【2017年9月22日】

オカされ上手の河合さん 丸々二話公開!

オカされ上手の河合さん 丸々二話公開!

第1話 席替え

第2話 パンツ

序章 席替え

「それじゃあクジを引いて」
教壇に立ったクラス委員の中野が指示を出す。教卓には四角い箱が置かれていた。
「よし! いい席引くぞっ!!」
同級生の佐藤が気合いを入れ、箱の中に手を入れる。一枚の紙を引き抜いた。紙は折られている。佐藤はその紙を広げると――
「七番!? マジかよ……。終わった……」
この世の終わりみたいな表情を浮かべてがっくりと膝を突いた。その気持ちは優――東方優にもよくわかる。彼が引いた紙に書かれていた番号は教室内の席位置を記したものだからだ。ちなみに七番は廊下側から二番目の列の一番前の席に当たる。授業中内職をするには最も適していない位置だ。ご愁傷様である。
そう、現在優のクラスでは席替えが行われていた。年に数回だけ行われるビッグイベントである。そんなものが大きなイベントになるなんて子供か――とか言われそうだが、席の位置というのは学校生活の上で最も重要なものの一つなのだから仕方ない。
(俺もいい位置引かないと)
よしっと優は気合いを入れる。ちなみに狙っているのは一番後ろの席だ。教師から遠ければ遠いほどよい。つまり、廊下側か窓側の一番後ろが最高だ。どっちかといえば景色を楽しめる窓側の方がいいだろう。つまり番号でいえば四十二番だ。
(出す! 出すぞっ! 絶対出すっ!!)
佐藤のように気合いを入れる。そんなことで狙った番号を出せれば苦労などない――ということは自分でも理解している。それでも願わずにはいられなかった。
「それじゃあ次」
中野が次の生徒を呼ぶ。
「よし」
教壇に立ったのは一人の女生徒だった。
名前は河合春香――背中のなかほどまで届く長い黒髪に、大きく開いたおでこが印象的なクラスメイトだ。
瞳は切れ長。鼻梁はまっすぐ整っている。艶やかな唇と合わせて見ると、まるで彫刻みたいに整った顔立ちをしている。クラスの中でもトップクラスの美人だと言っても過言ではないだろう。それに、春香が凄いのは顔立ちだけではない。スタイルもだ。
制服の上からでもわかるほど大きく膨らんだ乳房に、キュッと引き締まった腰。スカート腰でも理解できるほどプリッと張りのあるヒップ――実に女性的な身体付きをしていた。グラビアの仕事をしていると言われても信じられるほどのスタイルである。街を歩けば男女関係なく十人中十人が振り返ってもおかしくはないだろう。それほどまでに春香には存在感があった。
当然春香に憧れる男子は多い。さっきまで騒いでいた連中もこの時ばかりは黙り、春香に注目した。彼女が一体何番を引くのか? それは男子たちにとっては自分の番号以上に重要な点である。
そんな春香を優も見つめる。ただ、他の男子たちのように彼女が何番を引くのか気になったからではない(少しはあるけれど……)。
理由は昨日のことだ。
昨日、優は学校からの帰り道、本屋に寄っている。理由はいつも買っている漫画の発売日だったからだ。優はその漫画を手に取ると、知り合いに見つからないように周囲を慎重に見回しつつ、レジへと向かった。理由は単純。漫画の内容がちょっとエッチなものだからである。友人男子に見つかればからかわれること間違いなしだ。女子に見つかれば軽蔑されてしまうかもしれない。だからこそ、慎重に慎重を期し、漫画にカバーをつけてもらった上で袋にも入れてもらったのである。
そこまでしてようやく優はホッとすることができた。
が、そこで気付いた。本屋に春香がいたことに……。春香はジッと優を見つめていた。間違いなくこちらに気付いていたのである。その事実に驚き、動揺し、優は逃げるように本屋を出た。
(河合さん……見てたのかな? 俺が『100%エッチラブ』を買ったことに……)
『100%エッチラブ』――漫画のタイトルである。
もし見られていたら……。春香には友人も多い。下手をすればクラス中の女子に『100%エッチラブ』を買ったことを知られてしまうかも……。そうなったら男子たちに知られるのも時間の問題だ。
(田中とかみたいな奴だったらいいよな)
クラスメイトの一人であるお調子者の田中はスケベなことも結構オープンにしている。エッチな本を買ったとか、動画を見たとか、そういう話を女子に聞かれようが気にせずするような人間だ。そういうタイプならば「まぁ、あいつならね」と誰もが納得するだろう。変な目で見られることだってないはずだ。
それに対し優はというと、基本そういう話は避けるようにしていた。興味がないわけじゃない。けれど、どこか恥ずかしかったからだ。そのせいで優は真面目な奴とみんなに思われている。エッチなことが嫌いな真面目な優等生――それがクラスメイトたちの評価だ。
だからこそまずい。
あいつ、普段はエロいことに興味ないって顔をしてるくせに、本当は滅茶苦茶好きだったんだな。つまり、むっつりってわけだ――というような目で見られてしまうことは間違いないだろう。ギャップが大きすぎて軽蔑されてしまうというパターンだ。
(見られてないよな。見てないよな?)
春香が優に気付いていたことは間違いないだろう。厳然たる事実だ。それでも、買った本のタイトルまで見ている可能性は低い。店内を歩き回っている最中は本を胸元に強く抱きしめていたし、店員に渡すときは裏側にしていた。だから漫画タイトルまで把握されている可能性は限りなく低い。低いはずである。
(大丈夫。大丈夫だ)
そんなことを自分に言い聞かせながら、箱の中に手を突っこむ春香を見守った。
「よ~し、これっ!」
箱の中から一枚の紙を引き当てる。
「番号は?」
委員長の中野がちょっと緊張しつつ尋ねた。
「えっと……三十六番」
つまり、窓側から二列目の一番後ろの席である。春香の答えに一部の男子たちが多少ざわついた。
「へへ、ラッキーラッキー♪」
皆の反応にどこまで気付いているのかいないのか、春香は嬉しそうな表情を浮かべる。やはり後ろの席というのは誰にとっても狙いたいところだったらしい。
そんなことを考えている優を、チラッと春から見つめてきた。一瞬目が合う。ドキッと心臓が跳ねた。もしかして昨日のことを何かいうつもりなのだろうか? 警戒心を抱く。が、春香が優を見てきたのは一瞬だけだった。すぐに彼女は視線を逸らすと、友人となにやら話し始めた。
ホッと優は息を吐く。やはり心配しすぎだったようだ。
(というか、普通に考えればそうだよな。もし見られていたとしても、河合さんはそれで何か言ってくるような女子じゃないだろ)
不安感が一瞬で消えていくのを感じた。
となると、次に考えるべきは自分がしっかり狙った席を当てられるかという点だ。いや、狙ったところで運なのだからどうしようもないのだろうが、やはり気持ちというのは大事な気がする。
(後ろの席で空いてるのは最初から俺が狙ってた四十二番だけ……。窓際隅の最高の席。でもって……河合さんの隣……)
春香の隣――そう考えるとちょっと緊張を覚えた。
それは本屋の一件から来る緊張ではない。河合春香の隣に座ってしばらく学校生活を過ごすということに対する緊張である。
(隣の席になれば色々話とかもできるのかな? って……まぁ俺から話しかけるのは無理だろうけどさ……)
女子と話すのはなんか苦手だ。男子たちにもからかわれるような気がするし……。
(こういう性格だから漫画一冊でも気にしちゃうんだよなぁって、自分でもわかってるんだけど、こればっかりはどうしようもない……。やっぱり無難に真ん中当たりの席を狙うのが一番かな……)
などということを考えているうちに「んじゃ、次……優」と中野に呼ばれた。
「お、おうっ!」
ちょっと緊張しながら立ち上がり、教壇に立つ。目の前の教卓に置かれた箱を見つめつつ一度大きく息を吸った。そのまま箱の中に手を入れる。まだ紙は結構な枚数が残っていた。この中で当たりはどれだ? 触り心地で何かわからないだろうか? などとやくたいもないことを考えつつ、一枚の紙を手に取るとそれを引き抜いた。
ノートの切れ端。なんということもないただの紙だ。だが、この紙がこれからしばらくの間の生活を左右する。もし一番前の席になってしまったら……。
ゴクッと息を呑みつつ、恐る恐る紙を開いた。記されていた番号は四十二番。
「え……マジ?」
思わず口にした。自分は夢でも見ているのではなぃかと思ってしまう。ゴシゴシと目を擦り、改めて紙を見た。やはり数字は変わらない。四十二番で正解らしい。
「マジかよ! くそっ! やられた!」
「羨ましぃいい!」
何人かの男子が悔しそうに声を上げた。
思わず顔を上げ、窓際隅の席を見つめる。それからなんとなく視線を春香へと向けた。すると春香もこちらを見ていた。まっすぐ優を見つめつつ、にっこりと微笑んでくれた。その笑顔を見ているだけで、心臓をドキドキと鼓動させてしまう。これからしばらくの間自分は春香と隣同士……。なんだかワクワクしてくるのを感じる優なのだった。


席を移動する。新しい席に……。
これまで座っていた席はちょうど教室の真ん中だった。それに対し、今回は窓際隅の最高の立地。開いている窓から流れこんでくる風が心地いい。それに隣にはクラスで一番の……。
視線を隣席へと移す。
(あれ?)
席は空いていた。春香の姿はどこにも見えない。一体どこに行ってしまったのだろうか? などということを考えていると――
「東方くん」
背後から声が聞こえた。鈴の音のような声だ。思わず振り返る。するとそこには春香がニコニコと笑顔を浮かべて立っていた。いや、ただ笑っているだけじゃない。顔を寄せてくる。こちらの耳元へと……。
(な……なんだ!?)
緊張で身体が固まる。そんな優に――
「これからよろしくね」
と囁くように春香は口にしてきた。
フウッと吐息が耳に吹きかけられる。なんだか甘い香りがする息だ。背筋――だけじゃない。全身がゾクゾクと震えた。全身が緊張で固まってしまいそうになる。しかし、挨拶されたのに返さないわけにはいかない。
「えっと……その……こちらこそ、よろしく」
必死に言葉を搾り出す。
「ふふ……それで早速なんだけどね」
そんな優に対し、春香は背後に立ったままさらに言葉を重ねてきた。
「え? な……何かな?」
よろしくという挨拶だけ終わりではないのだろうか? 疑問を抱く。すると春香はそれに答えるように、背後から優にスマホを見せてきた。手慣れた操作でスマホのロックを外し、とある画像をアルバムから表示する。
「――え? これって……」
その画面を見た途端、優は硬直することとなった。
写っているのは優だ。場所は昨日の本屋である。優がレジにて漫画を買っているシーンが撮影されている。しかも、ご丁寧に漫画の表紙やタイトルがわかるようなアングルで……。
確かに優は店員に渡すとき本を裏返しにしていた。だが、受け取った店員が本の表紙を確認していたのである。その場面が見事に激写されてしまっていた。
「この漫画……『100%エッチラブ』だっけ? これって結構エッチな内容の漫画なんだよね?」
少年誌なのに過激な描写ということでそれなりに有名なタイトルである。春香も知っているらしい。
「東方くんってこういう漫画買う人だったんだ」
「それは……その……」
ゴクッと息を呑み、瞳を泳がせつつ――
「あの……なんでこの写真を?」
恐る恐る意図を尋ねる。
「こういう漫画を読んでることって、内緒にしたいんだよね?」
質問には答えず、質問を重ねてきた。
無言で優は頷く。
「そっか……ふふ、それじゃあ悪いんだけど、今日の放課後……教室に残ってね」
そんな優に、春香は再び囁き声でそう伝えてくるのだった……。

一章 パンツ
(河合さん……どういうつもりなんだ? 何を考えて……俺、どうなるんだ?)
放課後、皆が帰って誰もいない教室――一人残った優は落ち着かない気分でそわそわしていた。春香の考えがまるで読めなかったからだ。本当に何を考えているのだろう? 考えてもわからない。しかし、優自身にとっては決していいことではないはずだ。
(やっぱり帰っちゃおうかな)
逃げ出したい気分になる。現在春香は教室にいない。帰るならば今のうちだろう。が、もしここで帰ればクラスのみんなにあの写真が……。それでも、ここに残るよりはもしかしたらいい結果に……。
(いや、いやいや、それは駄目だ。駄目……だけど……でも……)
ひたすら優は迷う。
「ごめん。待たせちゃった?」
教室に春香が戻ってきたのはそんな時のことだった。楽しそうな笑みを口元に浮かべつつ、優の隣の席に座る。
「別に……それほどは……」
実際それほど長い時間待っていたわけではない。話の前にトイレに行くと言って彼女が教室を出ていってから、まだ五分も経っていなかった。
「そう? それならよかった」
瞳を細め、優しげな表情を浮かべる。見ているだけで一瞬胸がドキッとしてしまうほど美しい顔だった。わずかだが見とれてしまう。けれど、それは本当に一瞬でしかない。すぐに警戒心を取り戻すと「それで……なんの用?」と本題を尋ねた。正直あまり聞きたくはない。けれど、後回しにしてもいいことはない。さっさと終わらせてしまいたかった。
「もしかして、実は今日何か用事でもあった? だったらその……ごめんなさい」
こちらが急いていると思ったのか、素直に謝罪してくる。表情も申し訳なさそうだ。春香は自分をある意味脅している。だというのに、なんだか申し訳なさも感じてしまう顔だ。
「別に……俺は用事なんかないけど」
慌てて首を横に振った。
(って、用事があるっていえば帰れたんじゃないか!?)
すぐにその事実に気付くが後の祭りである。
「そっか、ならよかった」
再び春香は微笑む。とても嬉しそうな顔だ。こんな表情を見せつけられては「ごめん、やっぱり用事がある」などという嘘はつけない。なんて迂闊なんだと自分で自分を心の中で叱った。
「でも、あんまり用件を先延ばしにしても無意味だしね。それじゃあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
こちらの思いには気付いた様子もなく、春香は早速本題を切り出してきた。
「あのさ……昨日東方くんが買った本……。アレってエッチな内容なんだよね」
実にストレートな問いである。
「それは……その……河合さんだって知ってるはずだろ?」
実際春香は席替えの際『これって結構エッチな内容の漫画なんだよね?』と優に対して口にしている。ということは、内容すべてを把握しているわけではなくとも、エッチだということは知っていることになる。つまり、今さら聞くまでもない事実のはずだ。
「一応ね。でも、もしかしたら勘違いってこともあるかも知れないから。だから……教えて。東方くんの口から聞きたいな」
語りながら、宝石みたいに綺麗な瞳でまっすぐ見つめてくる。その視線にさらに心臓がドキドキと高鳴るのを感じつつ「そ……そうだよ」と頷いた。
「何がそうなの?」
しかし、春香は満足してくれない。それどころか問いかけを重ねてくる。
(わかってるくせに……。河合さん……俺をからかってるのか?)
綺麗なのに棘がある。
「教えて。教えてくれないと……あの写真……」
「わ、わかった! わかったよ!!」
どうやら誤魔化すことはできないらしい。優は覚悟を決めると「河合さんが言うとおり、エッチな内容なんだよ」とはっきり口にした。
「そっかそっか……。ふふ、ありがと」
嬉しそうな表情を春香は浮かべる。そうした表情はやっぱり綺麗だ。が、悔しさも感じる。一方的にやられるのは気に入らない。何かお返しをしてやりたい――そんな欲求が膨れ上がる。ただ、だからといってじゃあ何ができるのかと問われても、答えることができない優なのだった。
「その……もういい?」
反撃できない以上、取れる策は一つしかない。ここは撤退あるのみだ。
「駄目。まだ聞きたいことがあるから」
しかし、春香は優を解放してはくれない。
「まだって……何を?」
「何って……その、東方くんはあの漫画、エッチな内容だから好きなの?」
「それはっ……」
動揺せざるを得ない問いだった。
エッチな漫画だから好きで買ってる――それは事実だが、認めることなどできるはずがない。さすがに恥ずかしすぎる。
が、黙っていることは許さないとばかりにジッと春香は優を見つめてくる。視線から逃れることはできそうにない。答えを誤魔化すことも無理だろう。
「その……そうだよ。エッチな内容だから好きなんだ」
認める以外の選択肢はなかった。
「ふーん。それじゃあ……もう一つ質問。どういうエッチな描写が好きなの?」
「え? そこまで聞くっ!?」
「うん。知りたいから。だから……聞かせてくれるよね?」
ただ言葉で尋ねてくるだけじゃない。スマホを取り出すと、例の画像を見せつけてくる。ここまでされては観念せざるを得ない。
「……下着だよ」
ボソッと呟いた。
「下着?」
「うん……。その……あの漫画、結構すぐ女の子が下着姿になるから……。綺麗な絵で可愛いキャラが肌を見せるっていうのが……」
どんどん恥ずかしくなってくる。顔が茹で蛸みたいに真っ赤に染まった。結果、言葉の最後の方はボソボソとしたものになってしまう。
「なるほどね」
しかし、春香にはそれで十分だったらしい。納得してくれた様子だった。
「そっか、下着か……。東方くんって女子の下着姿が好きなんだ」
「それはその……」
反射的に否定しようとする。が、嘘をついても春香には簡単に見破られてしまうだろう。
「……まぁ、そういうことよ……」
認めざるを得なかった。
この答えに対する春香の返事は――
「ふふ……それじゃあ、私の下着とかも見たい?」
などというものだった。
「――へ?」
一瞬頭の中が真っ白になる。聞き間違いでもしてしまったのだろうか?
「スカート捲って上げようか?」
が、聞き間違いなどではなかった。春香は手を伸ばし、自分のスカートを両手で掴むと、少しだけ捲って見せてきた。それでも下着まで見ることはできない。が、太股が覗く。ムチッと多少肉付きのいい足が露わに……。
思わずゴクッと優は息を呑んだ。
(下着? それって……パンツ?)
考えるだけで動悸が激しくなる。全身が熱く火照っていくのがわかった。汗が溢れ出す。視線が春香の下半身に釘付けとなった。このまま見ていれば春香のショーツを見ることができる。一体どんな下着を穿いているのだろうか? 妄想と欲望が膨れ上がっていく。
「はい……おしまい」
けれど、そこまでだった。
春香はスカートから手を離す。覗き見えかけていた太股が隠れた。
「あっ」
声を上げてしまう。途端に春香はニヤッとした表情を浮かべた。
「見たかったんだ」
ニヤつきながら上目遣いで優を見つめてくる。
「な……ちがっ! そんなことは……その……」
動揺し、瞳を泳がせながら必死に否定しようとする。本人を目の前にして下着を見たかったとはさすがに答えられない。とはいえ、春香の表情を見る限り否定にはなんの意味もない。
「慌てなくても大丈夫。男子ってそういうもんなんでしょ」
すべてお見通し――彼女が浮かべているのはそんな顔だった。
「……その、もう……帰ってもいぃかな」
これ以上ここにいても手玉に取られるだけでしかない。撤退を考える。
「悪いけど、もう少しだけ待って」
しかし、春香は帰宅を許してはくれなかった。
「何? まだ聞きたいことがあるの?」
「……そういうわけじゃないけど……」
語りつつ春香は学校指定カバンの中から一冊の文庫本を取り出した。
「私ね、いつも放課後ここでこの本を読んでるの。で、ラストまであと少しなの。だから東方くんには申し訳ないんだけど、読み終わるまで待ってて」
「読み終わるまでって……」
「お願い。せっかくこうして話をできたんだから、帰りも一緒に帰りたいの。だから……ね」
上目遣いで見つめてくる。
(帰り……一緒……河合さんと……)
女子と並んで下校する――年頃男子にとっては夢のようなシチュエーションだ。しかも相手はクラス――だけじゃない。学年、学校中の男子に人気がある春香である。実に魅力的な誘いだった。とはいえ、今回の件で春香が一筋縄ではいかない女子だということはわかった。一緒に帰るというのはもしかしたら危険かも知れない。さらに無茶で恥ずかしいことを質問される可能性だってある。ここはやはり断るべきかも知れない。
「待っててくれるよね?」
が、そうした思考など無駄だとでも言うように、春香はスマホの写真を見せつけてくる。逆らうことはできないらしい。
「……わかったよ」
頷く以外の選択肢など存在してはいなかった。

それからどれくらいの時間が過ぎただろう?
「すーすー」
自分の席に座ってボーッと窓の外を眺めていた優の耳に、吐息が聞こえてきた。一体なんだろうかと視線を春香へと移す。
すると春香は眠っていた。机の上に本を置き、椅子の背もたれに身体を預けた状態で心地よさそうに寝息を立てている。
綺麗な寝顔だ。とても自分を脅してきた人間とは思えないほどに、澄んだ顔をしている。思わず見入る。睫毛が長い。肌には染み一つない。化粧もしていないというのに、とても整った顔立ちだ。ツルツルした肌。なんだか触ってみたくなる。
「風邪引くよ」
心の内に欲求を抱えつつ、声をかける。
「う……う~ん……」
これに頷くように春香はわずかだが声を漏らした。しかし、目覚めない。眠ったままだ。
(……起こした方がいいよな)
今は暖かい季節とはいえ、もう夕方だ。毛布も掛けずにうたた寝なんかしていたら体調を崩す可能性は高い。それに、春香が起きてくれないと優だって帰ることはできない。だから春香を起こすために立ち上がる。
ちょうどそんなタイミングのことだった。眠りながら春香が足を大きく左右に開いたのは……。
「ちょっ! 女子がするような体勢じゃないって!」
背中を椅子の背もたれに預けたまま、両脚を開いて眠りこける――まるで男子のような姿だ。女子にとっては恥ずかしいことこの上ない体勢だろう。これは早く起こしてやらなければならない。すぐさま優は身体を揺さぶるために春香の肩に手をかけようとする。が、そこで一端止まった。
ほとんど無意識のうちに視線を春香の下半身へと向ける。
(この体勢……もしかしてしゃがめばパンツを見ることができるんじゃないか?)
そのような欲望が脳裏に浮かんだ。
(って、駄目だろ! 何を考えてる! クラスメイトのパンツを覗く? あり得ないだろ。そんなの痴漢と変わらないぞ!)
が、すぐに理性を取り戻すと、首を左右に振って自分自身に駄目だと言い聞かせた。だが、視線を下半身から逸らすことができない。スカートから伸びる太股を見つめてしまう。
ドクッドクッドクッ――心臓が早鐘のように鳴る。優は息を呑んだ。
理性が萎んでいく。見たい。春香がどんな下着を穿いているのか見てみたい――本能が増幅していく。
(……ちょっとなら……構わないよな? だって……)
人を脅すような形で呼び出した上に、帰宅することも許さず自分で本を読み始めた。そのあげく寝てしまう。こちらのことも忘れたように……。ちょっと扱いとしてはあんまりな気がする。だからこそ、少しくらいは仕返ししたって――言い訳みたいにそう考えた。
一度大きく息を吸い、キョロキョロと周囲を見回す。皆、下校しているか部活に出ている時間帯だ。誰の姿もない。つまり、ここにいるのは自分と春香のみである。誰かに見つかるという可能性は低いだろう。
(悪いのは勝手に寝た河合さん。俺のことを挑発した……からかった河合さんだ。だから俺は悪くない。悪くないんだ……)
免罪符のように春香がいけないんだと心の中で繰り返しつつ、机を挟んで春香の正面に立った。そのまましゃがみこむ。机の下から春香の股間部を覗きこんだ。
(……黒……)
視界に飛びこんでくる――春香のショーツが……。
色は黒だ。下着についてあまり詳しくはないけれど、多分レース製。太股の付け根――股間を隠している。
(河合さん……こんな大人っぽい下着を穿いてるんだ……。黒なんて……)
てっきり白いショーツを穿いているものとばかり思っていた。もしかしたら漫画みたいな縞々パンツだってあり得るかも――なんてことだって。が、春香の下着は予想していたよりもずっと大人っぽいものだった。
綺麗で身体付きも同年代の女子と比べると大人っぽい春香。体型だってグラビアモデル並みだ。しかし、あまり性的な目で見たことはなかった。なんというか、春香の美しさは絵画的なものだったからだ。だが、下着はこんなにも性を感じさせる。そのギャップに興奮を覚えざるを得ない。
薄い布一枚――その下に春香の最も大事な部分が隠れている。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
自然と息が荒くなってしまう。全身が燃え上がりそうなほどに熱くなっていくのを感じた。同時にさらなる欲望を抱いてしまう。手を伸ばし、春香のショーツに触れてみたいという欲望を……。
(今なら気付かれないんじゃ……)
春香は寝ている。だから大丈夫。きっと……。
欲望のまま、手を伸ばそうとする。スカートの中、ショーツのクロッチへと……。
「ん……うう~ん」
だが、その刹那だった。春香が再び息を漏らしたのは……。
「わ、わわっ!」
慌てて立ち上がろうとする。しかし、手を伸ばした際机の下に頭まで入れてしまっていたせいで、ガツンッと後頭部を打つこととなってしまった。
「あだっ! いだぁあああ!」
自分の頭を押さえ、悲鳴を上げる。
「へ? あ……東方くん? どうしたの? 大丈夫?」
これにより完全に春香は目覚めてしまう。頭を押さえて床に蹲る優に、心配そうに声をかけてきた。
「あ……だ、大丈夫。ほんと大丈夫だから」
そんな彼女に対し、優にできることは誤魔化すように笑うことだけだった。

その後、二人で一緒に学校を出た。並んで帰る下校時間「こういうのも新鮮でいいね」と春香は楽しそうだった。
そんな彼女に対しちょっとした罪悪感を覚えてしまう。だが、それ以上になんだか楽しさを覚えてしまう自分がいた。


思った通りだった。
エッチな漫画の話をして、下着についても話をした。ショーツを見せるような素振りまでしてみせた。それは全部挑発だった。優に下着を覗かせるための……。
それに彼は見事に乗ってくれた。こちらが寝たふりをしていることにも気付かずに……。
放課後のことを思い出し、春香は自分の家、自分の部屋にて笑顔を浮かべる。
(やっぱり東方くんはエッチな男子だった)
コソコソあの漫画を買っていただけのことはある。
(普段はエッチなんかには全然興味ないって顔をしてるのに……)
だからこそ、色々抑圧されているものがあるのかも知れない。
(私と同じように、本当の自分を隠して暮らしているのかも……。だから……)
それを刺激すれば真実の姿を見せてくれるはずだ。
そうなれば、叶えられるかも知れない。ずっとずっと隠してきた思いを……。
(ふふ、これからが楽しみ)
スマホを起動し、優が例の漫画を買っている画像を開く。
「よろしくね」
画像の中の優に、優しく春香は笑いかけるのだった。

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