【2020年8月28日】

悪魔お姉ちゃんの愛なるもの プロローグ&第一章

悪魔お姉ちゃんの愛なるもの

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プロローグ
「こんにちわ、透也くん」
 唐突に声をかけられて、少年は顔を上げた。
 どうやら、知らぬ間にぼんやりしていたらしい。
 なにせ、手を伸ばせばそれだけで触れられるほど近くにいるというのに、目の前のその女性の存在に、少年は今の今まで気がつかなかったのである。
「こんにちわ、透也くん」
 先ほどとまったく同じ言葉をかけてくるのは、綺麗な女の人だった。
 まず目についたのは、どこまでもどこまでも黒く艶やかな長い髪。
 柔らかそうな曲線を描く長身を中腰にし、覗き込むように向けてくる視線に、思わず見入ってしまう。
 眺めているだけでなんだかホッとしてしまう、とても優しさに満ちた笑顔だった。
 けれど同時に少年は思う。
 この女の人は、誰なのだろう。
 今、自分は家の中にいるのに。いつ彼女はこの場所に入り込んできたのだろう。
「はじめまして、透也くん。お姉ちゃんはね、透也くんのお姉ちゃんだよ」
 すべてを見透かした笑顔で、唐突に彼女はそんなことを言ってきた。
 明らかに不自然なその言葉。
 けれどなぜか、少年はその言葉に疑問をまったく抱かなかった。
 それどころか、どういうわけか、少年は「そうなんだ」と納得してしまった。
 ああ――そうか。そうだった。なんで忘れていたんだろう。
 この人は、ぼくのお姉ちゃんなんだ。ぼくの、たった一人の家族なんだ。
 不自然に少年の顔に理解が広がるのを確認し、女の人は、優しく笑みを深めた。
「これからずっと……お姉ちゃんが、透也くんを守ってあげるね?」
 その台詞の違和感を指摘できる者は、この場には誰もいない。
 本来彼を守るべき両親は、もう、今や、彼の傍にはいなくなってしまった。
 だから少年は、そっと優しく抱きしめてくれるその腕から逃げることもできず。
 むしろそれを迎え入れるように、自分からも彼女を抱きしめていた。
一章
 今日も一日、特に事件も何もなく。世はなべてこともなし。
 いつも通りに授業を終えて、今はまったり放課後時間である。
 帰宅部の加賀見透也は、授業が終われば、特にやらなきゃいけないこともない。
 そろそろと茜色に染まり始めた柔らかな陽の光の中、家へと向かう電車に揺られながら友達同士で談笑していると、スマホにメッセージが入ってきた。
 いったい誰かと見てみれば、送り主は、透也の姉、瑠貴である。
 どうやらちょうど今、夕飯の食材を買いに外に出ているらしい。
 せっかくだから合流して、一緒に帰らないか、というお誘いだった。
「どしたの加賀見、なんか急に嬉しそうにしてんじゃん」
 からかい口調で言ってくるのは、ポニーテールの同級生、桐谷由那だ。
 隣の席で、たまたま帰る方向もほとんど一緒のクラスメイト。
 話すきっかけはただそれだけのものだったが、なんとなく馬が合ったこともあり、学園に入学して以来、一番仲のいい友人の一人になっている。
 男子と女子の関係ではあるけれど、ざっくばらんな由那の性格のおかげだろうか、あまり性差を意識したことはない。
「いや。姉ちゃんからメッセージ来ただけ。夕飯のメニューがぼくの好物なんで、ちょっとテンション上がっちゃったんだよね」
「ほほう。ちなみに何」
「鰯の甘露煮」
 嬉しそうに言うと、聞かなきゃよかった、みたいな顔をされてしまった。
「……なんかさ、時々さ、可愛い顔して変におっさんくさいよね加賀見は」
「え、美味しいじゃない。ぼくの一番の好物まであるんだけど」
「いや、美味しいけど。美味しいけれども。微妙なチョイスで打ち返しにくいねん」
「食事の話題でネタ度とか求められても」
 とまあ、そんなやりとりをしているウチに、ほどなくして最寄り駅へ無事到着。
 電車を降りて改札を出ると、そこには大きく膨れたエコバッグを提げた瑠貴が、人待ち顔で立っていた。
 どうやらもう買い物は済んでしまっていたらしい。
(……相変わらずすごいなぁ)
 そんなことを透也はふと思う。
 なにせ、道行く人々が皆一様に、瑠貴を見たあと、必ず振り返って彼女に見惚れているのである。
 特に際立った特徴があるわけではないのだが、それほどまでに瑠貴は美人なのだ。
 白い肌に艶やかな長い黒髪。穏やかで優しい顔立ち。
 サマーセーターとジーンズに包まれた長身は、緩やかで美しい曲線を描いている。
 胸も腰も女性的なボリュームがしっかりあるのに、色香よりもまず彼女を印象づけるのは、清廉な美しさだった。
 一分の隙もない美貌にもかかわらず、その全身から漂う「優しいお姉さん」な雰囲気のおかげだろうか。美人にありがちな近寄りづらさはまったくなく、なんだか無性に甘えたくなる、母性じみたオーラを放散させている。
 肉親である透也ですらたびたび彼女に見惚れてしまうくらいなのだから、通行人が思わず振り返ってしまうのも、さもありなんというヤツだ。
「あ、透也くん。おかえり~」
 どうやら向こうも、透也に気がついたらしい。
 ひどく嬉しそうに、透也に向かってのんびり手を振ってくる瑠貴。
「…………」
 ざわりと、あたりの空気が動いたような感覚があった。
 呼びかけてくる瑠貴の声に釣られるように、彼女に見惚れていた通行人が揃って全員、一斉に透也に視線を向けてきたのである。
 あの美人がそんな愛おしそうに呼ぶなんて、どこのどいつだ、と言わんばかりに。
(……あはは)
 こんな具合で注目されるのも、正直なところ、もはやいつものことである。
 なので今さら怯んだりはしないけれど、やっぱりちょっと恥ずかしくて――けれど同時に、ほんのちょっと誇らしくもある透也だった。
「ただいま。荷物、持つね」
「わ。ありがと」
 足早に近づいて、まずはその重そうな荷物を引き受ける。
 華奢な見た目に反して、瑠貴はこれで結構腕力もあるのだが――まあそこはそれ、透也としては格好をつけたいという思いも、多少はあったりするわけで。
「えへへ。透也くんは優しいなぁ」
「これくらいで。大袈裟だよ」
 なのでそうは言いつつ、こうして瑠貴に喜ばれると、なんだかんだで内心テンション上がっちゃう透也であった。
「そう言えば、今日の夕飯なんだけど。お魚の他にお野菜分、焼き茄子考えてたんだけど……それでいい?」
「お、いいね。家にしょうがあったっけ? アレつけて食べるの好きなんだよね」
「あるよあるよ~、大丈夫」
 そんな感じで他愛ない会話をしながら、駅から透也たちの家までは、徒歩でだいたい十五分の道のりである。
 道ばたに植えられた桜はもう花が散りきって、枝を覆うのは瑞々しい若葉色。
 梅雨時に入る前の、晩春の夕焼け時は、頬に触れる風も温かくて心地いい。
 そんな柔らかな空気の中、瑠貴と一緒にのんびり歩くこの時間が、透也はこの上なく好きだった。
 瑠貴も、あるいは同じ気持ちでいてくれているのだろうか。
 隣を歩く彼の姉も、とても穏やかで、とても優しい笑みを透也に向けてきている。
「……透也くんも、おっきくなったよねえ」
 ふと、何かを思い出したように唐突に、瑠貴はそんなことを言い出した。
「まだ瑠貴姉ちゃんより背は低いけど」
「そうなんだけどね。でも、それでもだよ」
 そう言って、ひどく嬉しそうに笑みを深める瑠貴。
 確かにじわじわと伸びてはいるが、それでも透也は、平均よりはかなり低めの身長だ。最低限でも瑠貴と同じくらいにはなりたいなあと内心思っていたりもするのだが……まあ、そのあたりの微妙な気持ちを、瑠貴がわかるはずもない。
「っていうか、どうしたの。いきなりそんなこと言い出して」
「別に。なんとなく」
 問いかけてみても、彼女はどこか感慨深そうな表情で笑みを深めるだけ。
 夕焼け時の陽の光に照らされているからだろうか、どこかその横顔は儚く見える。
「…………」
 そんな姉の横顔に、透也は妙に胸がざわつくのを感じた。
 最近時々思うのだけれど……こういう時、ちょいちょい、瑠貴はなんだか変だ。
 なんと言うか――うまく言えないけれど。変に距離が遠く感じてしまうというか。
 少なくても彼女の視線は、姉が弟に向ける類のものではないように思える。
 変な話かもしれないが……そのことに、透也は、なんとも言い表せない漠然とした不安を覚えてしまうことがあった。
 ふとした拍子に、瑠貴がどこか遠くへ、忽然と姿を消してしまいそうに思えて。
「……透也くん?どうしたの?」
 そんな不安が、あるいは顔に出ていたのだろうか。
 透也の顔を見た瑠貴は、ちょっと心配そうな様子で顔を覗き込んできた。
「何か困ったことでもあった?」
「……んーん。なんでもない」
 だから透也としては、ただただ笑顔を取り繕って、そう答えるしかない。
 けれどそんなごまかしが、長年一緒に暮らしてきた彼女に通用するはずもなくて。
「…………」
 瑠貴は、じいい――~~……っ と、どこか神妙そうな表情で、透也の顔を見て。
「……えいっ」
 で……なんだかひどく可愛らしいかけ声一つ。
 いきなり瑠貴は、透也をぎゅうううううっと抱きしめてきた。
「わ、わわっ!? え、瑠貴姉ちゃんっ!?」
 唐突に顔全体を覆ってきた温かい柔らかさに、ちょっとパニックになってしまう。
 念のために繰り返すが、透也は瑠貴より若干背が低い。
 そんな彼女が若干ジャンプ気味に、のしかかるようにして真正面からハグしてきたら、結果的にどうなるか。
 つまり、この、自分の頭を包み込み、ふたつの丸くて温かい柔らかさは。
「な、な、ちょ……っ」
 今二人がいるのは人通りも少なくない、天下の往来のど真ん中である。
 さすがに恥ずかしくてわたわたする透也だが、一方で瑠貴はといえば、そのあたりを全然まったく、気にもしていないらしい。
「あのね、透也くん。実はね、お姉ちゃん、ちょっと疲れたなーとかなっちゃった時に、元気パワーをチャージする必殺技を持ってるの」
「え、そうなの……ていうか必殺技だと攻撃しちゃう感じにならない……?」
「その名も、オトート酸吸収法」
「おと……え、何? おとーとさん……弟さん?」
「オトート酸です。透也くんの使った布団をハグしたりすることで摂取できます。
 これがめちゃくちゃ効果覿面。なので透也くんも同じようなことしたら元気になるかなって」
 そう言いながら、瑠貴はさらに、おっぱいをぎゅううっ、と押しつけてくる。
 オトート酸も何も、それはいわゆる体臭とかそういうヤツなのではあるまいか。
 けれど透也は、ぼくのいない間に瑠貴姉ちゃん何やってんの、と突っ込むこともできず、ほとんど身動きが取れない状態になってしまった。
「ほらほら~どうだ、お姉ちゃんの、オネー酸の効能は~」
「どうって、う、あああ」
 どうもこうも、これは絶対アカンヤツである。
 温かくて柔らかくて、なんだかすっごい気持ちいい。
 それに何より、話の流れ上、どうにもふわりと漂ってくる甘い香りに意識が行ってしまって……もう透也はどうすればいいかわからなかった。
 だって、この鼻をくすぐる鼻のような香りは、おねえちゃんの香りなのである。
 おねえちゃんのおっぱいの香りである。
 これが世に言う、人を駄目にするおっぱいクッションというヤツだ。
「――~~っ ああもう、待って、待って!」
 思わず頭が完全に馬鹿になって思いっきり堪能しちゃいたくなったけれど――そうしちゃうと身体の一部分がのっぴきならないことになりそうで、さすがに限界。
 やんわり瑠貴を押しのけ、魔性の柔らかさからなんとか脱出。
 顔が赤くなるのを自分自身で意識しつつ、ごまかすように透也は大声を上げた。
「ここ道ばただから! 恥ずかしすぎるから!」
「え、じゃあ家ならやっていいの?」
「家も恥ずかしいからやっぱりやめて!」
「そっかぁ。残念」
 羞恥のあまり、結構強めの拒絶の言葉を吐いてしまったけれど、瑠貴はまったく気にした様子もない。
 どころか「でも元気になったみたいだね。よかったよかった~」なんてことを言いながら、上機嫌でにこにこしている始末である。
 瑠貴がこんな感じでちょっぴり茶目っ気たっぷりのスキンシップを取ってくるのは、正直今に始まったことではないのだけれど……でも実のところ、これだけは、もう少しどうにかしてほしいと思う透也だった。
(……ぼくの気も知らないでぇぇぇ……)
 ……いや。透也だってわかっている。
 相手は家族だ。
 お姉ちゃんだ。
 いくら美人だからって、こういう風にドギマギ意識するなんて、どうかしてる。
 瑠貴の方だって、大して気にもしていないからこんなことができるのだろうし。
 けど、だからこそ、色んな意味で透也は微妙な気持ちになってしまうのだ。
(……やっぱり、こういう風に考えちゃうの……変なのかなあ)
 ふと無性に不安になって、そんなことを透也は思う。
 先ほどみたいに、時折り瑠貴が見せる表情に、必要以上、変に色々考えちゃうのも、結局のところそれは、透也の気持ちの問題なのだろう。
 今の生活に不満はない。
 両親はいないけれど、経済的に余裕がないわけではないし、何より瑠貴というかけがえのない家族がいる。
 だから寂しさも感じたことはない。
 ただ、そんな中で……一つだけ透也に不満があるとすれば、それは、瑠貴と透也が……自分たちが姉弟だということだ。
 瑠貴は、美人で優しい。
 面倒見もよく、親がいない加賀見家で、ずっとずっと、彼女は親代わりになって透也を育ててくれた。
 けれど、だからこそ。そんな素敵な瑠貴と家族であるからこそ、透也は、彼女と一生添い遂げられるような関係には絶対なれない。
 時々、そんな当たり前のことが、どうしようもなくつらく思えてしまうのだ。

 ――そう。
 加賀見透也は、自分の姉の瑠貴に、許されざる、密かな恋をしているのである。
     ☆
 それからは、特に何事もなく帰宅して。
 一緒に美味しいご飯を食べて、宿題もさっさと済ませてしまって。
 そのあと透也は、お気に入りのテレビドラマを見ている瑠貴の隣で、まったり読書をして過ごすことにした。
 お互い特に会話はないが、こうして二人とも好き好きに過ごしながら、それでも瑠貴を近くに感じるこの時間もまた、透也のお気に入りである。
「……あ、まずい」
 なので、ついつい時間を忘れて過ごしてしまって。
 ふと時計を見ると、いつの間にか、日付が変わる三十分前になっていた。
「そろそろ寝よっかな」
「あれ、そっか。もうこんな時間なんだ」
 透也の台詞で、瑠貴も思い出したようにそんなことを言う。
 特にルールはないのだが、加賀見家は日付が変わる前後で布団に入ることが多い。
 すでにお風呂も済ませたし、歯も磨いて寝間着に着替えてしまっている。
 特に粘ってすることもないので、透也は今日は、ちょっと早めに寝ることにした。
「瑠貴姉ちゃんは? どうする?」
「ちょっとやることあるから、それだけ済ませてお姉ちゃんも寝ちゃうね」
「わかった。あんま夜更かししないでね」
「うん、ありがと。おやすみなさい~」
 そんなわけで、にこやかに手を振る瑠貴に「おやすみ」と返し、透也は自室に戻ってベッドに潜り込むことにした。
 ……なのだけれども。
「…………んー……?」
 今日は、なんだか妙だった。
 基本的に透也は、わりと寝付きがいい方だ。
 ベッドに入り布団をかぶれば、だいたいいつも、十五分もかからずに意識が眠りの中に落っこちてしまう。
 なのに今夜はどうしたことか、三十分くらい布団の中でじっとしていても、まったく眠れそうな感じがしない。
 これはいったいなんだろう。
 何をしたわけでもないのだけれど、なんというか、そわそわと変に胸騒ぎがする感じ。
 意識の中に何かが引っかかるような感覚がぼんやりとあって、どうもそのせいだろうか、眠気がいっこうにやって来ないのだ。
「……むう」
 何もせずにただただ無為に、三十分以上もゴロゴロしていれば、いい加減気持ちがしんどくなってくる。
「……しょうがない」
 特に喉が渇いたわけではないのだけれど、とりあえずあたためた牛乳でも飲むかと、透也は布団から出ることにした。
 うるさくしないようそっと静かにドアを開けると、さすがに瑠貴も作業とやらを終えて自室に入ったらしく、廊下は電気を落とされ真っ暗になっていた。
 明かりをつけてもいいのだが、下手に眩しくすると、寝に入ってすぐであろう瑠貴をむやみに起こしてしまいかねない。
 なのでなんとなく、透也はそのまま、暗闇の中、ゆっくりと忍び足で台所に向かっていって――
「……ん?」
 けれど……そこでふと気がついた。
 静まり返った暗い廊下の向こう側で、なんだか、妙な気配というか――がさごそと、わずかな、しかし確かな物音がしている。
 気配の発生源は、方向から察するに、お風呂の脱衣場あたりだろうか。
(……瑠貴姉ちゃん、ぼくがお風呂から出たあと、すぐに入ってなかったっけ?)
 この時間に洗濯みたいな家事をするわけもなし。ではいったい、この気配はなんなのか。
「…………」
 なんだかちょっと、怖くなってきた。
 なのですぐ逃げられるように、気付かれないように、透也はそうっと、そうっと脱衣場の方に向かっていって。
 わずかに開きかけていた戸を、ゆっくり開いて――
(………………えっ)
 そして――視界に飛び込んできたその光景に、透也は絶句するしかなかった。
「ぁ。あっ、んんんっ、ぁ、あぅっ、んんっ」
 変に甘い吐息を漏らしながら……瑠貴は、変なことをしていたのである。
 行儀悪く流しに腰をかけて。
 ジーンズのファスナーを開けて、そこに右手を突っ込んで。
 せわしなくその中で、指を動かして。
 くちゅくちゅとわずかに水音が奏でられるたびに、瑠貴は切なそうに戦慄いている。
 左手は――なんだかよくわからないことをしていた。小さな布きれのようなものを持って、それを自分の鼻先に押しつけて、しきりに匂いを嗅いでいるようだったが。
 いったい、何をしているのか。
 なんとなくその布きれの柄に見覚えがあるような気がして、首をかしげ――しかしすぐにそれが何か思い至って、透也は戦慄した。
(……え? あれ……今日、ぼくが穿いてたパンツじゃ……!?)
 ――そう。間違いない。
 つまり、瑠貴は……今、透也の使用済みパンツの匂いを嗅ぎながら、オナニーしているのである。
(え。ええ? なんだこれ、何してるの瑠貴姉ちゃん……!?)
 理屈では理解できるが、感情がこの状況についていけない。
 だって……瑠貴が、そんなえっちなことなんて、するはずがない。
 透也が思春期になったあとですら、彼女の口から下ネタが出たことなんて、今まで一度もないのである。
 そんなことなどまるで縁がない、清廉そのものの立ち振る舞いをする人なのだ。
 なのに――これはどうしたことだろう。
 彼女が見せる横顔には、躊躇いや恥じらいというものがまったく感じられない。
 まるでそんなことを日常的にしているように自然体で、ただただ股間を自分で慰めることで得られるその快感に、瑠貴は耽溺しているように見えた。
 しかも――
「はぁ、あ、あっ 透也くん、んんっ 透也、くんっ んぁ、あっ」
 決定的な単語が、はっきりと、聞こえてしまった。
 彼女が口ずさむのは、透也の名。
 愛おしそうに、心地よさそうに、切なそうに、彼女は弟の名を呼んでいる。
「んっ、ぁっ あっ 透也くんっ、透也くんっ 透也くんっ」
 くちゅ。ぐちゅ。ぬちゅ。びちゅ。ぬちゅ。くちゅ。
 しかも気のせいだろうか……瑠貴が透也の名を呼ぶたびに、指の動きが、そして耳に聞こえる粘っこい水音が、どんどん激しさを増してきているような気がする。
「あ、あ、あっ ん、う、ぁ、ああっ やだ、指、とまらな、ああっ」
 見る間に、瑠貴のその喘ぎが、どんどん熱く、高く、甘くなっていく。
 もどかしく動く腰のせいで、ジーンズがだんだんとずり落ちて、滑らかで白い太股が露わになってしまっているが、瑠貴はもうそれを気にする余裕もない様子。
「っく、んんっ ぁっ あっ あ……っ」
 そして――とうとう。
 感極まったように、瑠貴はびくんと、身体を大きく大きく震わせて。
 それが何かの契機になったのか……なにか妙な香りが、つんと鼻を突いてきた。
 何か、饐えたような、獣くさいような、不思議な匂い。
 今まで一度も嗅いだことがない匂い。
 ――けれど一方で、透也は本能的に、それがなんであるかを悟っていた。
 これは、あれだ。
 いわゆる、発情臭というヤツだ。
 瑠貴が興奮しちゃって、えっちになって、それでこんな体臭が出ているのだ。
 同時に透也は、今さらながらに強い後悔を覚えた。
 これは、自分が絶対見てはいけないヤツだ。
 自分だけではなく、世界中の誰もが見てはいけない、瑠貴だけのヒミツの時間。
 そう本能的に考えるのだけれど――でも、なぜか透也はその場から動けなかった。
 だって、瑠貴のその艶姿は、まるで奇跡のようにイヤらしくて。
 何より、とっても綺麗で。
 だから透也は、そんな瑠貴に、釘付けになってしまっていたのだ。
「あ、あっ あ、んっ あ、もう、もうっ あっ」
 やがて――どうやら瑠貴の興奮は、最高潮に近づいてきたらしい。
 顎を上げ、一心不乱に透也のぱんつを嗅ぎつつ、背中をきゅっとのけぞらせて。
「んんんっ、う、んんっ、はう、あっ、あっ いっ、んんん――ッ」
 必死に唇を噤み、甘い嬌声が唇からこぼれるのになんとか耐えつつ。
 限界まで高まった甘く熱い衝動が、瑠貴の全身を駆け巡ったようだった。
(……瑠貴姉ちゃん……もしかして、今、イった……?)
 そう。もしかしても何も、間違いない。
 今、瑠貴は。透也の目の前で、彼のぱんつをオカズに、オナニーでイったのだ。
 そして――しかも。異様な光景は、それだけにはとどまらなかった。
(……えっ!?)
 続けて瑠貴の身に起きた異変に、透也は立ち尽くしかなかった。
「……ふぁぁ……」
 ぼんやりうっとりする瑠貴の身体のあちこちに、妙なものが生えてきたのである。
 背中のあたりからは黒い鳥類の羽根のようなものが生え。
 白いお尻からは、同じく黒い、野太いトカゲの尻尾のようなものが生え。
 黒く艶やかな髪は、一部が何やらぬるりとした触手のようなものに変化して。
 そして側頭部のあたりからは、羊を思わせるとぐろを巻いた造形の、しかし紅く妖しく光る角のような生えていた。
 これは、いったい、なんなのだ。
 あまりに現実からかけ離れたこの事態に、透也は立ち尽くしてしまって。
「……あ、あれ? 透也……くん?」
 だから透也は、瑠貴が彼の気配に気付いた時も、逃げ出すことができなかった。
(あ……しまった!)
 今さら動こうとしても、もう遅い。
 あっという間に瑠貴は透也の傍まで移動して、わずかに開いていたドアを開け放ち、透也の逃げ場を封じてしまっていた。
「……っ」
 間近に迫ってきた瑠貴に、わけのわからない危機感を覚え、息を呑む透也。
 基本の姿はいつもと変わらないはずなのに……今、透也の目の前にある瑠貴の姿は、異様な圧力のようなものを四方八方に向けて放散しているように感じられたのだ。
 ――死んだ、と、本気でそう思った。
 理屈ではない。
 ただただ彼女を前にすると生存本能が刺激されて、そう感じてしまったのだ。
 こんなの、敵うはずがない。逃げられない。絶対取って食われてしまう、と。
「……うそ」
 異様な気配とは対称的に、瑠貴の顔立ちはいつも通り優しいものだった。
 というよりなぜか、むしろ彼女の方が追い詰められたかのような表情をしている。
「うそ、うそ……なんで透也くん起きて……って、あ、そっか、魔法かけるの忘れてた……ああああああ、こんなことでバレちゃうなんてえええっ」
 この世の終わりのような表情で、しゃがみ込み、頭を抱える瑠貴。
「えー……と、えと。瑠貴姉……ちゃん?」
 混乱のあまり逃げるのも忘れて呆然としてしまう。
 というか……魔法とかなんとか、そんなとんでもない言葉を口にしていなかったか。
 その変な格好もそうだし、これは、この状況はいったいなんなのだ。
「うー……ううー……」
 一方で瑠貴は瑠貴で、頭を抱えてしばらく懊悩を続けて。
「ああ…………もう、いいや。もうどうでもいいや」
 丸々三分後、何やら意を決した様子でそう呟きながら、ゆらりと立ち上がった。
 ひどくやけっぱちな口調だった。
 なんだかひどく悪い予感を覚えるものの、透也はとっさに何かすることもできなくて。
 だから瑠貴は、そんな透也の肩を、難なくがしりと力強く捕まえてきて。
 そうして恐ろしく据わった目で、透也にとんでもないことを囁いてきたのである。

「透也くん……えっち、しよ?」 
     ☆
「透也くん……えっち、しよ?」

 台詞の意味を理解するよりも先に、透也の身体に、ぐいと大きな力がかかった。
 透也は抵抗することもできずに後ろ向きに倒されて――しかしなぜか、床の硬い感触にぶつかることはなく、柔らかい何かに、ふわりと彼の身体は受け止められた。
「……えっ?」
 一瞬、状況が理解できなかった。
 なにせ――そこは、ベッドの上だったのだ。
「……え、えっ!?」
 混乱して周囲を見渡した透也が、続けざまに驚いた声を上げるのも無理はない。
 彼の視界に映ったのは、つい今の今まで自分がいたはずの廊下ではなく、透也の自室とよく似た間取りの部屋だったからだ。
 そこは、妙に殺風景な印象の……本当に何もない部屋だった。
 調度はほとんどなく、ベッドの他には、あるのは小さな箪笥と机だけ。
 本当に最低限ものしか置いておらず、部屋の主の趣味性や人格がまったく反映されていない……衣服を保管し、寝るためだけに使われるような、寂しい空間だった。
 ただ、机の上に置かれた小さなバッグだけは、確かに見覚えがあるものだった。
(……あれ、瑠貴姉ちゃんのバッグ……?)
 見間違えるわけがない。
 なにせあれとまったく同じものを、去年の瑠貴の誕生日にプレゼントしたのだから。
(……え、じゃあここ、もしかして瑠貴姉ちゃんの部屋……!?)
 なんとなく色々意識しちゃって、透也は瑠貴の部屋に入ることを避けていたのだけれど、しかし彼女の自室がこんな寂しい感じのものとは思いも寄らなかった。
 いや、しかしそれ以前に、これはいったい、何が起こっているのだろう。
 ついさっきまで確かに自分は廊下にいたはずで、移動した記憶もまったくないのに。
 瞬間移動をしたとでも言わないと、今の状況に説明がつかない。
「……ふふ。ふふふふふ。ふふふふふふふ……」
 動揺している透也の目の前で、瑠貴は、ひどくやけっぱちな笑い声を上げている。
 意味のわからない瞬間移動にも、彼女はまったく驚いた様子もない。
 先ほどから変わらず、羽根と尻尾と角を生やした透也の姉は、ひどく薄暗く妖しい光を瞳に灯らせ、据わった目つきで彼を見下ろしていた。
 やばい。
 なんだかよくわからないけれど、これはやばい。
 早いところ逃げないと、何かとんでもないことをされる。
 ぐるぐると混乱する思考の中で、それだけははっきりとした確信があった。
「んっ、ん……、あ、あれ!?」
 だからなんとか逃げるべく立ち上がろうとして――しかしそれができない。
(……な、え、何これ? 何これ!?)
 透也は、ますます絶句するしかなかった。
 いつの間にか現れた何かに、がっちりと両手首を掴まれて、透也は身動きがまったく取れなくなってしまっていたのである。
 しかも自分の腕に巻きついていたのが、およそ現実のものとは思えない、異様な造形だったものだから、なおさら透也は混乱してしまった。
 ナマコのような表面を持ち、肉色で長くてうねうねと蠢く――なんというか、触手としか言いようのないもの。
 そんなものが、本当に唐突に空中から生えて、透也に巻きついていたのである。
「大丈夫だよ透也くん。それ、お姉ちゃんの身体の一部みたいなものだから。別に痛いこととかしないよ」
「じ、自分の身体の一部って……?」
 安心させるように言ってくる瑠貴だが、むしろその台詞にこそ動揺してしまう。
 こんなものが、見るもおぞましい触手が、瑠貴の身体の一部?
 痛いことしないとかより、よほどそのフレーズの方が一大事のような気がする。
「ど、どういうこと? もうさっきから、わけがわからないことばかりなんだけど」
 もはや何がなんだかわからず、途方に暮れるしかない透也。
 そんな弟に対し瑠貴が口にした告白は――けれど到底、にわかには受け入れられるものではなかった。

「あのね……お姉ちゃん、実は、悪魔なの」 

「…………へ?」
 わけがわからない。
 そりゃ確かに、ビジュアルというか……羽根とか角とか、瑠貴にくっついているパーツは、悪魔っぽい格好ではあるけれど。
 けれど、瑠貴は透也のお姉ちゃんで。お姉ちゃんのはずで。
「……ああもう、どうでもいいじゃない。そんなことどうだって」
 呆然とする透也をよそに、やけっぱちな笑顔のまま、瑠貴が覆い被さってくる。
 ぎしり、とベッドがきしむ音が、やけにうるさく聞こえた。
 さっきの自慰の余韻だろうか、至近距離まで身を寄せられると、妙に甘やかな熱を含んだ香りが漂ってくる。
 ぞわぞわと、妙に、胸の奥がざわつくような感覚を透也は覚えた。
「る、瑠貴、姉ちゃん……?」
「……うふふ」
 艶然と笑いつつ、瑠貴は、呆然とする透也の頬を、弄ぶように優しく数度撫でて。
 そっと透也の顔に手を添えて――
「ん、んん……っ!?」
 そしていきなり――ふわりと、透也の唇に、温かい感触が触れた。
 そう。あっさりと、なんの躊躇もなく。
 問答無用で、瑠貴は、透也の唇を奪ったのである。
「ん!? んんんっ!?」
 めいっぱい声を上げても、瑠貴の口に阻まれ、意味不明なうめき声になってしまう。
 身じろぎしようにも、彼女を振りほどこうにも、謎の触手に拘束されて、どうすることもできやしない。
(なに、これ……!? なんで瑠貴姉ちゃん、え、これ、キスされて……ええ?) 
 これはいったい、なんなのだ。
 わけのわからなすぎる状況だ。
 夜中に起きたら、お姉ちゃんがオナニーしてて。
 その後、なんの脈絡もなく、お姉ちゃんの身体に羽根と尻尾と角が生えて。
 お姉ちゃんは、自分が悪魔だとか言い張って。
 で、気がついたら部屋で拘束されてて、問答無用のファーストキス。
 全然理解が追いつかない。
 だというのに――初めて感じる女の人の唇の感触は、柔らかくて、温かくて。
 そして何より気持ちよくて。あるいはさっき、瑠貴のオナニーを見てしまって、頭がどうにかなっちゃったのだろうか。そんな場合じゃないはずなのに、心地よさに頭の中が蕩けてしまう。
「ん……はぅ」
 軽く食むように瑠貴が唇を動かしてくる。
 そっと優しく、くすぐるようにこすれる唇の感触が、なんだかとっても甘酸っぱい。
「うんん、ん、はむ、んん、ちゅっ」
 そうしてしばらく、瑠貴は透也の唇を堪能したあと……ようやく顔を離してくれた。
 細い銀の糸がつう、と引いて、それがえらく色っぽい。
 唇同士の粘膜接触は、瑠貴にとってもひどく甘美なものだったらしい。
 彼女はその感覚を名残惜しむように、自らの唇に人差し指を添えて、ちゅ、ちゅ、と自分の指先にキスを繰り返していた。
(……うあ)
 なんだかもう、色々とたまらない。
 瑠貴が見せる仕草の一つ一つが、状況の異様さを忘れて見惚れるくらい、ひどく淫靡で、綺麗で、どぎまぎして釘付けになってしまう。
 そして――けれど。
 今の瑠貴が、さっきのだけでハイおしまい、とするはずがない。
「……もういっかい」
 なんだかひどく子供っぽい口調で、瑠貴はそんなことをぼそりと言って――そして彼女は再び、透也の唇を求めてきたのである。
「え、えっ!? る、瑠貴姉ち……ぁっ、んんんっ!?」
 しかも今度は、単なる唇同士の触れ合いだけでは済まされなかった。
「ん、あう、うんっ、んん、透也くん、んん……っ♪」
「……~~~~~っ!?」
 にゅるりと、透也の口の中に、なんだかぬめった温かい何かが挿し込まれてくる。
 突然侵入してきた異質なその感触に、一瞬何がなんだかわけがわからなくなって――しかしすぐに、透也はそれが何か理解した。
 これは、瑠貴の舌だ。
 こともあろうに、これが透也にとってファーストキスだというのに……今、透也は、お姉ちゃんと、瑠貴と、ディープキスをしてしまっているのだ。
「あ、ん、う、んんっ」
「ん、ちゅっ、んむ、んん、透也、くんっ」
 ぬらぬらと温かく分厚い肉の塊が、透也の口内を舐めずり回してくる。
 瑠貴の舌が、瑠貴の体温が、瑠貴の唾液が、透也の口内を蹂躙してくる。
「ん、ぁ、はぁ…… 透也、くん……」
 時折わずかに開いた唇同士の間から、透也を呼び求める甘い瑠貴の声がする。
 わけがわからなかった。
 ただただ、混乱するしかなかった。
 嫌悪感はまったくない。だってなにせ、相手は瑠貴なのだ。
 実のところ、瑠貴とこういうことをする妄想をしたことも、実際ないことはない。
 けれど、そんなことが現実になるとは、当然夢にも思っていなくて。
 あまりにいきなり押しつけられた彼女の唇と舌の感触は、想像以上に生々しくて。こんなの、どう受け止めていいか、わかるわけがない。
「んん、ぁ、あっ、んむっ、透也くん、透也くんっ」
 だから――透也は本当になすがままになってしまった。
 彼女の舌の動きに合わせて何かするわけでもなく。
 彼女の愛撫を拒否して、舌を引っ込めたりすることも当然できない。
「んむっ、ん、はう、あ、んん、ちゅ、ん、んう、透也、くん……っ」
 ――瑠貴の舌の動きは、ただただ、ひたむきだった。
 舌をじっくり透也の舌に這わせ、味蕾の一つ一つで隈なく味わおうとして。
 一滴たりともこぼさぬようにと、しきりに透也の唾液を嚥下して。
 自分ばかりでなく透也にもなんとか気持ちよくなってもらおうと、舌先でしきりに透也の口の中のあちこちをくすぐってくる。
(う……)
 なんだか、無性に悔しかった。
 だって、このキスが、気持ちいいいのだ。
 病みつきになるくらい気持ちいいのだ。
 だからこそ、キスを甘んじて受け入れている自分が、情けなくてしょうがない。
 そりゃ確かに、瑠貴とはこういうことができたらいいなとは考えていた。
 もっともっとえっちなことを彼女とする妄想だって、何度もしたことがある。
 でも、だからこそ。こんな形で、なんの心の準備もなく、唐突にこういうことをするなんて、そんなのまったく不本意で理不尽だ。
 瑠貴のことが大好きだからこそ、瑠貴のことが大切だからこそ、そういう関係になるのならば、ちゃんと誠実に想いを伝えて、気持ちを確かめ合ってから、こういうことがしたかった。
 なのに、拒絶できないのだ。
 だって、めちゃくちゃ気持ちいいのだ。
 思わずなすがままになって、耽溺してしまいそうになるのだ。
 そして――さらに。
「ん、透也くん……っ ごめん、ごめんね? お姉ちゃん……がまんできないっ」
 一方的にそう宣言した瑠貴の腕が、透也の背に回される。
 もう心底たまらない、といった感じで、きゅっと腕に力を込めて、縋るような抱擁をしてくる瑠貴。
 温かな瑠貴の体温。柔らかな女の人の感触。ふわりと香る甘い匂い。
 キスをしながらのさらにそんな三段攻撃に思考がドロドロに溶けて――

 ――ぐじゅり。

「……っ!?」 
 そして次の瞬間――異様な音を立てて、まるで透也が蕩けたその隙を狙うように、ずっと彼の口内を味わい続けていた瑠貴の舌の感触が、唐突に変化したのである。
 それは、本当に想像の範疇を越えた感触だった。
 だって、おかしい。こんなのあり得ない。
 透也の舌や口の中を舐め回していた彼女の舌先の感触が、複数に増えたのだ。
 しかも、それだけではない。
 温かくでねっとりと唾液で濡れていて、ちょっとざらざらしていた彼女の舌の感触が、今までとはまったく違うものに変化しているではないか。
 表面全体がぬるぬるしたもの。
 細かいヒダが何重にも重なっているような感じのもの。
 吸盤のようになって透也の口内の粘膜に吸いついてくるもの。
 明らかに人間の舌では再現しようのないそれらの複数の感触が、それぞれまったく別の動きでもって、透也の口の中で蠢いているのである。
「……っ。っ!? んん――――……っ!?」
 わけがわからない。意味がわからない。何が起こっているかわからない。
 とっさにどうにかして身を離そうにも、触手に手足を拘束され、ぎゅっとキツく瑠貴に抱きしめられているこの状態では、何かができるわけもない。
 かと言って、歯で噛むなんて、そんなひどいこともやるわけにはいかなくて。
「ん。ん。じゅ。んん、んん、ぁ、あっ 透也、くんっ」
 透也が当惑する一方で、瑠貴はただただ、愛おしそうに透也の名を呼ぶばかり。
 そうして、途方に暮れる透也の口の中から、およそキスのものとは思えない、おぞましいとすら言えるような異様な音が、奏でられていく。

 ぎにゅる。ぐちゅ。ねちょり。ぶちゅる。ぬぎゅ、ぶりゅ。どちゅ。ぎゅるる。

「う、うっ、あ、う……っ」
 不思議なのは……普通ならば、そんなことをされれば息苦しさでどうにかなりそうなモノなのに、その手の苦しさはまったく感じなかったことだ。
 それに何より、おぞましいと感じるのが普通なのに、なぜだかそんな感情はまったく覚えなくて。
 吸盤が頬の裏に吸いついてくる動きも。
 ぬるぬるの細い管のようなものが舌に巻きつき、しごき上げてくる動きも。
 細かいヒダが口内すべてをじっくり撫で回してくる動きも。
 太い管のようなものが喉の奥に突っ込まれ、甘いどろりとした粘液が、食道に直接流し込まれていくような、そんな動きですら、ちっとも苦しくない。
「ん、んむ、透也、くぅん……っ」
 甘い声で、切なそうに透也を求める声に意識がかき回されて。そんな異様な感触も、瑠貴がひたむきに透也を愛でてくれているという実感が確かにあって。
 それらの感触に、ただただ、思考がまとまらなくなっていく。
 何もかもが、わからなくなっていく。
 敏感な粘膜が撫でられ。
 舐められ。こすりつけられ。
 それによってもたらされる感覚は、ただ一つ。
 気持ちいい。
 わけがわからないのに、気持ちいい。
 わけがわからないものに口を好き勝手にされて、気持ちいい。
 全身が熱くなる。思考がうまくまとまらない。
 ただただ、純粋に、気持ちいい。
「ん……。ん……っ」
 ひとしきり透也の口を味わい尽くして、ようやく瑠貴も満足したらしい。
 ずるりと異様な音を立てながら、ようやく二人の唇が離れた。
「……んふ。あはは」
「……―――……」
 そして――透也は見てしまった。
 キスの余韻に酩酊し、ひどくうっとりした笑みを浮かべる瑠貴の口元から、明らかに人間にあるまじき造形の舌がのぞいているのを。
 そこに見えるのは、概ね、透也が口で味わわされた通りの造形だった。
 瑠貴の舌はその根元から複数に割れ、それぞれがまったく異なる形になっていた。
 ぬるぬるした表面で、くびれのあたりまで伸びそうなほど細長いもの。
 タコの足のようにひくつく吸盤がびっしり生えたもの。
 親指大の太さを持ち、なぜか管状になっているもの。
 腸をひっくり返したように何重にも細かいヒダが生えているもの。
 見るからにおぞましい、触手としか表現できないものが、そこにはあった。
 ……ぞっとした。
 あんなものと、キスをしていたのか。
 あんなもので、自分は気持ちよくなってしまっていたのか。
 けれど。ああ、けれど。あれは、あの触手は、瑠貴の舌であるはずで。
「……ふふ、ね、透也くん。もっともっと、気持ちよくしてあげるね?」
「え、え、もっと、って」
 呆然と硬直する透也を見ながら、瑠貴はうっとり笑って……そして問答無用で、彼女は次の一手を繰り出してきた。
「って、瑠貴姉ちゃん!? 何やってるの!?」
 驚いて大声を上げる透也。
 なにせ瑠貴は、あろうことか身体を下の方にずらし、透也のパジャマのズボンとパンツを、一気に脱がしてしまったのである。
「だって、もっと気持ちよくしよって思ったら、こうしなきゃでしょ?」
 非難の声にも、瑠貴はまったく動じない。むしろ露わになった透也の下半身を見て、満面の笑みを浮かべるばかりであった。
「……あはは、透也くんも身体は正直みたいだね?」
 そこを指摘されたら、透也としても立つ瀬がない。
 言いわけできる余地もなく、透也のそこは、完全に勃起し、臨戦態勢となっていた。だって、しょうがないじゃないか。
 ついさっき、瑠貴のオナニーを見たばかりなのである。
 あまつさえその後彼女に抱きしめられ、キスまでされたのである。
 透也にとって瑠貴は、世界で一番好きなお姉ちゃんであると同時に、世界中の誰よりも、女性としての魅力を感じている相手なのだ。
 そんな相手にこんな熱烈にキスをされたらそりゃ、反応だってするというものだ。
「えへへ。透也くんのおちん×ん……おっきいね~♪ ぴくぴくしてかわいい~」
 はしたなく勃起する透也の性器を目の当たりにしても、瑠貴はただただ、ひどく嬉しそうに微笑んでいる。
 怯んだ様子もなくむしろ愛おしそうに男の欲望を凝視するその様子は、普段の瑠貴の雰囲気からはひどくかけ離れていて……もうアタマがどうにかなりそうだった。
「じゃあ……いっぱい、気持ちよくしてあげるね?」
「え、な、何を……うぁぁっ!?」
 瑠貴はもはや、透也の問いかけに答えるようなことはしなかった。
 ただ一方的に、瑠貴はそっと透也の股間に顔を寄せ――そしてなんの躊躇もなく、彼女は弟の勃起を、口に咥えてしまったのである。
「……っ、あ、あっ!? あ、うぁあっ!?」
 敏感にいきり立った性感帯が、瑠貴の温かさに包まれる。
 憧れのお姉ちゃんの、強制フェラチオ。
 そんなのもう、のけぞるしかなかった。
 しかも――しかもである。
(な、何、何これ、あ、あっ!?)
 そう、忘れてはならない。
 瑠貴の舌は、今、普通の形をしていないのである。
「わ、あわ、わわわっ、うあぁああっ!?」
 さっき透也の口を蹂躙し尽くしたあの圧倒的な感触が、今度は男性器に絡みつき、まとわりつき、撫でくり回してくる。
 管状の舌先から、甘い匂いのする粘液がまぶされて。
 それを細くてぬるぬるした管が絡みつき、勃起全体にまとわりつかせて。
 柔らかなヒダが裏スジを舐めずり回して。
 勃起全体を吸盤が吸いついて。
 そしてそのすべての舌先が、柔らかく、優しく、しかし絶妙な締めつけで、透也の勃起をしごき上げてきて。
「うああ、あっ、あっ……う、あっ」
 舐め上げ。吸いつき。しごき上げ。
 興奮して、そうしてわき出した先走りが、丁寧に丁寧に舐め取られて亀頭に塗りつけられて。さらに敏感になった先端を、執拗に執拗に、めちゃくちゃに撫で回されて。あまつさえ、細長いヒモ状の触手が、つんつんと悪戯するように鈴口をつついたりしてきて。
 そんな、普通だったら絶対あり得ない刺激の多重攻撃。
「あ、う、あっ、あった、あっ、あっ、あっ、あう、う……っ」
 無理だこんなの。耐えられるはずもない。
 だって、もうさっきのキスで、痛いくらいに透也は興奮していたのだ。
 その時とまったく同じ刺激で、男性器を刺激してくるのだ。
 だから――もう。もう。もう。もう……っ。
「う、あうっ、う……っ」

 びゅるるる、ぶりゅるるうっ。びゅうううっ。びゅりゅるるっ。

 結局――完全に暴発気味に、透也は瑠貴の口に、精液を吐き出してしまっていた。
     ☆
「ん、んん……んぅ……」
 とくり、とくりと、透也は瑠貴の口の中で射精して。
 それに合わせて、こくり、こくりと、瑠貴の喉が鳴る。
「んふ……」
 ほどなく脈動が収まって……ゆっくりと瑠貴は、透也の股間から口を離した。
 恐ろしいことに、とんでもない量の精液を出しちゃったはずなのに、瑠貴の艶やかな口元からは、透也のはしたない体液は一滴もこぼれることがなかった。
(瑠貴姉ちゃん……ぼくの、全部飲んだんだ……)
 その事実に気付いて、状況の異様さも忘れ、透也は胸が高鳴ってしまう。
「は、ふぁ……ぁぁ……」
 どうやら透也の勃起を苛んでいた例の触手は、一時的な変化であったらしい。ご機嫌の表情で舌舐めずりをした時にちらりと見えた彼女の舌先は、いつも通りの、人間と同じものになっていた。
 ただ、一方で尻尾や羽根や角は、相変わらず出しっ放しだったりするけれど。
「あぁ……透也くんのザーメン……美味し」
 頬に手を当て、うっとりとそう呟く瑠貴。
 その表情はひどく色っぽくて、彼女がまだ情欲に酔っ払っているのは明白だった。
「…………」
 そんなのを見せられたら、透也だってたまらない。
 その証拠に――見るがいい、彼のはしたない下半身を。
 あれだけ大量に射精したはずなのに、透也の股間のものは、まだまだ物足りないと言わんばかりに張り詰めて、ひくりひくりと脈動を繰り返してしまう。
「……ふふ」
 そして――当然瑠貴が、そんな情けない透也の様子に気付かないはずがない。
 けれど彼女は、弟の浅ましい欲求を目の当たりにしても引くことなんてまるでなくて……むしろそれを全肯定するように、優しい笑みを向けてくるのだ。
「ね、透也くん。どうせだから、最後まで……しちゃおっか?」
「う、え。……え? さ、最後まで……って」
「そんなの、決まってるじゃない♪」
 狼狽える透也に艶然と微笑みながら、彼女は見せつけるように、ゆっくりと透也の目の前で、自らの服を脱ぎ始めた。
 半端にチャックが開いていたジーンズを、じっくり下ろしていく。
 白い太股が露わになり、滑らかなふくらはぎのラインを見せつけられる。
 そしてそうなれば、控えめながらも華やかなレースに彩られた薄いピンクのショーツまで丸見えになって……透也はもう、それに釘付けにならずにはいられなかった。
「……くす」
 弟の無遠慮とも言える視線に気付いても、瑠貴は咎めるようなことはしない。
 それどころかひどく嬉しそうな笑みを浮かべ、すっと、拘束されたままの透也に身を寄せてきて……そして文字通りの悪魔の囁きをしてきた。
「ね、透也くん。どうせだったら……お姉ちゃんの服、脱がせてみたい?」
「う、うぇっ。あ」
 どもってしまって……でもむしろ、その反応で語るに落ちてしまった。
 瑠貴はにっこり微笑んで、ぱちりと小さく指を鳴らす。
 すると今までずっと透也を拘束していた触手が、まるで幻だったかのように、すっと泥色の霧となって消えてしまった。
 本当にさっきの触手は、瑠貴にとって自由自在なものらしい。
 普通ならばそのことに恐怖するのが正しい反応なのだろうけれど……それより何より、透也は瑠貴の提案に心奪われてしまっていた。
「ほら。透也くん」
 おいで、と言わんばかりに両手を広げてくる瑠貴。
「う……うん」
 炎に誘われる真夜中の虫のように、透也は瑠貴にふらふらと近づいて――そして大好きなお姉ちゃんの服に手を伸ばした。
 まず手をかけるのは、サマーセーター。
 恐る恐るの慣れない手つきだけれど、小さな子供がするように「ばんざーい」とおどけて腕を上げてくれたので、難なく透也は瑠貴を脱がせることができてしまった。
 わずかな、しかし確かな肉付きを感じさせるお腹が見えて。
 ちょこんと愛らしいおへそのくぼみが姿を現して。
 そしてついには、ボリューム満点の、形のいいおっぱいが露わになる。
「え、え……っ? る、瑠貴姉ちゃんっ!? その、あれ、下着はっ!?」
「あ、えとね。もう寝る前だから、先に脱いじゃってた」
 けろりと瑠貴は言うが、しかしこれは透也にとっては不意打ちもいいところだ。
 まだブラがあるだろうと予測して、心構えが足りなかったところに、いきなり無修正おっぱいの大開帳である。
 瑠貴の胸は、もう、ただただ、きれいだった。
 確かな重量感を感じさせつつ、しかし重力に負けず若々しい張りに溢れるボリュームおっぱい。
 しかも、さらにである。思わず甘えたくなるような柔らかさと母性を感じる大きな丸みであるにもかかわらず、その中心部にある突起は、ほんのりわずかな桃色に染まるだけで、穢れなき乙女のような幼さまで感じるような慎ましい造形なのである。
 なんだ、これは。
 こんなすごいものが、現実にあっていいのか。
「……ね。透也くん。早く。次おねがい」
 どうやら見惚れてしまって、無意識のうちに手が止まっていたらしい。
 どこか焦れたような声で、瑠貴が次を促してきた。
 けれど、次って。早く、って。そんなこと言われても。
 もう、瑠貴が身にまとっているのは、あとはショーツだけなわけで。
 喉を鳴らしながら、透也は震える指先を、姉の下半身に伸ばしていく。
 柔らかい腰回りの手触りで、思考がフリーズしちゃうくらいにドキドキする。
 しかもさらに――改めて瑠貴のショーツをマジマジ見てしまって、なおさら透也はどうにかなりそうだった。
 残された最後の聖域を守る柔らかい布地の中心部、クロッチのところに、じんわりうっすらと、染みができていたのだ。
 間違いようもなく、愛液でできた染みである。
 オナニーして、透也とキスをして、勃起をフェラして、瑠貴は興奮しているのだ。
 散々瑠貴にえっちなことをされて、意識させられて、興奮させられて――その上こんなものを見せつけられては、もう平気ではいられない。
 この中は、どうなっているんだろう。
 瑠貴の身体で一番イヤらしいところを、この目で見てみたい。
 そんなはしたない好奇心に後押しされて……透也は瑠貴のショーツに手をかけた。
 なんとなく乱暴に扱うのが躊躇われて、そっとそっと、できるだけ優しくと、そう念じながら、その異様に柔らかい布をズリ下げて。
「……わ、わ……わ……」
 言葉を失った。
 ほんのわずかに添えられた和毛はあくまでも、どこまでも柔らかそう。
 しかもそればかりか、ぷっくりとした肉付きの、綺麗な肌色の縦スジは、ひどく物欲しそうにひくついて、ほんのりと透明なシロップ状の汁をお漏らししていた。
 まるでワンポイントのように、秘部の傍、左太股の付け根あたりにぽつんと存在するホクロも、なんだかとってもいやらしい。
(女の人のアソコって……こんななんだ……)
 実を言うと――透也は、無修正の女性器を見るのなんて、初めてだ。
 だから透也には、この造形が、他の人に比べてどのようなものなのか、それを判断するだけの知識はない。
 なのに、だというのに、今、透也は断言することができる。
 これは、世界一の綺麗でエッチで素敵な女の人のアソコである。
「透也、くん……」
 さらに追い打ちを駆けるように、切なそうな、誘うような姉の声が聞こえる。
 同時に瑠貴は、そっと自分の秘部に指を添え……そしてくぱりと、スジ状にぴっちり閉じていた聖域を、透也に見せびらかしてきた。
 その造形は、透也にとって完全に想像の範疇を超えたものだった。
 サーモンピンクの肉ヒダはその全体が愛液に潤い、ひくひくとうねっている。
 その神秘の肉の洞窟の少し上には、ちょこんと小さな突起があって、荒くなった瑠貴の呼吸に共鳴するように、脈動を繰り返していた。
 冷静に考えれば、内臓がそのまま外部に露出したような奇妙な造形なのに、どうしようもなく、透也は抗いがたい魅力を感じてしまうのはなぜなのだろう。
 同時に透也は、疑いようのない確信を覚えた。
 ここは、絶対、すごく、すごく、エロい場所だ。
 ここにちん×んを入れたら、絶対気持ちいい場所だ。
 さっき瑠貴には口で散々いじめられたけれど……それよりもっともっと、遙かに気持ちよくなれる、ちん×んを気持ちよくするためだけの場所なのだ。
「……おいで?」
「え……で、でも」
 甘い声の誘惑に、辛うじて残った理性が、これでいいのかと待ったをかける。
 そこまでしてしまうにしても、こういうことって、せめて前戯とか、きちんと前準備をしなきゃいけないんじゃなかったか。
 けれど、そんな風に及び腰になる透也を愛おしそうに見つめながら、瑠貴は「そんなのいいから」と笑うのだ。
「見てわかるでしょ? お姉ちゃんのココ……もう、すごく濡れてるから。大丈夫だよ。お姉ちゃんも我慢できないの……だから……ね? 透也くんも、我慢しなくていいんだよ? お姉ちゃんでいっぱいいっぱい、きもちよくなろ?」
「る、瑠貴姉ちゃん……」
「いっしょに、いっぱいいっぱい、きもちよく、なろ?」
 そんなことを言われたら。もう、もう……我慢なんて、できるわけがない。
 考えるより先に、欲情に取り憑かれて透也の身体が動いていた。
 仰向けに寝そべる瑠貴に覆い被さって。震える手で勃起を瑠貴の淫門に添えて。
 そして――
「……ね、透也くん きて、きて……」
 そのおねだりするような甘い声が、最後の後押し。
 ずぬりと、一気に奥まで入り――途端に、透也は腰砕けになった。
「う、あ。あう……っ うああっ!?」
 果たして瑠貴のアソコは、想像以上にすごい場所だった。
 まさしく、「食べられている」という感覚。
 膣にみっちり密集した肉ヒダが舌のように蠢いて、四方八方から透也の勃起を舐めずり回してくる。
 うねり、吸いつき、絡みつき。ねっとりした愛液をまとわりつかせながら、ありとあらゆる性的刺激で、透也のペニス全体が包み込まれている。
 これ、無理だ。
 気持ちよすぎて、まともに腰を動かすこともできない。
「あ、あはは 透也くんのおちん×ん めちゃくちゃびくびくしてるぅっ」
 一方で、瑠貴は瑠貴で、なんだかすごく、感極まった様子だった。
 ほうほうの体で瑠貴にしがみつく透也を、きゅっと愛おしそうに抱きしめ返しながら、弟の欲望を迎え入れられたことに心底耽溺し、蕩けた笑顔を浮かべている。
「ふふ…… ね、透也くん。透也くん ねえ、ねえ知ってた?」
「う、な、何を……?」
「お姉ちゃんのアソコね、特別製なんだよ?」
「と、とくべつ……?」
 混乱しながら姉を見上げる透也を、瑠貴はひどく優しい笑顔で見つめてくる。
「普通の人間のアソコはね、こんな風に動かないの」
 言いながら、密着させた腰を、まるで「気をつけて感じてみて?」とでも言っているかのように、わずかに動かす瑠貴。
「こうやって、んぁ ヒダでぬるぬるにしちゃうのも」
 ぐちゅぐちゅと結合部で音が鳴る。
 肉厚のヒダが、敏感に膨れ上がった亀頭をべろべろと舐めずり回してくる。
「ふぁ、あっ、あっ こんな風に、吸盤みたいに、ちゅーちゅーするのも」
 そうして子宮口が鈴口に食らいつき、抗いようもなくお漏らしした先走りを、ちゅうちゅうと貪欲に吸い上げてくる。
「っ 自由自在に、締めつけたり緩めたりできるのもっ」
 続けていったいどんな括約筋をしているのか、透也の勃起を包み込むヒダというヒダが波打って、さらに奥へ奥へと、誘っていく。
「こんなコトできるの、お姉ちゃんだけだよ? お姉ちゃん悪魔だから、人間じゃないから……透也くんのこと、こんなにきもちよくさせてあげられるの」
「……る、瑠貴、姉ちゃん……」
 もう、わけがわからなくて。気持ちよさでぐちゃぐちゃになった中でそんなことを言われて、どう返していいかわからなくて。
 迷子のような顔になった透也に、悪戯っぽい笑みを浮かべ……そして瑠貴は、彼の耳元に顔を寄せ、そしてそっと、囁いたのである。
「ふふ……もう、透也くんは、他の子とのえっちじゃ、満足できないね? ずっと一生、お姉ちゃんとのセックスでしか、きもちよくなれない身体になっちゃったね?」
「……っ」
 そう言う瑠貴は、なんだかとてもとても嬉しそうで。
 透也を独占できることが、何よりも瑠貴にとって望んでいたことなのだと、そう言わんばかりの晴れやかな表情で。
 そして何より、彼女の言葉は紛れもない真実なのだと、そう確信できるくらい、瑠貴のアソコは、すごく、すごく、気持ちよくて。
「お姉ちゃんが、傷をつけてあげる。一生消えない、お姉ちゃんのアソコを忘れられなくなる呪いを、かけてあげる……」
 ……もう、限界だった。
 もう、どうでもいい。何もかもどうでもいい。
 瑠貴と結ばれるなら結ばれるで、ホントはもっと、ちゃんとした手順を踏みたかったという思いは確かにある。
 そもそも悪魔だとかどういうことだよとか、疑問に思うことはいくらでもある。
 でもでも……もう無理だ。
 熱い欲望の塊が膨れ上がる。
 どうしようもない絶望感がおちん×んの先端に集中する。
「あ、う、ああ、る、瑠貴姉ちゃん……っ ぼく、ぼく……っ」
「だーめ まだ、駄目だよ」
 けれど――せり上がってきた猛烈な射精感は、いっぱいいっぱいになって爆発する直前、不可視の力によってきゅっとキツくせき止められてしまった。
「えへへ、ぴゅーってするの、まだ駄目だよ?」
「な、なんで……?」
「だって、お姉ちゃんも透也くんのおちん×んで、もっときもちよくなりたいもん」
 混乱して、世界の終わりのように真っ青になった透也に、瑠貴はただただ優しそうに笑いかけてくる。
「ね、透也くん。せっかくのセックスだもん、もっともっときもちよくなろ? いっしょに、いっぱいいっぱい、きもちよく、なろ?」
 そうして――瑠貴はとっても優しい笑顔で、透也にキスをした。
 淫靡だった先ほどのディープキスとは打って変わった、触れ合うだけの優しいキス。けれどそのキスは、優しく包み込んだ上で、透也を堕落させる、最強最悪の、悪魔の口づけである。
「お姉ちゃんのこと、いっぱい、いっぱいきもちよくして?」
「……っ」
 ああ――もう。もう。そんなおねだり、卑怯すぎる。
 本当にもうどうにもならない衝動に突き動かされて、透也は性運動を開始した。
「あ、あはッ んぁっ すごい、急にはげしくっ あ、あっ あっ」
 テクニックとかそんなものを考える余裕なんてあるはずもない。
 透也はもう、一心不乱に腰を動かすしかなかった。
 ただただ、がむしゃらに。腰を引いて、突き込んで。腰を引いて、突き込んで。
「あ、んぁっ らめっ きもちいっ そんなずこずこされたらっ あっ」
 単調なその動きに合わせて、しかし瑠貴は本当の本当に嬉しそうに喘ぎ声をこぼしてくれる。
 腰使いなんててんで大したことないはずなのに、むしろそんな透也を膣で受け止めている事実そのものが、嬉しくてたまらないとでも言うように。
「あは、あははっ んぁ、いい、いいよぉ……っ」
 顔は蕩け、背中はのけぞり、きゅっと透也を抱きしめる腕の力を強くする。
「あ、う……っ」
 密着した皮膚から直接、瑠貴の鼓動が伝わってくる。
 しっとり滑らかな肌は汗に濡れ、熱くなってぬるぬるで。
 何よりアソコも、さっきよりずっと激しくうねうねして、透也の勃起をしゃぶり回してきて。
 こんな稚拙な腰使いでも、瑠貴がちゃんと、嘘偽りなく気持ちよくなってくれているのが、はっきりとわかって。
「あ、あ、あっ……瑠貴姉ちゃんっ、瑠貴姉ちゃんっ……ぼくっ、ぼくっ」
「透也くん、っ、いいよ もっと、もっと、お姉ちゃんできもちよくなってっ お姉ちゃんをきもちよくしてっ あ、あっ ああっ」
 熱くなって、気持ちよくなって、だから、あとは落ちるだけ。
 瑠貴がイけば、自分もイける。
 だからもう一刻もイきたくて。瑠貴をイかせたくて。
 そして――だから。その先にあるのは、本当の奈落だ。
「――ああ。ああ、もう、もうだめ、がまん、できないっ」
「……え、っ?」
 辛抱たまらない、という声。
 次の瞬間、ぐい、と強く胸を押され――透也はあっという間に体勢を入れ替えられてしまった。
「透也、くん……っ 透也くん 透也くんっ 透也くんっ」
 辛抱たまらない、と押し倒されて、ぎゅっと覆い被され、抱きしめられた。
 布団と瑠貴の温かい身体に挟まれて、もう逃げようがない。
 そして――そもそも、逃げる必要なんてどこにもない
「――瑠貴姉ちゃんッ」
 全身全霊をかけて抱きしめ返す。
 腰を押し込む。ぐっと腰を密着させ、欲望を瑠貴の奥の奥の奥まで突っ込んで。
「―――――――ッ、あ、あっ あああっ」
 そうして――それがもう、最後の瞬間となった。
「ああっ、あ、んんんっ イって、あ、あっ、お姉ちゃん あ あっ
 ―――――~~~~~ッ あ、んんん――――っッッ」 

 びくん。びくびくっ。びくびくっ。びくんっ。

 瑠貴の身体がのたうち回る。激しい快楽電流に、全身が痙攣する。
 不意に、透也の勃起にまとわりついていた何かの力が、解けたような気がした。
 瑠貴がイったことで、透也の射精を止めていた魔法が、維持できなくなったのだ。
「―――~~~~っ、あっ」
 だからもう、無理である。

 びゅうるるる、びゅう、びゅっ。ぶりゅうううっ。

 もうなんの枷もなくなった欲望の塊が、いっぺんに吐き出されていく。
 びしゃびしゃと、瑠貴の女の子の場所の一番奥を、透也自身が汚していく。
「あ……は」
 そして――あるいはそれも、悪魔ならではなのだろうか。
 瑠貴のおま×こは、そんな弟の子種汁を、こくり、こくりと、一滴も残さず、美味しそうに飲み込んでいた。

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