化しきれず、達郎が狼狽えたそのとき、強風で家が軽く揺れた。古い木造の一軒家は揺れるたびに軋むが、今のところは問題なさそうだった。
「そろそろ寝るか。眠っちまえば、台風も怖くないだろ?」
「はい」
 露骨に話題を変えたことに対しむくれるかと思ったが、くるみが素直に従ったので、明かりを消す。いつもは真っ暗にするのだが、くるみのリクエストで夜間モードでうっすら照らしておく。
「ご主人様……そっち行ったら、ダメです?」
 おやすみ、と言ってからわずか一分後、そんなおねだりが聞こえてきた。首だけを動かして隣の布団を見ると、横向きになったくるみと目が合った。庇護欲をくすぐる表情とまなざしに、つい「いいぞ」と言いたくなるが、ぐっと堪える。
「ダメだ。最初に言っただろ、俺の陣地への侵入は許さんと」
「少しくらい、見逃してくれてもよくありません?」
「油断、ダメ。慢心、禁物」
「先っぽだけ。先っぽだけですから」
「なんの先っぽだよ!?」
「手とか足ですけど。……ご主人様、なにを想像したんです?……エッチ」
 目を細め、むふっ、と笑うメイドに、達郎は無言で背を向ける。
「あっ、すみません。反省してます。……怒ってます……?」
 背後からそんな声が聞こえてくるが、達郎は無視をする。怒ってるか探りを入れてくる時点で、本気で反省してないとわかるからだ。
(くるみが本当に悪いと思ってるときは、こんな真似しないで、とにかく謝ってくるからな)
 下手に会話を続けるとぼろを出しかねないと思ったので、達郎はこれ幸いとこのまま眠ろうとする。返事をしなければくるみもすぐに諦め、寝るだろうと考えた。
「……ご主人様ぁ」
 けれど、予想よりもくるみは諦めが悪かった。布団防衛線を破り、つんつんと達郎の背中をつついてくる。約束を破るなと咎めれば、またそこから会話が始まってしまうとだんまりを決め込む。
「ご主人様……ご主人様」
 つんつん。つんつん。…………つんっ!
 背中をつついてた指が、脇腹に入った。
「おうふっ! くるみぃ! 俺がそこ弱いの知っててやるかぁ!?」
 くるりと身体を反転させ、にやにや顔のくるみを睨みつける。
「ふふ、達郎ってば、今でもここ、ダメなんですね。……よかった、こっち向いてくれて」
 文句の一つもぶつけてやるつもりだったが、くるみの嬉しそうな顔に、毒気を抜かれる。子供の頃からこんな感じで悪戯を有耶無耶にされてたな、と思い出す。
「はあ……。三つ子の魂百まで、か」
「はい。私の場合は六つ子……あ、数え年だと、七つ子になるんですかね? とにかく、ご主人様に出会ってからずっと、私はあなたしか見えてません」
「刷り込みってやつだ、それは。ある種のファザコンだな」
 くるみだけでなく、自分自身にも言い聞かせるように告げる。
「そういった要素があることは否定しません。でも、それだけじゃないです。だって、普通にご主人様とキスしたいですもん。エッチしたいですもん。パパに欲情してる時点で、ただのファザコンとは違いますよね?」
 わずか数十センチの距離から、とんでもない爆弾発言が飛んできた。薄暗くてもはっきりわかるほど赤らんだ頬や耳を見れば、冗談でないことはわかる。わかるがゆえに、達郎は再度、くるみに背を向けた。
「……寝るぞ」
 卑怯だと理解していても、他にどう反応すべきか、思いつかなかったのだ。幸い、くるみもそれ以上はなにも口にしなかったため、部屋に沈黙が訪れた。
     ☆
(ね、寝つけない、だと? ガキの頃からずっとこいつを寝かしてつけてきた、この俺が?)
 強く目を瞑り、どうにか眠ろうとする。が、背後から漂ってくる甘い香りや、たまに身じろぐくるみの気配が達郎の意識を冴えさせる。
(ん? なんの音だ?)
 意識同様に冴えていた耳が、妙な音を捉えた。最初は風や雨によるものかと思ったが、屋根や雨戸ではなく、室内、それもすぐ近くに謎の音の発生源があった。
(くるみ? なにか苦しそうだが……)
 くるみに関してはとことん心配性の青年は寝返りを打つふりをして、ゆっくりと仰向けになった。そして薄目を開け、そっと横の様子を窺う。幸いなことに具合が悪いとか、そういう類いではなかった。なかったのだが、
(ちょっ、えっ、ええっ!?)
 ある意味では、急病よりも対処に困る状況が発生していた。
 こちらを向いたまま寝てる、くるみの手の位置が危険だった。左右の手はそれぞれ胸と股間にあり、上気した顔と乱れた呼吸から導かれる結論は、自慰行為しかない。
「ふっ、ふっ、ふっ……!」
 達郎に気づかれたと思ったのか、必死に息を押し殺してる姿が、推測を裏付ける。
(なにしてんの!? お前も年頃だし、オナるのも全然問題ないけど、TPOはわきまえなさいよお!?)
 それでも、オナニーしてるところを自分に、男に知られたら可哀想だと、達郎は薄く開けていた目を素早く閉じ、眠ってる演技をする。
(ほら、俺は寝てる。がっつり寝てるぞー。だが、いつ起きるかわからんからな、お前も寝ろ。俺は忘れるから。だから寝ちまえ、くるみ!)
 達郎のそんな気遣いは、ものの数分で無駄になった。くるみが、淫らな独り遊びを再開したのだ。
「んっ、ふっ……はあ、あっ、あっふ……ンン……んぅん!」
 悩んだ末、達郎はもう一度、薄く、薄く片目を開け、くるみを見た。メイド服の上から豊かな乳房を揉むのも、スカートの奥に潜らせた手がもぞもぞと蠢くのも、見えてしまった。もはや、疑う余地はない。
(わかるけども! 途中で終わるのはそりゃつらいけども! でも、リスク考えろって! 俺が起きたらどうするんだよ! 起きてるから手遅れではあるけども!)
 くるみが満足するまで寝たふりを続けるのがとりあえずの最善手なのだろうが、これはこれでかなり困難だった。
(なんなのこのシチュ! 娘みたいに可愛がってた幼なじみがすぐ隣で、メイド服のままオナってるとか! 試されてるの、俺の理性、試されちゃってるの!?)
 目を瞑ったせいで、逆に色々と妄想が掻き立てられる。このままでは逆に危険だと自分に言い訳しながら、達郎は慎重に薄目を開け、くるみを盗み見た。声を抑えるためだろう、きゅっと結ばれた口元や真っ赤な顔、荒い鼻息が扇情的だった。
(もしかして、俺、オカズにされてる?)
 くるみの視線の先は達郎の腕や喉仏、胸板だった。小鼻を膨らませ、悩ましい声を漏らしながら、左手で胸を、右手で股間をいじっている。そんな女子高生の自慰というインパクトは、凄まじいものがあった。
「うふっ、ふっ……はっ、はっ……ふっ……ふぅ……ンン……!」
 歳は近いが、娘のように可愛がってきた少女のオナニーこのままを覗き見していいのだろうかと悩んだそのとき、状況が変化した。悪化、と言ってもいい。
「ご主人様、寝てます……よね? 寝てくれてます、よね?」
 囁くような声ののち、達郎の左腕がそっと引っ張られた。なにをするのかと訝しんだ直後、指先が温かく、湿ったものに包まれた。
(俺の指をしゃぶり始めた、だと……!?)
 驚きと同時に、懐かしさもあった。小さい頃のくるみには、寂しいとき、悲しいとき、つらいとき、よくこうして達郎の指などをしゃぶるくせがあったのだ。癇癪を起こしたときは噛まれたりもしたが、それも含めていい想い出だ。
(子供のときなら可愛いしいい想い出だけど、今はアウトだって! 俺、これもう、エロいものにしか感じられないし!)
 指を咥えた柔らかな唇と、ねちゃねちゃと蠢く舌粘膜は、疑似フェラチオ以外の何物でもなかった。
「ちゅ……ちゅく、ぷちゅ……ン……んふっ、んう……ちゅぱ、むちゅ、ちゅぴっ」
 強風と大雨の中、淫猥な水音は不思議なくらいはっきりと聞こえた。かつてはなんとも思わなかった唇や舌の感触、温かさが、達郎の理性を激しく揺さぶる。
 五分以上、指をしゃぶったあとも、くるみは達郎の手を離さなかった。
「達郎、触って……あン」
 たっぷり唾液をまぶされた手に、柔らかなものが押しつけられた。くるみの乳房だった。たわわな膨らみの感触だけでも衝撃的だったのに、
(なっ……こいつ、ノーブラ、だとぉ!?)
 手のひらにはっきりと感じられる硬い突起の存在に、達郎は息を呑む。
「あっ……んん……んはぁ……ん……ぅうン」
 このまま揉んでしまいたくなる欲望を必死に堪える達郎をよそに、くるみはぐいぐいと手のひらを己のバストに引き寄せ、悩ましげな吐息を漏らす。存在感を増した乳首が卑猥に勃起してるのは、もはや疑いようがなかった。
(勃ってる……くるみの乳首、こりこりしてる……!)
 達郎にとって幸運だったのは、掛け布団のおかげで股間のテントをくるみに知られずに済んだ点だ。
「達郎、こっちもぉ……ンンっ!」
 乳房に続いて手が引き込まれたのは、スカートの奥だった。そうなるだろうと予測はしていたものの、実際に汗で湿った太腿に指が触れた際、達郎は小さく声を漏らしてしまう。
「やあん……ぞくぞく、止まりません……はっ、はあっ、はあああぁ……!」
 風と雨の音のおかげか、もしくはそんな余裕がないほど興奮してたせいか、くるみは達郎の反応に気づかぬまま、どんどん過激な行為にのめり込んでいく。
(こっこの感触は……こいつ、パンツを下ろしてやがるっ!)
 手のひらに当たる薄く柔らかなヘアと、指先に触れた、柔らかく、熱く、湿ったスリットに、達郎のペニスが膨らむ。
「いけません、ご主人様……あっ、あっ、そんなとこまでぇ……あふんっ」
 口調が変わると同時に、くるみの腰が前後に動き始めた。
(うおっ、なんだこの柔らかさと湿り気ぇ……ってか、こいつの頭の中の俺、なにをしでかしてんだ!?)
 どんどん湿り気を増してくる秘所の感触に、男の妄想と股間が膨らむ。指を動かしてくるみの姫割れをいじってみたい衝動を堪えるだけでも大仕事だった。
「ああっ、ご主人様、そこ、そこはぁ……はあっ、あっ、あっ、ダメ……くるみ、そこぐりぐりされると弱いんです……知ってるくせにぃ……意地悪ですぅ」
(ここ!? どこ!? どこが弱いの!? いや、知らんけど!? 冤罪だ!)
 こりこりした、突起のようなものが指に擦りつけられる。興奮のせいだろう、腰振りの動きが加速し、声も明らかに大きくなっていた。達郎を起こすかもしれない(実際はずっと起きてるのだが)リスクを、快感が上回ってる証拠だ。
「イヤ、イヤ、お許しを……はあっ、くるみはもう、もう……あっ、来る、来ちゃいます……んっ、んっ、んんっ……ひうぅ……ッ!」
(イク、のか!? マジで、俺の指でイクのか、くるみ……!)
 大切に慈しんできた幼なじみのアクメ顔を見たいという欲望の前に、達郎の理性は敗北した。だが、仰向けのまま、目だけを動かして見るのには限界がある。そこで、ゆっくり、ゆっくりと顔をくるみに向けていく。
「はうっ、ダメ……気持ち、イイ……ご主人様、ご主人様ぁ……ンンン……!!」
 達郎の手を太腿でぎゅっと挟み込んだまま、メイドの女体がぴんっ、と伸びた。
(イッた……これがくるみのイキ顔……!)
 ぎゅっと目を閉じ、まつげを震わせ、強く唇を噛み、汗を滲ませながら絶頂の愉悦に浸るくるみから、達郎は視線を逸らせなかった。瞬きもせず、ただただ、妖しくも美しい幼なじみの女の、牝の貌に魅入られる。
(やばい。エロ可愛い。エロくて可愛いとか最強すぎるだろ。お前、これ以上俺の決心鈍らせてどうするつもりだ)
 達郎の目はくるみの紅潮した顔に釘付けだった。また寝たふりに戻らなければと頭では理解してるのに、瞼が閉じてくれない。そして、ずるずると先延ばしにした代償は、すぐに払わされることとなった。
「はあ、はあ、はあ……はああああぁっ!?」
 乱れた呼吸がいくらか落ち着いてきたくるみは、目を開けた直後、外の暴風雨に負けないほどの大声を響かせた。ここで、今のくるみの大声で起きた演技でもしたならば、あるいは誤魔化せたかもしれない。けれど、そうはならなかった。
(しくじった……やらかしちまった……ぁ)
 見事にくるみと目が合ってしまった達郎の頭の中は、完全に真っ白だった。
     ☆
 達郎と目が合ってしまったくるみの頭の中は一瞬、完全に真っ白となった。だが、思考能力が復活するのは、達郎よりも早かった。ショックの大きさが達郎以上だったのが、逆に復活も早めたのかもしれない。
(しくじりました。人生でもトップレベルの大しくじりです! でも、ミスからのリカバリーこそが大事だとメイド合宿で講師の先生も言ってました!)
 くるみは一度目を瞑り、小さく息を吐く。このわずか数秒のあいだに対応策をいくつか検討し、最善と思われる一手を選択する。それは、候補の中でも最も荒唐無稽な策ではあったが、だからこそ事態好転のパワーもあると思えた。
「よ……ようやく目を開けてくれましたね、ご主人様」
 再び目を開けると同時に、くるみはまるでなにもなかったような口調で切り出した。若干声が震えてはいたのは、喘いでたせいだと自分に言い聞かせる。
「い、いかがでしたか、私の、メイドとしての営業アピールは」
「……は?」
 驚きと呆れが混ざったような達郎の反応を無視し、くるみはさらに虚言を重ねる。
「ご主人様にメイド妻として娶ってもらうための色仕掛けです。枕営業です」
「おま……いくらなんでもそれは無理が」
「どうやら、成功したようですね。あ、いえ、サクセスの成功で、エッチなほうの性交じゃないですよ? でも、サクセスとセックス、ちょっと似てますね」
「……落ち着け。まずは少し落ち着け。気持ちはわかるが。俺も悪かったが」
 達郎の視線に少なからず憐れみが含まれてたが、心に余裕のないくるみは気づかない。
「落ち着いてますけど? メイドは常に冷静沈着ですから。ご主人様こそ、狼狽えてませんか?」
 くるみは意識して、己がメイドであると強調した。栗栖川くるみ個人として応対するのは羞恥心もあって難しいが、メイドとしてならば、若干の余裕が作れると考えたのだ。
「ち、ちなみに、先程のアピールプレイの際に私がイメージしたのは、ご主人様である達郎に夜伽を命じられ、エッチなお仕置きをされるシチュエーションです」
 ただし、余裕がありすぎるのも考えもので、くるみはつい、こんなセリフまで言ってしまう。
「まあ、ご主人様は私には甘くて優しいですから、これはただの妄想、いえ、願望です」
「そ、そんな願望が……」
 今年の春、達郎に告白を拒まれた最大の敗因は、互いの立場にあるとくるみは結論づけた。そこで、保護する側とされる側の関係性をまずは解消すべきと考えたのだ。
「あなたに振られてから、色々と反省しました。私も無意識にご主人様を保護者と見てたのでは、と思ったんです。これが間違いの大本、すべての元凶だったのに。そこで主従関係をきっちり意識に刷り込むべく、メイドとしての自覚を心がけました」
「そこ、反省するところじゃないから。俺、確かにお前の実質的な保護者だから!」
「保護者ではなくご主人様として達郎を意識するため、私はメイド合宿で講師の方からイメージトレーニングを勧められました」
「スルーすんなよ」
「私はメイド、達郎はご主人様、私はメイド、達郎はご主人様……と、繰り返しイメージするうち、鬼畜な達郎に性的なお仕置きをされる情景に変化したんです。そして、これが実にその……興奮、したんです」
 さすがに恥ずかしかったが、くるみははっきりと事実を告げた。もっと恥ずかしいところを見られたのだ、今さらなにを、とも思う。
「こ、興奮って」
「自分でもびっくりですけど、どうやら私の中にはそういった願望が眠ってたようです。いえ、違いますね。幼い頃からご主人様に少しずつ、少しずつ、マゾメイドとして調教されてきた成果です」
「冤罪にもほどがあるだろ! 恩を仇で返すとはこのことだよ!」
「今まで大切にしてもらった恩は、ちゃんと返すつもりです」
 ここでくるみは太腿に力を入れ、まだ引き抜かれてなかった達郎の手を挟み込む。同時に腰をくいくいと前後に揺すり、先程のオナニーの動きを再開した。
「具体的には、私のこの身体で。……不満、ですか?」
 太腿から逃げ出そうとする手に両腕でしがみつきつつ、上目遣いに達郎を見つめる。狙ってやってるわけではないが、昔からこういう感じでお願いすると、高確率で達郎が甘やかしてくれた経験がさせる、無意識のおねだりポーズだった。
「こ、こら、くるみ、離せっ」
「離しません。えい。えいっ」
 だが、くるみが意図してやってることもあった。それは、達郎の腕にしがみつきながら、自分の胸を押しつける行為だ。メイド服の下にはブラを着けてないため、よりダイレクトに魅惑の弾力を感じてもらえるはずだった。
「狸寝入りしてたご主人様はもう知ってますよね、私のおっぱいの感触。あなたへの想いがたっぷり詰まった、乙女の、女子高生の、メイドのおっぱいです。これを好きにしていいのは、達郎だけ、ご主人様だけなんですよっ」
「うっ」
 諦め悪くくるみから離れようともがいてた達郎が呻く。
(あ。反応した。脈ありです。いえ、最初からありありでしたけど!)
 ここが勝負所と、くるみは畳みかけていく。
「私の保護者、父親代わりだと言い張るのでしたら、こうは考えられませんか? ここまでたゆんたゆんなおっぱいに育てたのは、ご主人様ってことになりますよね? その、大切に大切に育てたお乳を、別の男に揉まれたり吸われても平気なんです?」
「な……っ」
「またあなたに振られたら、くるみ、自暴自棄になって、ろくでもない男に抱かれちゃうかもしれませんよ? そのまま人生転落するかもですよ?」
 ただの脅しだと達郎も理解してるはずだが、抵抗がやんだ。わずかでもくるみの身に危険が起きる可能性があると知って、放置できる達郎ではないのだ。そんな達郎だからこそ、くるみは恋に落ちたのである。
「難しく考える必要はないんです。私を大切に想ってくれてるなら、ここは義務と割りきればいいだけです。ご主人様はしかたなく、私が道を踏み外さぬよう、渋々、嫌々、不承不承、くるみを抱いて、メイドとして雇って、妻として娶ってくれれば万事丸く収まるんです」
 押しきれる、と踏んだくるみは若干作戦を変更した。一人の女として誘惑するよりも、現時点ではまだ、達郎の庇護欲もしくは義務感を刺激したほうが確実と考えたのだ。
(既成事実さえ作ればこっちのものです。責任感の強いご主人様は、もう私を追い出せなくなります。そうなれば、同棲からの事実婚、本当の婚姻までは不可逆の一方通行です……!)
 勝利を予感したくるみだったが、達郎は想定とは異なる行動に出た。
「ふざけるな」
「え? えっ? あれ?」
「なにが義務だ。しかたなくだ。渋々、嫌々、不承不承だ? ざけんな」
 それまでは完全に防戦一方だった達郎が初めて、能動的にアクションを起こした。むくりと起き上がったかと思ったときにはもう、くるみは達郎に覆い被さられていた。
「た、達郎?……ひゃう!」
 ただ身体を入れ替えただけでなく、秘部をまさぐってきたのだ。くるみ自身が腰を揺すったときよりもずっと鋭い刺激に襲われ、声が出てしまう。
「お前には父親代わりだなんだと言ってきたけどな、俺だって社会ではガキと呼ばれてもおかしくない歳だ。根っこの部分で、はくるみと大して変わらねーんだよ」
「あっ、あっ、たつ、ろ、指、指、が……んんん!」
 濡れた縦溝をなぞるように指でいじられた。両脚が勝手にぴん、と伸び、達郎の手を挟み込んでたときよりも強く太腿が閉じられる。そうしようと思ったわけではない。女体の、無意識の反応だった。
「そんなガキがな、こんな可愛くて綺麗な女にアホみたいに、無防備に迫られて、いつまでも理性保てるわけがないだろ。いいか、男を甘く見るとどんな目に遭うか、これからみっちり教えてやるからな」
 どんどん激しくなる愛撫に息を乱しながら、くるみは改めて自分を組み伏せた男を見上げた。
(嘘だ。ご主人様、まだ普通に理性あります。だって、触り方、優しいです。でも……興奮してくれてるのはホントみたい。嬉しい……!)
「最初に言っておく。俺は、くるみが好きだ。娘としてだけでなく、一人の女としても好きだ。いや、愛してると言っても過言ではない」
「!? !? !?」
 いきなりの、それもストレートな愛の告白に、くるみは目を見開く。嬉しさのあまり、胸がきゅんきゅんと疼く。
「だから、いい加減な気持ちでお前を抱くわけじゃない。いや、犯す。俺は俺の意志で、俺の欲望のまま、くるみを犯す。つまり、責任はすべて俺にある」
「はうううぅン!!」
 続いてのセリフに、今度は下腹部もきゅんきゅんと疼いた。じゅんじゅんと濡れた。歓喜と興奮とに、奇声を上げてしまう。
(達郎ってば、相変わらず無駄に真面目です。わざわざそんなこと言わなくとも、くるみは全部承知してるのに。でも……そんなところも好きですっ)
 次々と与えられる快感に言葉を発せられないので、代わりに達郎にしがみつき、こちらの想いを伝える。二人のあいだで潰れた乳房や、擦れた先端突起から生じる新たな愉悦に、新たな愛蜜が膣口から溢れる。
「犯して、ください……ご主人、様ぁ」
 快楽に震えながらも、くるみはどうにか、それだけを口にした。
     ☆
 自身の本心と欲望に従う踏んぎりはついた。責任を取る覚悟も決めた。だが、そんな達郎には最後にもう一つだけ、大きな問題が立ちはだかっていた。
(俺は今からくるみを抱く。いや、犯す。それはもう決定事項だ。覆らないし、覆さない。しかし……本当に俺にできるのか? この歳になるまでくるみ以外の女とキスしたことすらない、童貞の俺に?)
 中学生の頃からくるみ中心の生活を送ってきた影響もあって、達郎はこれまで、異性と付き合った経験がない。いいなと思ったり、好意を持たれてると感じた相手もいた。デートのようなことも何度かした。けれど、そこまでだった。
(結局、最後の一歩を踏み出せなかったんだよな。もしかして、くるみのことが頭の片隅にあったのか、俺……って、心の分析は後回しだっ)
 まずは、目の前の状況への対処だ。同じ初めてでも、男と女では事情が全然違う。たとえ未経験でも、大切な少女の苦痛を少しでも軽減するのが今の自分の義務だと気を引き締める。保護者のやることではないにせよ。
「ところで……ご主人様にとって、私は何人目の女です?」
「何人もなにも、俺は……あ、いや、ノーコメントだ」
 余裕がない状態での突然の問いかけに、達郎はつい、本当のことを口走りかける。慌てて誤魔化したものの、勘のいい幼なじみは騙されてはくれなかった。
「えっ。ご主人様も初めて、なんですか? 嘘。嬉しいですっ!」
 さすがに嗤われたりはしないと思ってたが、喜ばれるのは予想外だった。よほど訝しげな顔をしてたのだろう、くるみが理由を説明してくれた。
「だって、あなたの最初で最後の女になれるんですよ、私。ご主人様の大事な大事な初めてを私が奪えるんですから、嬉しくないわけ、ないじゃないですか」
「どちらかっつーと、それは男の、俺のセリフなんだが。……ん? 最後? 痛ぇっ!」
 首筋に、痛みが走った。くるみが噛みついてきたのだ。
「可愛い新妻メイドの処女を奪おうというときに、今から浮気の予告ですか? さすがにそれは看過できません。がじがじ」
 子供の頃のくるみには、達郎の指を噛んだりしゃぶるくせがあった。成長するにつれ頻度は下がったものの、現在でもたまに、半ば冗談めかして、悪戯としてやってくることもある。が、今回は指と首という、噛む場所以外の違いがあった。
「がじがじ。れろれろ。がじがじ。れろれろ」
 歯を立てつつ、舌が這わされる。痛かったのは最初だけで、その後はむしろ心地よかった。いわゆる甘噛み、というやつだった。
(な、なんだこれ! 気持ちいい!? 今までとは全然違う……!)
 悪戯は悪戯でも、性的な意味合いを含む甘噛みと舌の蠢きに、達郎の呼吸が乱れる。当然、密着状態のくるみには達郎が興奮してることは筒抜けで、さらに追い込もうと舌が妖しく首筋を這い回る。
「こ、こら! そこまで! そこまでだ!」
「あ、ずるい。逃げましたね」
 両肩を押して強引に距離を取った達郎を、くるみが睨む。が、むくれ顔はすぐににやにや笑いに変わった。
「?……なんだ、その顔は?」
「これって、ご主人様に押し倒されてる感があって、ぞくぞくしますね」
 紅潮した頬が、この言葉が嘘ではないことを示す。けれど、ぞくぞくしてるのは達郎も同様だった。両手に感じる華奢な肩と、初めて見る妖しい表情に、達郎が長年押し殺してきた男の欲望が急速に込み上げてくる。
「ふん、そんな顔できるのも今だけだからな」
 まずはこの余裕の表情を消してやろうと、白い首筋に唇を押しつける。嗅ぎ慣れた甘い匂いを嗅ぎつつ、ねろねろと舌を蠢かせすと、くるみが身をよじった。
「んゃん……やっ……ご主人様、ダメ……くすぐったいです……ひゃん!」
「そうか。だったら、これならどうだ?」
 さっきのお返しと、軽く歯を立てると、くるみがぶるりと震えた。自分の唇や舌、歯がこの反応を引き出したのだと思うと、妙な昂ぶりがあった。この愛らしい幼なじみをもっと身悶えさせたい、喘がせたいという欲望が急速に増す。
「はっ、んっ、はあぁ……っ……達郎ぉ、ダメぇ……」
「ダメダメうるさいな、このメイドは。少し黙ってろ」
 芝居がかったセリフを言ってから、達郎はくるみの唇を奪った。過去に数えきれないほどしてきたお遊びのキスではない、初めての本気のキスだった。その証拠とばかりに、唇を重ねると同時に舌を伸ばし、くるみの口内に侵入する。
「ン……ふっ、んふン……むちゅ、ちゅ、くちゅ」
(っておい、まったく抵抗なしかよ! あっ、ちょっ、くるみ!?)
 いきなりのディープキスに対し、くるみは抗うどころか、積極的に舌を絡めてきた。反撃を食らった達郎も、ここで引くものかとより激しく舌を動かし応戦する。
(べろ、絡む! うあ、なんだこれ、エロい……べろちゅー、エロすぎね!?)
 粘膜と粘膜が絡み合うディープキスは、ある意味、セックスの相似形だ。頬に当たる熱い鼻息と、背中に回された両手がくるみの高まり具合を感じさせ、それが達郎の獣欲を煽る。
「くちゅ……ちゅ、ぴちゅ……んぅんんん!?」
 もはや舌の動きでは達郎を圧倒していたくるみが、びくん、と跳ねた。劣情を催した達郎が、くるみのバストに手を伸ばしたためだ。男の手のひらでも包みきれない豊かな膨らみは、達郎の想像を超える柔らかさと弾力とを持っていた。
「あっ……あっ……たつ、ろぉ……はぁ、ああぁ」
 キスを続けられなくなったくるみに対し、達郎はもう一方の手も責めに加え、左右の乳房を同時に揉みしだく。
「ノーブラとか、なに考えてんだ、お前は」
「はい……だって、今夜は絶対に、ご主人様に愛してもらうって決めてましたから……あっ、あっ、ダメ……これ、凄く気持ち、イイ……!」
 メイド服越しに感じる瑞々しい胸乳はもちろん、己の愛撫で快感を訴えるくるみの姿に、達郎の鼻息が荒くなる。手のひらに当たる尖りの感触が、さらに昂ぶりを呼ぶ。
(感じてる、のか。俺に揉まれて、くるみが……!)
 初めて見るくるみの女の表情と反応に、もはや理性のブレーキは役に立たない。もっとダイレクトにこの豊乳を味わいたいと、エプロンドレスを脱がしにかかる。幸い、手間取ることなく胸元をはだけることに成功し、ついに美乳が露わとなった。
「ご主人様、見すぎです……わ、私のおっぱいなんて、もう散々見てきたくせにぃ」
 子供の頃に散々見てきたのは事実だが、サイズがまるで違う。しかも、特大だ。加えて、先端では桜色の乳首がつんと勃っている。長年、くるみへの想いを抑圧してきた達郎が、これを前にして冷静でいられるはずなどなかった。
「あっ、あっ、ご主人様の手、おっきい……ぅうン」
 指が、沈む。そして、極上のクッションが優しく押し返してくる。汗ばんだ肌が、離れないでとせがむように手のひらに吸いつく。淡い色の先端突起が、もっといじって欲しいと硬くしこる。
 要するに、男を狂わせる、最高の乳房だった。
「くるみ、くるみ……っ」
 気づいたときにはもう、達郎はメイド少女の胸に顔を埋めていた。両手で激しく乳房を揉みながら、勃起乳首を口に含み、その弾力を舌で味わう。ミルクを思わせる甘い体臭とわずかな汗の味は、どんな美酒よりも男を酔わせる。
「ご主人様ぁ……ああ、もっと、もっとぉ……アアッ」
 女子高生メイドが身じろぐのに合わせ、カチューシャやエプロンドレスのフリルが揺れるのも、達郎を滾らせた。全裸よりも卑猥だと思った。
(本当にこいつ、全然抵抗しないんだ。それどころか、もっととか言ってやがる)
 当人は気づいてないようだか、くるみの腰が先程から物欲しげに揺れていた。そのせいでただでさえ短いスカートが捲れ、ちらちらと奥が見える。先程のオナニー行為のため、ショーツが下ろされ、秘所が丸見えだった。
(昔はつるっつるだったのに、髪と同じ色の毛が生えてる……!)
 乳首を咥えたまま、スカートをやや乱暴に捲る。そして、今度は自らの意志でくるみのクレヴァスをまさぐる。
「ひゃん!」
(うお! さっきより濡れてる!)
 驚くほどの湿度と温度に勝手に指が動き、幼なじみのスリットをなぞるように上下する。
「やあん、ダメ、ダメです……あっ、あっ、そんなにいじったら、くるみぃ……ひんっ!」
 くるみの肌を赤く染めてるのは、羞恥ばかりでないのは明白だった。腰がへこへこと上下に動き、先程よりも強い力で達郎にしがみついてるのが証拠だ。
 これらの反応は、確実に達郎の自信となった。
「アアッ!!」
 達郎の指がより大胆に蠢き出すと、さらに大きな声が上がった。そこに驚き以外の甘い響きを感じ取った達郎は、躊躇せず、指を奥へと進める。
 初めて触れた女性器は妄想よりもずっと熱く、柔らかだった。
(ぬるぬるしてる! ぷにぷにしてる! ぱくぱくしてるぅ!)
 ディープキスで知った舌とはまた異なる淫らな粘膜が蠢いていた。そして、この蠱惑的な牝襞は媚びるように指に吸いつき、達郎を熱烈歓迎してくる。
「あっ、あっ、凄いです……達郎の指、たまんないですよお……自分でいじいじするより、百倍もイイです……っ」
 さらりとオナニーの告白をしてまたもご主人様を漲らせた処女メイドの腰が布団から浮き、達郎の指を追うように動く。男を求める、女の本能的な腰のくねりだった。
「ご主人様ぁ……はあぁっ」
 潤んだ膣口に指をあてがうと、第一関節まで簡単に沈んだ。このままもっと奥までほじりたい気持ちを必死に堪え、小刻みに指を動かし、まだ誰も触れたことのない女肉をほぐしていく。
(オマ×コって、こんなに狭いのか。こんなに締まるのか)
 濡れた粘膜がぎゅうぎゅうと指を締めつけてくる。想像してたよりも遥かに強い力に、達郎は何度も生唾を呑み込む。
「大丈夫、ですから。私、自分でももっと奥までいじってますから……ぁ」
 涙目になったくるみが、羞じらいながら、より深い挿入を求めてきた。無論、このおねだりに逆らえるはずもなく、達郎にさらに指を膣道へと進める。
「ひっ……ひっ……ひぃ……っ!」
 全身に大粒の汗を浮かべ、小刻みに震える幼なじみの痴態に、達郎も暴発寸前だった。それでもわずかに残っていた保護者のプライドで踏ん張り、じっくりと狭洞を愛撫し、この先に待つ初体験の下準備を整える。
(これだけやれば充分か? まだ足りないか? いや、どっちにしろ、もう俺のほうが限界だ)
 べっとりと指にまとわりついた愛液を横目で確認しながら、達郎は静かにくるみに顔を寄せた。
「うまくやれるか、わかんねーけど……できるだけ、優しくするからな」
 頬にキスをしたあと、真っ赤な耳元でそう告げると、くるみはこくん、と頷いた。
     ☆
(優しくするだなんて、わざわざ言わなくてもわかってますよ。だって、達郎が私に優しくなかったことなんて、過去に一度もありませんでしたから。あ。でも、ちょっと強引にとか、少し乱暴にされたい気持ちもないこともないような?)
 達郎の言葉に頷きつつ、くるみはこの先の展開に胸を高鳴らせる。
「あ、あのご主人様っ」
「なんだ? あ、ゴムはちゃんとあるぞ」
 服を脱ぎ終えた達郎の手には、どこから取り出したのか、避妊用のコンドームがあった。どこか誇らしげな達郎の顔に、くるみはちょっとむっとする。
「いりません」
「え? でも」
「大丈夫ですから、ゴムは必要ありません」
(今日は残念ながら安全なタイミングですけど、万が一があっても全然問題ありません。早いか遅いかの違いだけなんですから)
 いつかは達郎の赤ちゃんを、と願ってる腹部を無意識にさすりつつ、くるみはこれから自分を女にしてくれる男を軽く睨んでやる。
「その大丈夫は、どういう意味の大丈夫だ?」
「そんなことより、さっきの件についてです。無理に優しくしようとしなくても平気ですから。メイドなどに気を遣わず、どうかご主人様の好きなように私を犯してください」
 達郎に余計な気遣いをさせたくない気持ちに偽りはない。だが、この記念すべき初体験で、達郎に荒々しく蹂躙されたいかも、という願望もまた事実だった。
「誰かさんがなかなか手を出してくれないせいで、私、事前のシミュレーションはかなり積んできたんですよね。ご主人様を想って一人エッチもいっぱいしました。だから、あまり気を遣わないでください」
 さすがに「乱暴にされたい」と告げる勇気はなかった。恥ずかしさももちろんあるが、達郎に呆れられるのが怖かったのだ。大胆さと臆病さが同居するのが、くるみという少女だった。
「……わかった。じゃあ、遠慮なく、好きにするぞ」
 達郎はそう言うと、股間の肉棒をくるみの秘裂に向けた。まだ誰にも許してない乙女の花園に向けられた猛々しいペニスを凝視しながら、くるみは心の中で「嘘吐き」とつぶやく。
(嘘吐き。達郎は嘘吐きです。そんなこと言って、どうせ優しくするんですよね。昔からそうでした。あなたは私を甘やかしすぎです。そのくせ、肝心の告白を拒むんですから、ちぐはぐです)
 初めて見た臨戦状態の男根の逞しさに、くるみは胸を躍らせ、秘口を濡らす。破瓜の恐怖よりも、初恋相手と結ばれる歓喜のほうが遥かに大きかった。
「ここか? この窪みでいいんだよな?」
 達郎がつぶやきながら、切っ先をクレヴァスにあてがう。
(そうです、そこです、それがくるみの入口です、ご主人様が大切に育ててくれた、ご主人様専用の穴です……アアッ)
 球形に膨らんだ亀頭がついに膣穴を捉えた。粘膜同士のキスに続き、いよいよ勃起が女壺に潜ってきた。
「ご主人様……んっ……くっ、うっ……ううぅ」
 心の覚悟とは裏腹に、乙女の肉体は禍々しい侵略者に対し反射的な抵抗を見せる。しかしそれもすぐに収まり、濡れた牝襞は愛しい男に対し通行の許可を出す。事前の予行演習の賜物だった。
(か、硬い……達郎のオチン×ン、まるで鉄の棒みたいです)
 自分の指とは比べものにならないサイズと硬度だった。にもかかわらず、くるみの女体は急速に牡杭に順応を始める。
「んっ……くっ……ううぅ」
 痛みは、あった。身体を内側から強引に広げられるような違和感や圧迫感もあった。でも、充分に許容範囲だった。ぴりぴりする痛みが己が女になった証のように思えたことも、苦痛を和らげてくれたのかもしれない。また、
「大丈夫か? つらかったら言えよ? 我慢するなよ?」
 心配そうにこちらを見つめてくる達郎の存在も、くるみをサポートしてくれた。
(好きにするって言ったくせに。私は平気ですから、もっと荒っぽくしてください。一生忘れられなくなるくらい、激しくもらってもいいんですよ?)
 昔と変わらず、とことん自分に優しい男への想いが、破瓜の激痛を大きく和らげてくれた。嬉しさと、ちょっとばかりの物足りなさを覚えるあいだも、勃起は徐々にくるみの膣内へと侵入してくる。
(あっ、嘘、もうこんなに入ってるんですか? ご主人様のオチン×ン、ほとんど全部、私の中に来てる……っ)
 ちらりと結合部を見て驚いたその直後、ペニスがさらに奥へと進んだ。そして、鈴口がとん、と女体の最奥に到達する。
「はあああぁ……!」
 自分でも触れたことのない場所にキスされた瞬間、くるみは軽く仰け反り、感極まった声を漏らした。己のすべてを大好きな男に奪ってもらえた嬉しさに、両目から涙が溢れる。
「い、痛かったか? すまん」
「違います。これは嬉し涙です。ようやく……ようやく達郎と結ばれました。あなたに、くるみの全部をもらってもらえました」
「……ああ、ありがとう。俺は世界一の幸せ者だな。こんな可愛い女の初めての男になれたんだからな」
「初めてで、最後の男、ですよ。くるみはご主人様専用なんですから。それと、お礼を言うのは私のほうです。達郎の大切な童貞、ごちそうさまでした」
 達郎が童貞とは思ってなかったので、これは本当に嬉しい誤算だった。初めて同士、こうして結ばれた事実が幸せすぎて、またも嬉し涙が目尻に浮かぶ。
「動くぞ、くるみ。お前の中が気持ちよすぎて、もう、我慢は無理だ」
 その涙を指で拭うと、いよいよ抽送が始まった。最初は小刻みに、肉棒を膣穴に馴染ませるような動きだった。が、すぐにストロークは大きく、早く、力強くなっていく。明らかに、欲望に掻き立てられた動きだった。
「ふっ、うっ、ふうっ、んふん……っ!」
 身体の奥を他人に突かれる初めての感覚に、くるみの唇から声が漏れる。だが、苦痛でも、不快でもない。乙女の証を破られた直後なので、さすがに痛みはあるが、もうほとんど気にならないレベルだった。
(凄い、凄いです、私の中に、達郎が、ご主人様が入ってる……こんなに深く繋がってます……嬉しい)
 一突きごとに痛みは薄れ、それと反比例して疼きに似た気持ちよさが生じる。
 そんな肉体的な悦びに加え、必死に快感を堪えて腰を振る達郎の姿が、くるみをさらに興奮させた。いつもは与えてられてばかりだった自分が、今は逆に、こうして達郎を歓ばせられてるのがたまらなく嬉しかった。
「くるみ……くっ、すまん、気持ちよすぎて……くおっ、おおっ!」
 今まで聞いたことのない男の、牡の声。ぽたぽたと落ちてくる熱い汗。ますます滾り、反り返る逞しいペニス。そのすべてが、くるみの胸を高鳴らせる。
(ああっ、これ凄いです、感じてくれてるご主人様を見てるだけで、お腹の奥、じんじん、じゅくじゅくしちゃいます。おっぱいの先っちょ、切なくなっちゃいますよお)
 くるみは達郎の背中に回した両手にぐっと力を込める。こうすることで浅ましく尖った乳首がより強く達郎の胸板に擦れるからだ。
「あっ、んっ、あん、あんっ、ご主人様、好き、好き……ぃっ」
 もっと強い刺激を求め、くるみは上体を軽く左右に揺さぶる。互いの汗が潤滑油代わりとなり、勃起乳首から広がる愉悦が増す。
 また、達郎に貫かれた下半身にも新たな動きがあった。
(そこ、そこです……あっ、ダメ、違います、こっち……ああっ、ここ、そう、ここぉ……!)
 薄れゆく痛みの中に、明らかに快感を得られるポイントがあった。肉竿がそこに当たるよう、半裸のメイドは自ら腰を動かす。
 そんなくるみを見た達郎も挿入角度を調節してくれた。
「あっ、はあぁっ! んんん……っ……ご主人様ぁっ!」
 まるでこちらの心が読めてるかのように、的確に望んだスウィートスポットを突かれた。さらに膨張した亀頭で抉られるたびに甘いさざ波が広がり、嬌声を堪えられない。
(気持ち、イイ……初めてなのに、私、もう、感じてる……ご主人様、エッチでも私を幸せにしてくれるんですね……大好き、大好きですぅ)
 本当は、改めて好きと伝えたかった。もう苦しくないから、もっと激しく動いていいと言いたかった。でも喘ぎ声を聞かれるのが恥ずかしくて、口を開けられない。ここまでしておいて今さらなにを、と自分でも思うが、できないものはできないのだ。
「くるみのおっぱい、最高だな」
「はああぁ! あっ、くうん、ご主人様、ダメ……ひゃうっ!」
 それまでの密着状態から軽く上体を起こした達郎が、メイド服から飛び出した乳房を揉み始めた。また、反対側の手をくるみの口元に伸ばし、懸命に声を堪える唇をそっと撫でてくる。まるで、我慢しなくていいと伝えてくれてるようだった。
(ばれてる。やっぱりご主人様、私のこと、なんでもお見通しなんですね)
 好きな人にすべてを把握されてる安心感が、さらに処女メイドに悦びを加える。無論、バストへの愛撫も快感を増してくれた。ときおり乳首を指で転がされ、そのたびにくるみの女体は震えてしまう。
「はむン……ごひゅ人様ぁ……あむあむ……ちゅぱちゅぱ」
 声を押し殺すことを断念した代わりに、くるみは唇を撫でていた達郎の指を咥えた。昔はよくこうしてこの指をしゃぶっていたな、と懐かしむ気持ちとともに、ぞくぞくとした快感が背中を駆け昇る。
(好きぃ……達郎の指、ぺろぺろするの、大好きぃ……美味しいですよぅ)
 久しぶりに口に含んだ指を舐めると、まるで連動してるかのように膣内のペニスが跳ねた。それがちょうどくるみの感じるポイントを圧迫し、鼻から甘い声が漏れる。
「ひょこ……ひょこがイイれふぅ……アッ……アアッ!」
 達郎がピストンの角度を変え、今伝えた性感帯を狙い打ちしてくる。ここがくるみの急所だと確信した責めだった。
「ひうっ、ひっ、ひううぅっ! んあっ、はっ、はひっ、ふひぃいぃ!」
 指を咥えながら、初めて経験する愉悦に喘ぐ。破瓜の痛みはすでに消え、純然たる快楽だけがくるみを包む。乳房への愛撫も止まることなく続けられ、愉悦をさらなる高みへと押し上げる。
(凄い、オチン×ン、イイところだけ、こんこん、来るぅ……あっ、あっ、おっぱい揉まれるのもイイです、乳首、くりくりされるのもたまらないですよぉ……ああ、私、ご主人様にイカされちゃう、初めてなのに、処女だったのにぃ!)
 くるみはもう、腰を動かしてはいなかった。動かさなくとも、自分以上に自分を熟知している達郎が気持ちいい場所を的確にいじめてくれるし、そもそも、そんな余裕もなくなっていた。
「ぐうっ、締まる……!」
 新たな秘蜜を分泌した牝壺が、逞しい男根を締めつける。意識してのものではなく、女の本能による反応だった。汗まみれの達郎の顔が苦しげに歪むのも、くるみを歓ばせる。
(私、ちゃんとご主人様にご奉仕できてる……一緒に気持ちよくなれてる……!)
 幾度も繰り返した脳内シミュレーションでも、ここまで理想的な展開はなかった。痛いだけで終わる最悪な初体験、初ご奉仕もあり得るとすら覚悟していたくるみにとっては、これ以上ない状況である。
「ごしゅりんしゃま、イッて、くだひゃい……全部、くるみの中にくらひゃい……!」
 けれど、人間はどこまでも強欲だ。欲望に限りなどない。だから、くるみは素直に訴えた。今、考え得る最高の初体験のフィニッシュを、大好きなご主人様に懇願した。大好きな達郎にねだった。
「だ、だがっ」
「お願いれす、ご主人ひゃまぁ……ううん、たちゅろ……っ」
 狙ったわけではない。ただ心のままに、想いを、願いを伝えただけだ。けれど、くるみに対してはとことん甘い達郎にとって、指をしゃぶられながら、涙ぐんだ瞳で上目遣いで見つめられ、昔の呼び方での懇願は、もはや命令に等しい。
「こ、この……ずるいぞ! お前はどこまで俺をダメな大人にするつもりだ! ああっ、この、このっ……可愛すぎるんだよ、もう!」
「あっ!? んあっ、ひっ、ひゃあっ、はああぁっ!」
 しゃぶっていた指が引き抜かれ、今度は両手で左右の乳房を揉まれた。ここ数年で一気に膨らんだたわわな膨らみが、男の大きな手で鷲掴みにされ、形が変わるほど激しく貪られるのが嬉しくてたまらない。
(達郎が、私のおっぱいで興奮してます……もっと、もっと強く揉んでください、いいえ、潰してください……私の身体は隅々まで全部、あなたの、ご主人様のものなんですから……!)
 まだ芯に硬さの残る若い柔房や、その先端の尖りから、新たな愉悦が生まれる。牡の欲望を剥き出しにした力強いピストンが膣壁を擦り、最奥で守られている子宮が揺らされる。
「アア、アア、アアアァ! 奥、当たってぇ……あっ、あう、あふぅうぅン!」
 一突きごとに快楽が増し、はしたない声を制御できなくなる。さっきまでは達郎の指をしゃぶることでどうにか堪えられていた嬌声が部屋に響く。台風による雨や風の音に負けないくらいの、大きな喘ぎ声だった。
(あっ、ダメ、気持ちよすぎて、ダメです! このままじゃ、達郎より先に私が果てちゃいます、イッちゃいます……メイドなんだから、先にご主人様に気持ちよくなってもらわなきゃならないのに……ぃ)
 けれど、ここでも達郎はくるみにとって最良の行動に出てくれた。つまり、抽送がラストスパートに入ったのだ。
「ひっ、ひっ、激、しっ……くぅ、うっ、くうン!」
 猛々しい勃起に蜜洞を穿たれ、愉悦に蕩けた媚粘膜を抉られるのがたまらない。
 力強く腰が打ちつけられるたびに、達郎の汗がぽたぽた落ちてくるのが嬉しい。
 なにより、達郎の必死な表情がどうしようもないほどに愛しかった。
(これが達郎の、男の顔、なんですね。これをずっと、ずっと見たかったんです、見せてもらいたかったんです……ああ、来ます、くるみ、イッちゃいます……!)
 保護の対象ではなく、異性として、欲望をぶつけられる相手として見られてるとわかった瞬間、くるみの性感は一気に上昇カーブを描いた。
「ご、ご主人様、私、イ、イキそう、です……あっ、あああっ!」
 絶頂が近いことを告げると、ただでさえ加速していた達郎の動きがさらに勢いを増した。童貞にとって、自分と同じく初体験の相手を達せられるかも、という状況は、この上ない歓びと昂ぶりを得られるためだ。
(膨らんでます……ご主人様のオチン×ン、弾けそうです! 出して、このまま私の一番奥に、達郎のザーメン、全部くださいっ!)
 女の本能で男の射精を察知したメイドは、思考よりも早く達郎にしがみついていた。両手を背中に、両脚を腰に回し、人生初の膣内射精の瞬間を待つ。再び密着したことで、勃起乳首が達郎の胸で押し潰されるのも気持ちよかった。
「出る……出るぞ、くるみぃ……おっ、おっ、おおおお……!!」
 初めて聞く達郎の男の咆哮に促されるように、くるみも女の声を上げながら、牝悦へと昇っていく。
「わた、私もイキます、あっ、イヤ、イヤっ、イク、イッちゃいますぅ!」
 自慰とは次元の違う悦楽の波に攫われる直前、達郎が低く呻いた。直後、なにかが身体の最深部に注がれる感覚があった。
(これって……これってご主人様の精子……っ!)
 急速に膣奥で広がっていく温かなものの正体に思い至った刹那、くるみもオルガスムスを迎えた。腰が勝手にびくびくと跳ね、背中が反り返り、下腹部から全身へと甘美すぎるアクメの波が広がる。
「イッ……イック……イク……あああぁ、あっ、はああああぁ……ッ!!」
 射精中のペニスに、絶頂に震える無数の膣壁が群がる。男根を締めつけ、白濁汁を搾り取ろうと淫らすぎる蠕動を繰り返す。
(凄い凄い凄いぃ……なんですかこれ、なんなんですかこの気持ちイイのはぁ……頭、真っ白になるぅ……頭の奥まで、ご主人様のミルクで満たされちゃいますよぉ!)
 随喜の涙で枕を濡らしながら、くるみは震えた。全身の痙攣が収まらないほどの鮮烈な快楽に、意識がときどき遠ざかる。が、己を貫く逞しいペニスと、そこから放出される熱いスペルマに、すぐに現実へと引き戻される。もっとも、今、くるみを包む現実は、夢よりもずっと甘い、至福の現実だ。
「はっ、はっ、はひっ、ふひっ」
 強すぎる快感を持て余したくるみは、無意識に口を開け、舌を伸ばす。少し前までしゃぶっていた指が恋しかった。もう一度あの骨張った指を咥えられれば、この初めて経験する女の幸せも、しっかり味わえると思ったのだ。
「くるみ……」
 そんなくるみの口元に、近づくものがあった。また達郎が自分の望みを察してくれたのかと思ったが、今回は違った。
(ご主人様……え? え? え?)
 くるみの口に触れたのは指ではなく、達郎の唇と、舌だった。どうやら、伸びた舌をディープキスのおねだりと勘違いしたらしい。けれど、これもまた、嬉しすぎる誤算だ。
 上と下、蕩けた粘膜を同時に愛されるのは、まさに天国にも昇る心地だった。
     ☆
 嵐のような衝動が薄れ、色々と落ち着いてくると同時に、今度は様々な感情が達郎に襲いかかった。
(まずい、まずいぞ、これは)
 特に大きかったのは、後悔だ。
 くるみを抱いたことではない。覚悟を決めた上での行為なので、そこは一応は納得している。問題は、避妊しなかった点である。
「ご主人様に一つ、質問があります。とても、とても大切なことです」
 こういう場合はどう対処すればいいのかと悩んでる達郎に、くるみが問いかけてきた。気のせいか、こちらを見上げる表情が険しい。
「先程取り出したゴム、あれはなんですか?」
「あ、ああ、すまなかった。男の、大人の俺がしっかりすべきところだったのに、欲望に流されてしまった。だが、いざとなれば責任は取る。逃げたりはしない」
 まさに今、悔やんでた点を非難されたのかと思ったが、そうではなかった。
「責任を取ってもらえることに関してはまったく心配してませんよ。でも、言質は取りました。ありがとうございます。……くるみが聞いてるのは、あれを誰に使うつもりで所持してたのか、です。ここ、重要で、凄く大切なポイントですよ、ご主人様」
 達郎の背中と腰に回したままの手脚に力が加えられる。達郎を見つめる目にも、力と険しさが増す。
(これは……正直に答えたらまずいやつだな)
 特に使う予定の相手はなく、けれど万が一、なにかあったときのために用意しておいただけのコンドームだった。
「私に使うつもりだったんですよね? まさか、私がいないのをいいことに、他の女を連れ込む予定とか、ありませんよね?」
 笑顔なのに、目が笑っていなかった。だから、優しい嘘を吐いた。
「お、おう。結局使わなかったから、意味ないけどな」
「……大丈夫です、これからたっぷり消費しますから。もちろん、ご主人様のご命令とあらば、いくらでもくるみを孕ませてもらってかまいませんよ?」
 優しい嘘は見抜かれたようだが、くるみは敢えてそれ以上は踏み込んでこなかった。代わりに、やんわりと今後の関係に釘を刺される。
(いや、いいけどな。こうなったらもう、全力全開でこいつを大切にするし。ある意味、これまでと同じだし。保護者から恋人に立場は変わっちまうけれど。……あ)
 達郎はあることに気づいた。
「なあ、くるみ。俺からも一言、いいか? とても、とても大切なことだ」
「はい。プロポーズですか?」
 真顔で言われた。
「違うわ! 早いわ! せめて卒業までは……いや、成人待てや!」
「むー」
 むくれられた。
「……あのな、その……順番、完全に間違っちまってるけどな?……好きだぞ、くるみ。多分、だいぶ前から、お前のことが俺、好きだったと、思う」
「……っ!?」
 赤面された。
「だからその……なんだ。これからも、よろしく頼む」
「はい……はいっ! 栗栖川くるみ、これからは達郎の、ご主人様の妻として、メイドとして、残りの人生すべてを捧げます!」
「重いわ! お前、いちいち重いんだよ!」
「当然です。私は達郎が与えてくれた愛情で構成されてるんですから。軽いわけがないんです」
 くるみは愛おしげに達郎の頬を撫でながら、誇らしげに笑う。
(俺、こいつの育て方、間違ったかもしれん……)
 くるみに中出ししてしまったこととは別の後悔に襲われる達郎だった。

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