【2018年9月13日】

奴隷エルフ解放戦争 出だし公開!

出だし公開! 奴隷解放戦争、開戦です!

プロローグ
「ここで会ったが百年目……ってところね」
その少女の声は、喧騒の中にもかかわらず、森を流れる清流のように透き通って聞こえた。
「絶対に許さない……ここで、終わりにしてあげるんだから」
構えられていた剣の切っ先が、ギラリと太陽を反射する。
「お互いに落ちぶれた立場とはいえ、あんたなら手加減の必要はないわ。覚悟して、カトー!」
自分の呼び名を聞いて、俺の心が少しだけざわめく。しかし、表情には出さない。
マルクス・コルネイルス・カトー・トゥリフォン。
それが俺の名前だ。
「帝国」で自由人として生まれた人間としては、それほど変わった名前じゃない。
マルクスが名前、コルネイルスが氏族名、カトーが家族名、トゥリフォンが添え名。平たく言えば「コルネイル族のカトー家のマルクス、渾名はトゥリフォン」となる。
自由人とは自由な立場の人間ということで……つまりは奴隷じゃないってこと。
「帝国」は奴隷制度が基盤になっている国で、多数の奴隷が社会に組み込まれている。
奴隷に与えられる仕事は無数にある。代表的なものといえば、剣闘士だろう。
巨大な闘技場……コロッセウムに集まった何万という観客を楽しませるために、剣を振るい、敵を倒す。敵は野獣だったりモンスターだったり、自分と同じ奴隷……剣闘士だったりする。
そう、まさに今の俺や……目の前の少女のように。
「……相変わらず騒がしいエルフだ」
「なっ……!」
「戦場で会うたびに言っていただろ。指揮官なら感情に惑わされるなと」
「あ、あんたに言われたくないわよ! あんただって、あたしと同じ奴隷じゃない!」
「俺は正論を言っているだけだ。奴隷かどうかは関係がない」
「いつも屁理屈ばかり……あんたに負け続けたと思うと、悔しくてたまらないわっ!」
これから殺し合う間柄とは思えない、馴れ馴れしい言葉の応酬……俺は苦笑を抑えきれない。
アイシャ・トイブルク・エルフィーナ。
宝石のような色合いの青い瞳は怒りとかすかな困惑に揺らめいていた。金色の髪は白い花びらのリボンでツインテールにまとめられていて、素肌は雪のように白い。
彼女の国の伝統的な左右非対称の鎧装束を着ている。その胸元は大きくはだけ、豊かな双丘を形作っている。ウェストから腰へのラインはなだらかな曲線を描いている。
何よりも特徴的なのは、先端が尖った耳。
彼女はエルフ族の娘だった。
そして、今や俺と同じ奴隷の剣闘士でもある。
「帝国」は自国の繁栄のため、人間以外の異民族……「蛮族」領域に軍を遠征させ、「蛮族」を狩りたて、自国に連行して奴隷として強制的に労働に就かせる。
特にエルフは手先が器用で長寿のため、奴隷としてはうってつけの存在だ。また、エルフの女性は人間以上の美しさを持つ者が多く、性的な商品としても高値で取引される。
このため、年に何万ものエルフが捕えられ、「帝国」全土に売られていく。
アイシャもそのひとりというわけだった。
しかも、彼女はエルフの中でも最大のコミュニティ、トイブルク族の族長の娘で、しかもかつては軍を指揮していた。
彼女自身の戦闘能力も高く、特にエルフの中でも使用者の少ない魔法を使った攻撃は、数千の兵を圧倒するほどだ。
俺は「帝国」軍の将軍として、毎年のように「蛮族」領域への遠征を指揮していた。トイブルク族とも戦闘を繰り広げ、アイシャ本人とも何度も矛を交えている。
アイシャを捕虜として捕え、奴隷となるきっかけをつくったのも、この俺だ。
お互い、軍を率いる立ち場から奴隷という立場に堕とされ、再び剣を交えることになっている……皮肉と言えばこれ以上の皮肉はない。
考えが顔に出たのか、アイシャはさらに不機嫌に声を荒らげる。
「何がおかしいの……!? あんた、これからあたしに殺されるのよ……! 戦場では一度も勝てなかったかもしれないけど、一対一の戦いなら……!」
「楽観的にすぎるな。俺がこの勝負を前に、なんの仕込みもしていないと思ったか」
「な、何を言って……」
「ワルダイ森林の戦いだったか? 俺の偽装撤退に引っかかって、軍に無理な追撃を命じて、逆に待ち伏せを受けて大敗したのは……」
「あ、あれはあんたとの初めての戦いで、あんたが、これまであたしと戦ってきた他の『帝国』の連中とは比べものにならないほどの策士とは知らなかったから……!」
「タガンログ丘陵の戦いでは、俺の軍団の夜襲を受けて、一瞬で壊乱していたな」
「そっちから決戦を申し込んで、軍が布陣したその夜に夜襲を行うなんて卑劣よ! その後、『誰も昼の戦いが〝決戦}〟と言っていない』なんて、いけしゃあしゃあと!」
「ミウス河の戦いでは、戦いにもならないまま逃げ出していたな」
「まさか河川を船で移動してこっちの後ろに回って、食料を焼き払うなんて思ってもみなかったのよ!」
「本当に負けてばかりだな……ここで俺の首を差し出すくらいの情けはかけてやるべきかと思ってしまったぞ」
「やめて! そんな情けいらない! 逆に惨めになる……!」
アイシャはひとりの騎士としては恐るべき力を持っていたが、軍の指揮には向いていないように思えた。性格が直情型で、どうしても大事な局面で冷静さを欠いてしまう。
しかし、一方で、戦場では必ず陣頭に立ち、兵たちと泥にまみれることを厭わない、仲間想いのいい指揮官だった。
なので、俺は俺で、アイシャに好意的に評価していた。こいつの下で戦うのはごめんだが、轡を並べて戦えるなら、それはそれで面白いだろうなと思っていたほどだ。
と、そんなことを思い返していると……。
「……でも、あんたの戦いぶりは凄かった。いつも突拍子のない策であたしたちを翻弄して……『帝国』にあんたほどの将軍は、他にはいなかったと思う」
アイシャは意外にも、俺への敬意を口にしていた。
「戦いの後は、いつも怪我人や捕虜の交換に応じてくれて、お互いの戦死者を回収するための停戦にも応じてくれて……こういうのは変だけど、ちょっとは感謝してる」
「別に……軍の将軍として、義務を果たしていただけだ」
「帝国」の将軍の多くは、エルフをただの奴隷の供給源としか思っていない。当然、人間扱いはしないし、戦いの前後で交渉など行わない。
だが、それではエルフたちも俺たちを同格として扱わないことになり……いざという場合、こちらがどんな扱いを受けても文句は言えなくなってしまう。
実際、かつての戦いでは遠征の軍がエルフたちに森林の中で包囲され、全員が皆殺しにされたこともある。
俺はそういうことが起きないように、少なくとも戦いの場ではエルフを人間と同格に扱い、怪我人や捕虜の交換、遺体回収のための停戦など、戦場で必要となる手続き……言うなれば「外交」を行った。
敵同士であるはずのアイシャと、ここまでフランクな話ができるのも、その交渉の席で常に顔を合わせていたからだ。時には長引く交渉の中でいつの間にか酒が入り、お互いの戦術について論議して、知らない間に夜が明けたこともある。
ただ、それは俺が「いざという場合に酷い目に合いたくない」という自分勝手な理由で行っていたことで……アイシャの言葉には、ちょっとした驚きを感じていた。アイシャはアイシャで、俺を悪しからず思っていた、ということになるの。
しかし、アイシャが俺に好意を見せたのは一瞬で、すぐに怒りの表情に戻る。
「でも、だからって、あたしの故郷に攻め込んだ、あんたを許すことはできない」
「…………」
「おかげであたしは奴隷に堕とされて、剣闘士としてこんな戦いをすることに……おまけに、あの皇帝の個人所有の奴隷として……!」
アイシャはコロッセウムを取り囲むように配置された観客席……その中でもひときわ豪華なつくりの場所に視線を向ける。
そこに座っているのは、この「帝国」を統べる人物。
皇帝、その人だ。
このコロッセウムは「帝国」の首都ロンデニオンの中心部にあり、皇帝が日常的に観戦に来ている。皇帝やその家族、その補佐役である元老院、あるいは「帝国」の政を任された執政官たちのような貴族が所有している剣闘士たちが戦うことも珍しくない。
もちろん、エルフたちにとって、彼らは憎悪の対象でしかない。俺もアイシャとの交渉の席で、アイシャや仲間のエルフたちが発した、皇帝への敵意を剥き出しにした言葉を何度も聞いている。
その憎らしい敵に奴隷として飼われ、しかも娯楽の道具としてコロッセウムで戦わされる。アイシャからすれば、屈辱以外の何物でもないだろう。
「この、いつも戦いのときに着ていた鎧装束だって、あの男の趣味で着せられてるのよ……! あたしたちの文化を見せ者にして……恥でしかないわ、こんなの……!」
アイシャも話には聞いているだろうが、皇帝は俺たち「帝国」人の間でも、無類のエルフ好きとして知られていた。
アイシャのようなエルフの闘士を一〇〇人以上所有しているだけでなく、自分専用のエルフの娼婦たちを、それと同じくらい揃えているということだ。
皇帝としての振る舞いも立派とはいいがたく、普段から闘技会の観戦などの娯楽やエルフの娼婦たちとの性生活に明け暮れ、政治をおろそかにしている。
そうした皇帝の自堕落な姿勢に反対する執政官もかつてはいたが、そうした連中は軒並み皇帝によって処罰を受け、今では誰も皇帝の行動を止める者がいなくなっている。
俺が将軍の身から奴隷の身に堕ちたのも、アイシャを捕虜にした戦いの後、経済的な利益に乏しい「蛮族」領域への攻勢を連発する今の政策に反対する意見を口にして皇帝の不興を買い、ありもしない罪で捕縛されたことが原因となっている。
それを考えれば、アイシャに皇帝が自分の趣味を押しつけるのも十分に理解できる。
しかも、噂によると皇帝は、自分が気に入った剣闘士を自分の娼婦として引き上げ、特別な調教をしているらしい。
アイシャがその標的になっているのは十分に考えられる。
だから、俺は何も言わず剣を構えた。
「……言い訳はしないってこと? 腹立たしいけど、いい覚悟だわ……」
アイシャも剣を構え、コバルトブルーの瞳でまっすぐに俺を見つめる。
「……剣だけで勝負をつけるつもりか。魔法は使わないのか?」
「……それについて話すつもりはないわ」
剣闘士となったエルフで特に能力が高い者は、身体に何かしら特殊な細工が為されて、本来の力が使えなくなっているという話だった。もちろん、逃亡防止のためだ。
細工の詳細は不明だが……アイシャもまた、その例外ではないのだろう。
「じゃあ、望み通りに……!」
俺へと駆け出すアイシャ。剣を振り上げ、俺に斬りかかる。
ついに始まった戦いに、コロッセウムに無数の歓声が響き渡る。「蛮族」領域への遠征に活躍した元「帝国」軍の将軍と、その将軍に敗北したエルフの姫騎士の因縁の決闘。盛り上がらないはずがない。
アイシャの動きは、戦場で見たそれよりも大きく鈍っていた。やはり、何かしらの手段で力が抑えられている。ただ、それでも十分に人並み以上のスピードだ。
「はぁぁぁぁぁっ!」
アイシャの刃が顔面に迫った……その瞬間。
ガキィィィィィン!
俺は剣を鞘から抜いて、斬撃を受け止めた。
「ぐ……ッ! やっぱり、今のあたしじゃ……」
「相変わらず見事な踏み込み……いつものお前だったら、確実に俺は殺されていた」
「馬鹿にして……! そんなこと、あたしが一番わかって……」
「アイシャ、突然だが話がある」
「は、話……!? っていうか、前からあたしを名前で呼ぶなって……!」
「ここから逃げ出すつもりはないか」
「あたしとあんたは名前で呼び合うほど親しくは……って、は? 逃げ出す!?」
鳩が矢を射かけられたかのように驚いた顔になるアイシャ。
「逃げ出すって……脱獄するってこと!? で、できるはずないわ……!? そりゃ、逃げ出したいのはやまやまだけど……」
あまりの警備が厳重すぎて、逃亡は自殺行為でしかない……そう言いたいようだ。
「それに、ここにはあたしのほかに何百人というエルフの剣闘士が……かつて一緒に戦った仲間たちがいる……。みんなを見捨てることなんてできない……!」
「じゃあ、そいつらも一緒にだ」
「無理よ! エルフの剣闘士たちが一斉に脱獄したら、もうそれは反乱になるわ。これまでに反乱を起こした剣闘士たちがどうなったか、あんたなら知っているはず!」
かつての「帝国」では、奴隷による反乱、奴隷反乱が頻繁に起こっていた。その主役が剣闘士だったことも多い。
奴隷たちが反乱を起こした理由は様々だが、大部分は奴隷という身分からの解放、自由な立場を求めてのことだった。
だが、いずれの奴隷反乱も、すべて「帝国」軍の反撃によって潰され、反乱に参加した奴隷たちはほぼ例外なく皆殺しにされていた。
それを踏まえれば、アイシャが二の足を踏むのはわかる。
だが、俺ははっきりと首を振った。
「これまでの反乱がすべて失敗したのは、まともな軍指揮官がいなかったからだ。剣闘士は個人としては皆強いが、集団として上手く戦えたかというとまた別の話になる。お前なんかはその典型だな」
「それは、そうかもしれないけど……って、『お前なんかは』っていう一言が余計よ!」
「『帝国』が追撃の軍を送った場合、エルフたちの戦いの指揮は俺がとる。お前はそのまとめ役になってくれればいい。俺とお前が力を合わせれば、必ず生き残れる」
「でも……」
「望むなら……エルフの全員を必ず故郷に送り返す。俺が、必ず」
アイシャの瞳が驚きとともに見開かれる……が、すぐに迷うように視線を逸らす。
「……すぐには決められないわ。あたしは皇帝個人の奴隷……もし逃げ出せば、報復がどれだけ苛烈になるかわからない……」
そしてアイシャは、取り返しのつかない何かについて語るように、つらそうに呟いた。
「それに、あたしの身体は、今……」
その瞬間、闘技場の端で爆発が発生した。
そこは闘技で使用する野獣やモンスターを飼っている地下室に繋がる檻で……爆発の煙が収まるのを待たず、それらが飛び出してくる。
「ひぃぃぃ! サーベルタイガーの群れが出てきた! 観客席に飛び込んだぞ!」
「おい、あれはゴーレムじゃないか! どうするんだよ!?」
「ミノタウロスやケンタウロスまで……!?」
あっという間に闘技場は大混乱の中となった。
闘技場に溢れ出した野獣やモンスターを前に、観客は衛兵の指示を無視して逃げ惑い、逃げ場を探して出入口に殺到する。皇帝たちも戸惑いながら避退を余儀なくされる。
「ちょ……カトー、まさかこれ、あんたが……!?」
「事前に火薬を仕込んでおいた。コロッセウムの下には、闘技会用の野獣やモンスターの飼育場所があるって聞いていたからな」
「事前にって……」
と、逃げ惑う観客たちを抜けて、何人もの兵士たちがこちらに駆けてきた。
その中でも、特に大柄で屈強な男が、場違いなほど明るく声を掛ける。
「大将! お待たせしました。作戦は完璧です。予想通りひでえことになりましたな!」
「問題ない。あと、大将はよせ。俺はもう階級が大将じゃないし、軍団長でもない」
「大将は大将でさぁ、今さら呼び方を変えろっていうのはなしですぜ」
「……ッ! まさか、あんたは……!」
「おっ、姉さん。思い出してくれましたかい?」
「カトーとの交渉の席に、いつもいた……」
「ティグリス・ペインです。トゥリフォン大将の親衛隊の指揮官を務めていました。大将が奴隷になった後はお役御免となっていましたが、大将が『帝国』相手に大立ち回りを挑むと聞いて、急いではせ参じたわけです。このありさまも、全部トゥリフォン大将の策略ってことで」
「トゥリフォン? あんたたちは、カトーのことをトゥリフォンと呼ぶの? 普通、『帝国』人は添え名ではなく名前で呼ぶと聞いていたけど」
「ありゃ? 大将、そのあたり教えてなかったんです? あのね姉さん、大将は……」
「悠長に世間話をしている場合か? アイシャ、さっきの問いに答えろ」
俺はペインの言葉を遮って、改めてアイシャに尋ねた。
「他のエルフの剣闘士たちを伴って、ここから逃げ出すのか、逃げ出さないのか。逃げ出すのならば手助けする。逃げ出さないのならここに残れ。何もしなければ罪には問われないはずだ」
アイシャは俺の中の本心を見極めるように、俺の瞳をじっと見つめ……答えた。
「わ、わかったわ……あとひとつ、お願いがあるのだけれど」
「なんだ?」
「もうわかってると思うけど、あたしは今、本来の力が使えなくなっているわ」
つらそうに目を伏せるアイシャ。
「特に魔法はすべて使用不能よ。だから、その解除をあんたに手伝ってもらいたいんだけれど……」
「ああ、それか。言うまでもない」
アイシャが戦えなければエルフたちの士気にも関わる。『帝国』の追討も激しいものとなるだろうから、アイシャには是非とも全力を発揮してもらわなければならない。
と、アイシャは唐突に顔を赤くして、念を押すように叫んだ。
「や、約束よ! あたし、これでもなけなしの勇気を奮ってるんだから! あたしだって、好きでこんなことをお願いしているわけじゃないんだから……!」
「意味がわからん……とにかく、脱出には同意なんだな? なら、他のエルフたちを解放しにいくぞ。先導は任せられるか?」
「わかったわ。ついてきて……!」

それから数十分の間に、俺たちはコロッセウムの地下に囚われていた二五〇名以上のエルフの剣闘士たちを解放してそこから脱出。さらに混乱の中、近所の馬の飼育所と軍の食糧庫を襲い、馬と食料を手に入れ、ロンデニオンの街を後にした。
逃げる途中で背後を振り向くと、コロッセウムから脱走したモンスターたちがいまだに暴れ回っているのか、ロンデニオンからはいくつもの黒煙が昇っていた。
この様子では、軍は当分、ロンデニオンから動きが取れないだろう。
「それで大将、これからどうするんです?」
俺の馬に並走してきたペインが尋ねた。
「まずは北東のハルシュタットに向かう。馬で駆ければ、三日ほどで到達する」
「ああ、あのザルツブルク渓谷にある谷間の街。確か、軍が保養所として使っていた廃城がありましたな。森と湖のある景色が綺麗な場所だと聞いてます」
「まずはそこで態勢を整える。多分、間を置かずに『帝国』軍は追撃してくる。これをザルツブルク渓谷のどこかで撃退して、今後の戦いを盤石とする」
「敵の出鼻を挫くわけですな! とはいえ、この数で勝てるかどうか。脱出したエルフたちに親衛隊を加えても、手勢の数は三〇〇人。ちょいと厳しいかもしれませんぜ」
「それをどうにかするのが俺たちの仕事だ。ペイン、お前は親衛隊の半分を連れて目的地に先行して、エルフたちの入城の準備を整えろ。合流は三日後。いいな?」
「了解でさぁ! 野郎ども、俺に続け!」
ペインの号令で、親衛隊の騎士たちが速度を上げて走り去っていく。
「……で、どうしてお前はそこにいるんだ?」
俺は、自分の背後に座るアイシャに尋ねた。ロンデニオンから脱出する際、アイシャがどうしても俺の後ろに乗りたいと強情を張ったため、仕方がなくそこに乗せているのだった。
女性に背中から抱きつかれながら馬に乗るのは俺としても初めてで、アイシャの大きくて柔らかな胸が背中に押しつけられる感覚にちょっとドキドキしたのは事実だが、状況が状況なので、いつものクールな顔のままでいることにしている。
「俺に相談事があるのか? ペインたちは先行させたから、何かあれば遠慮なく話せ」
「……うん」
アイシャはさっきよりもさらにもじもじした様子で頷いていた。
なんだ、一体……?
「あの、さっきの話の続きで……とりあえず最初の目的地に到着したら、あたしの本来の力を取り戻すための解除の術式……みたいなのを、カトーに手伝ってほしいんだけど……」
「ああ。それは構わないしむしろ望むところだが……何か準備がいるのか?」
「べ、別に準備は……あ、いるわ。いろいろ、いろいろ! とにかく、付き合ってもらうから! あんただから、あたしは許したんだから!」
「だから何を言っているのかわからん……そもそも、解除って何をどうするんだ?」
「お、教えてもいいけど、それはふたりだけの秘密にして。お願いだから……」
「それもよくわからんが了解した……それで、具体的には?」
アイシャはなおも数秒ほど黙ったままだったが、その後、意を決したように俺を見つめ……。
そして、真っ赤な顔で、しかし明確な決意を込めて、その言葉を口にしたのだった。
「あたしと……H、してほしいの」

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