【2018年1月19日】

アイドルマスター生贄総選挙開幕!

出だしたっぷり公開です!

ぜひご購入の参考に

一章 宇野月凜子――夢はアイドル
――アイドルになりたい。
そんな夢を私が抱いたのは、物心がつく前のことだ。何を見てそんなことを考えるようになったのか、それは私自身にもわからない。だって、気がついたときにはアイドルになりたいって思っていたから……。
でも、それは決して簡単な夢じゃなかった。
アイドル。みんなを笑顔にするキラキラした人。たくさんの人たちを幸せにできる仕事――まさに特別な存在。そんな存在に簡単になれるわけがない。選ばれるのはほんの一握りだ。アイドルを目指すたくさんの人の中でも本当に一部だけ……。それはまさに運命と言ったっていいのかも知れない。
だからこそ、選ばれなかった人は挫折していく。夢の階段の途中で足を止めてしまうのだ。この階段を上りきることは自分にはできないって……。
その気持ちは私にもよくわかる。私自身、足を止めた方がいいのかも知れないって何度も何度も考えてきたから。
だってそうでしょ?
幼い頃、養成所に入ってから十年ちょっとも過ぎているというのに、まだ私はアイドルとして羽ばたけていないんだから……。
レッスン。レッスン。レッスン――毎日毎日それの繰り返し。だけど、私は進めない。ずっと立ち止まったままだ。ただ、一人で……。
そう、私には仲間がいない。一緒にアイドルを目指してくれる仲間が……。
別に友達がいないってわけじゃない。むしろ他の人より友人は多い方だっていう自信はある。でも、アイドル仲間はいなかった。
理由は単純――やめていったからだ。
「ごめん凜子。私……もう無理」
「アイドルなんてあたしには高望みだったんだと思う。凜子は頑張ってね」
「宇野月さんならやれるよ。私の分まで夢を叶えてね……」
みんな階段を降りてしまった。
私だけが取り残された。
だから思ってしまう。やめた方がいいんじゃないかって……。
でも、私は足を止めない。階段から降りていない。
なんで? そんなの簡単だ。
アイドルになりたいから。無理かも知れないなんていう弱気な心を塗り潰しちゃうくらい、私はアイドルになりたいから! みんなを笑顔にしたいから!! だから私は頑張る。一生懸命頑張るの!!

「凜子……ちょっといい?」
猪熊さん――養成所の講師さんだ――が私に声をかけてきたのは、ちょうどレッスンを終えて帰り支度をしている時のことだった。
「どうしたんですか?」
「ん、実はね……貴女にオーディションの話が来てるのよ」
「オーディション? なんのですか?」
オーディションという言葉に私は顔を引き締めつつ、問い返す。
別にオーディションを受けるのは初めてのことじゃない。それどころか、ベテランの域に入っている自信さえある(別に自慢するようなことじゃないけど……)。ただ、それでも、というか、だからこそ、緊張する。今度こそアイドルとして羽ばたけるんじゃないかって……。
「それがね……その……」
猪熊さんは言い難そうに顔を顰めた。
ちょっと珍しい反応。
普段の猪熊さんなら、嬉々としてオーディション内容を説明してくるのに……。今度こそチャンスをものにするのよ!! なんていう発破つきで。
それなのに今日はどうしたんだろう?
「あ、ごめんなさい。実はこれなんだけどね」
私の不審に気付いたのか、ちょっと困った表情を浮かべつつ、猪熊さんは私にタブレットを差し出してきた。画面にはオーディションの詳しい内容が記されている。
「……え? これ、凄いじゃないですか。元冬隆史が新規プロデュースするアイドル発掘のためのオーディションなんて……」
元冬隆史――この業界では知らない人がいない大物プロデューサーだ。バレットナインや、十二神Showなど、現在活躍している有名アイドルグループのプロデュースはほとんど彼が行っている。毎年開かれるアイドルクライマックスマスター選挙なんて、今や国民的一大イベントと言っても過言ではない。その元冬Pにプロデュースしてもらえるなんて、これほどアイドル冥利に尽きるものはないと思う。二つ返事で参加を表明したいオーディションだ。
ただ、だからこそ猪熊さんの態度が不可思議だった。こんな凄いオーディションなのに、なんであんまり乗り気じゃないんだろう?
「……何か不満なことでもあるんですか?」
「不満というか……その、オーディションの名前がちょっとね」
「……ああ、確かに」
改めてオーディションの企画書に目を落とす。
『アイドルマスター生贄選挙』
今回のオーディションのタイトルだ。アイドルマスターって……ゲームじゃあるまいし。
「生贄ってちょっと物騒でしょ? それにオーディションの詳しい内容が書かれてない」
確かにその通りだ。企画書に記されているのはタイトルと、勝者には元冬Pによるプロデュースを受けられるということしか書いていない。
「これ、本物なんですか?」
ちょっと疑いたくもなってしまう。
「それは間違いないわね。一応ウィンタープロにも確認はしたわ」
ウィンタープロというのは元冬Pが所属している事務所の名前だ。ということは、本物ということで間違いないのだろう。
「それでその、凜子はどうする?」
ジッと猪熊さんが私を見つめてきた。顔を見ればわかる。猪熊さんはあんまり乗り気ではない。
気持ちは正直言うと嬉しい。それだけ私のことを心配してくれているってわかるから。だけど、私は……。
「受けます」
はっきりとそう告げた。
確かに怪しさはある。でも、チャンスを逃したくない。アイドルは私の夢なんだから。
「大丈夫です。私、頑張ります! 今度こそ夢を掴んで見せますね」
猪熊さんの不安を吹き飛ばせるような笑顔を浮かべて見せる。
そんな微笑みに猪熊さんは少し驚いたような顔を浮かべた後で、フフッと笑ってくれた。
「そうね。頑張りなさい。応援してるわ。大丈夫。凜子なら絶対夢を叶えられる」
「はいっ!!」

「えっと……ここだよね?」
スマホに送られてきた地図を頼りに私がやって来たのは、それほど大きくはないビルだった。三階建てのちょっと古臭さを感じさせるビル。地震とかが来たら倒壊しちゃいそうな感じで少し心配だ。本当にこんなところで元冬Pのオーディションなんか行われるのかな? ちょっと心配になってくる。
キョロキョロ周囲を見回しながら、恐る恐るビルへと足を踏み入れた。
「どちら様で?」
中には男の人がいた。黒いスーツにサングラスをかけている。ちょっと怖い雰囲気がする人だ。足が竦む。でも、怯んではいられない。
「あの、オーディションを受けに来た宇野月凜子です」
名乗りつつ、オーディションへの招待状を映したスマホ画面を見せる。
「……承りました。では、こちらへ」
ニコリともせず男の人はビルの奥へと進んでいく。おっかなびっくりではあるけれど、私はその後を追い、エレベーターに乗りこんだ。男の人はエレベーターのスイッチを押す。押されたのは地下二階だった。オーディションは地下で行われるらしい。
静かに地下へ降りていくエレベーター。やがてドアが開く。
「ようこそいらっしゃいました。宇野月凜子さん」
やっぱり黒いスーツを着た男性が待っていた。でも、サングラスはかけていない。顔立ちは優しげな感じだ。ここまで案内してくれた人と比べると、少しは安心できそうな人である。少しだけホッとした、
でも、安心できていたのはほんの少しの時間だけだった。
「では、こちらの誓約書にサインを」
タブレットを差し出してくる。
男の人の言葉通り『誓約書』と書かれた画面が映し出されていた。
『一、何があっても許可が下りない限りステージからは降りない。
二、身柄は運営委員会にすべて預ける。
三、何が起きてもすべて受け入れる。
四、オーディションの途中事態はしないこと』
それが誓約書の内容。
なにこれ?
ゾクッと冷たいものが背筋を駆け抜けていった。
誓約書というにはあまりにおおざっぱな内容。それでいて、書いてあることはとても怖いことのような気がする。
「これに……サインするんですか?」
「はい。その上で、これを着けていただきます」
そう言うと男の人は首輪を差し出してきた。まるでイヌがつけるみたいな……。
やっぱりこれ、どうかしてる。危ない。凄く危ない気がする。
あまりに胡散臭い。猪熊さんの心配顔が私の脳裏に浮かび上がってきた。今さらだけれど引き返そうか――とも思う。
「何を躊躇ってる?」
「え?」
迷う私に突然声がかけられた。
私は思わずそちらへと視線を向ける。
するとそこには黒縁眼鏡にスーツを着た男の人が立っていた。年齢は三十代半ばくらいの、一見どこにでもいそうな男の人。特徴的なところはあまりない。でも、私はその人が誰なのかを、一目で理解する。
「元冬……プロデューサー」
間違いない。元冬Pだ。
「ああ、元冬だ。よろしくな」
元冬Pは私に対して気さくに笑いかけてきた。その上で「お前、アイドルになりたいんだろ?」と一言尋ねてくる。
「……はい」
その問いに私は頷いた。
「アイドルになるのは私の夢です!!」
まっすぐ元冬Pを見つめて、はっきりと告げる。私の想いを全部プロデューサーに届けようとするように……。
「そうか。いい目だ。だったら……躊躇う必要なんかないだろ。これだけのチャンス、お前はみすみす見逃すっていうのか?」
元冬Pの言葉には自信が充ち満ちていた。俺についてくれば必ずアイドルになれる。それもただのアイドルじゃない。トップアイドルだ――とでも言うような圧倒的自負を感じられた。
「怖いと思うならそれでいい。お前は帰れ。だが、お前がアイドルとして成功することは二度となくなるがな」
ジッと私を見つめてくる。
ここで帰ったら、逃げたら――二度とアイドルにはなれない。
怖い言葉だった。不可解な誓約書の内容よりも、ずっとずっと、私にとっては怖い言葉だった。
そんなイヤだ。私はアイドルになるために、ずっとずっと頑張ってきたんだから。私は叶える。夢を叶えるんだ!
タブレット用のペンを受け取る。私は誓約書にサインした。

「皆様。大変長らくお待たせ致しました。これより第一回アイドルマスター生贄選挙を開始致します!! 皆様、盛大な拍手でアイドルのたまごたちをお迎え下さい!!」
司会の声が響き渡る。
私はその声を舞台袖で、他のオーディション参加者たちと共に聞いていた。
ここにいるのは私を含めて五人。
一人目はちょっとおでこが特徴的な背のちっちゃな女の子。私より年齢は多分一つか二つ下だと思う。名前はユナ(私たちがつけている首輪にはタグがついていて、名前を確認することができる)。
二人目はツインテールとちょっと気の強そうな目が特徴的な星見きららさん。彼女のことは前から知っている。別に知り合いってわけじゃない。ただ、何度かテレビに出ているのを見たことがあった。歳は私より一つ上だったかな? でも、身長はユナちゃんよりも低い。そのせいで一見するとまるで子供みたいにも見える人だ。
三人目の涼宮秋葉さんは物静かな表情をしている。整った顔立ちに、背中の中程まで届くロングストレートの黒髪がとても綺麗な子だ。同い年くらいに見える。
四人目は私や他の子よりも明らかに年上に見えるお姉さん。名前は御手洗早苗。可愛らしいボブカットがとても上品な感じがする。でも、ただ上品なだけじゃない。とても女性的魅力に溢れている人だ。特に胸の辺りが……。
四人ともとても綺麗で可愛い人たちだと思う。その上、みんな身に着けているのはアイドルらしいヒラヒラの衣装だ。魅力が何倍にも、何十倍にも増幅されている。ちょっと自信がなくなっちゃいそうなくらい。
でも駄目。弱気になっちゃ!
私は鏡へと視線を移した。
自分の姿が映っている。白と赤のアイドル衣装に包みこまれた私の姿が……。
ウェーブがかった長い髪に、丸みを帯びたクリクリと大きな目。胸は早苗さんほどじゃないけど、結構大きい方だと思う。それでいてキュッとウェストは引き締まってる。ただレッスンしてきただけじゃない。綺麗にもなれるように頑張ってきた。とっても女の子らしい姿だと思う。
正直言うと私はあんまり自分に自信が持てない。当たり前だ。ずっとアイドルになれずくすぶってきたんだから……。だけど、今日は自信を持とう。絶対負けない。必ず勝つんだって自信を!
(大丈夫。大丈夫……頑張ってきたんだから)
ニッコリと笑って見せた。自分が思う最高の笑顔で……。
「ではアイドルの皆さん、登壇して下さい!」
司会の言葉が投げかけられる。私は――いえ、私だけじゃない。私たちは一度大きく息を吸うと、控え室からステージへと上がった。
「――嘘」
思わず私は呟く。
だって、想像以上だったから……。
最初見たこのビルはとても古い印象だった。大きさだって小さい。そういうこともあって、私は小さな会議室みたいなところでオーディションをするんだと思ってた。でも、それは間違いだった。
私たちが上がったステージ――その前には客席が用意されていた。そこには観客らしき人たちが座っていた。その数は――百? 違う。そんなものじゃ済まない。多分、千人近くはいると思う。下手なライブハウスなんかよりも、ずっとずっと広い場所だった。
まるで想定外の事態に、私は呆然と客席を見つめる。他のみんなも同じような顔で突っ立っていた。
「さて、それではアイドルマスター生贄選挙のルールを説明させていただきます」
私たちを正気に戻そうとするように、司会の言葉がホール内に響き渡る。
不味い。ボーッとしてちゃダメだ。集中集中。
「これより私たちからアイドルの皆さんにお題を出します。歌、ダンス、スタイル、アピール――です。そのお題に沿ったパフォーマンスをアイドルの皆さんにはしていただきます。その上で、アピールごとに投票を行います。投票者は観客の皆さん。得票率の高かった方から勝ち抜けになります。勝ち抜いたアイドルは次のアピールに進む」
なるほど。
でも、待って。それじゃあ勝ち抜けなかった子は? 投票が一番下になっちゃったらどうなるの?
「そして最下位の方には――」
私の疑問に答えるように、
「罰ゲームを受けていただきます」
司会の人はそう宣言した。
「罰ゲーム? 何よそれは?」
ユナちゃんが司会を睨むようにして尋ねる。首輪をつけられたっていうのが気に入らないみたいで、とても不機嫌そうだ。
「簡単なものですよ」
鋭い目で睨まれても司会の人は動じない。ニコニコと笑顔を浮かべながら――
「性奴隷になっていただきます」
とんでもない言葉を口にした。
「は? せ……性奴隷って……あんた……それ、本気?」
ユナちゃんの表情が固まる。
「もちろんでございます。負けた方は性奴隷としてオークションにかけられる。一番高値をつけて下さったお客様の生贄アイドルになるのです。買い取った方が敗者のマスター。つまり、アイドルマスターとなるのです!」
あり得ない。そんなこと……あっちゃいけない。
「ふ、ふざけないで! やってられないわっ!!」
当然ユナちゃんの表情はさらに怒りの色に染まった。そのまま彼女は控え室の方へ引っこもうとする。
でも、その瞬間――バチイイッと凄い音が鳴った。
「うぎぃいいいっ!!」
ユナちゃんの口から悲鳴が上がる。そのままバタッとその場に倒れた。ビクビクと身体を痙攣させる。
「ちょっ! だ、大丈夫?」
早苗さんが駆け寄り、ユナちゃんを抱き起こした。
「あぐうう……な、なに……を?」
意識はある。無事なようだ。ちょっとホッとする。でも、ユナちゃんの表情はとてもつらそうなものだった。なんだか凄く痛そうにも見える。
「許可が下りない限りステージから降りることは許しません。誓約書を破るような真似をしたら、今のように容赦なく首輪を通じて皆さんの身体電流を流させていただきます」
ユナちゃんの痛々しい姿を見ても司会の人はまるで動じない。笑顔のまま、そんな言葉を告げてくる。
つまり、私たちは逃げられない……。
ブルブルと身体が震えた。頭がクラクラする。凄く怖い。呼吸がどんどん荒くなっていく。それは私だけじゃない。他のみんなも青ざめていた。
「ビビるんじゃない。お前たちの覚悟はそんな程度のものか!?」
突然怒声が向けられる。
驚きながら視線を声が聞こえてきたステージ正面へと向けると、そこには元冬Pが座っていた。プロデューサーは苛ついた表情で私たちを見ている。
「アイドルになるんだろ? このチャンスを掴め。勝ち残り、最後の一人に也、トップアイドルの道を掴むんだよ!」
トップアイドル。
そうだ。私は……ここにアイドルになるために来たんだ。
「自分を信じろ。俺は可能性がある奴にしかこのオーディション参加の招待状を出しちゃいない。負けることなんて考えるな。お前たちの想いを見せろ」
想いを。
夢を叶えたいっていう想いを……。
キュッと私は胸元で強く拳を握りしめた。
(頑張る。頑張る。頑張る!)
ずっとずっとレッスンしてきたんだ。だから……。
緊張で固まっている表情を解す。私は元冬Pを見つめると、これ以上ないっていうくらい最高の笑みを浮かべて見せた。
「……いい笑顔だ」
Pもつられるように笑う。
――凜子の笑顔はとっても素敵だね。
――凜子ちゃんの笑ってる顔を見ると、それだけで勇気が出てくるよ。
――私も凜子ちゃんみたいに笑えるように頑張るね。
みんなに褒めてもらった笑顔だ。元冬Pも、観客の皆さんも、きっと気に入ってくれる。だから私は負けたりなんかしない。

「宇野月凜子です! 私の夢はアイドルです。アイドルになって、みんなを笑顔にしてあげたいって思ってます。理由はその……笑顔が好きだからです。みんなが笑ってる顔が好きなんです。だって、笑顔を見てるととっても幸せな気分になれるから。そのために私は頑張ります。ずっとずっと笑顔で頑張ろうと思ってます!」

「はい。では、第一パフォーマンスアピールの終了です。それでは皆様、投票を御願い致します」
アピールを終えた私たちの前で、司会の人が観客に告げる。観客の手には小さなスイッチが握られていた。アレを押して投票するんだと思う。ちなみに私たちの前にはそれぞれ電光掲示板が置かれている。ここに投票された数が出るみたい。
大丈夫だよね。緊張はしたけど、笑顔でいられた。笑いながら自分をアピールすることができた。だからきっと大丈夫だよね。
ドクッドクッと高鳴る心臓の音色を聞きながら、胸の前で手を合わせて願う。
私、ずっと頑張ってきたよね。だからお願い神様。私にチャンスを下さい。
そして――
「さぁ、結果が出ました。では、投票結果――オープンっ!!」
司会の人の声がホール中に響き渡る。
結果、私は――
「……嘘」
笑顔のまま固まることとなった。
だって、一番下だったから……。私の得票が一番……。
「なんで? 頑張って……。私、ずっと頑張ってきたのに……」
思わず呟いてしまう。
「頑張ってきた? はっ……そんなものは無意味だ」
冷たい言葉だった。
言葉の主は――元冬P……。
「無意味? どうして?」
わかんない。なんで? なんでなの?
「頑張りなんて誰もがやってることだからだよ。大切なのは頑張りじゃない。成果を出すことだ。成果を出すために人は頑張るんだよ。頑張ることを目的にしたら――その時点ですべては終わりだ」
頑張ることが目的って……。
私は、そんなつもり……。
ただ呆然と元冬Pを見つめる。
そんな私にPは一言「これまでご苦労さん」なんて言葉を向けてくるのだった。

「一〇〇〇!」
「一五〇〇!」
「二〇〇〇っ!!」
他の四人が控え室に戻った後、私一人がステージ上に残された。
そんな私の前で、観客の皆さんが数字を口にしている。その数字が何桁を表しているのかはよくわからない。でも、間違いなくわかっていることがある。あの数字は私の値段だ。
こんなのイヤよ。嘘。嘘よ。夢……。これは夢。こんな現実あるはずがない。
必死に私は目の前の現実を否定する。それだけじゃない。必死に自分に言い聞かせる。早く目を覚まして。こんな悪夢見ていたくないから――と。
だけど現実逃避に意味なんかなかった。
「五〇〇〇!」
その声がホール中に響き渡る。
「五〇〇〇です! 五〇〇〇が出ました。さぁ、他にいらっしゃいませんか? 五〇〇〇以上という方は!」
司会の人が尋ねて回る。その問いに対する答えはなかった。
そして、カーンカーンッと鐘が鳴り響いた。
「落札ですっ!」
落札。
つまり、私が買われた? 一体、誰に?
私にできることなんかなにもない。ただ立ち尽くすだけだ。
そんな私の前に一人の男性が現れる。歳は十代後半から二十代前半くらい? ワイシャツにジャケットっていうちょっとラフな格好をした人だった。
その人が私に笑いかけてくる。舐め回すような目で私を見つめてくる。
「凜子ちゃんだっけ? 僕は雅人。春日雅人だ。ふふ、それにしてもラッキーだなぁ。本当に僕好みの子だ。こんな子を僕のものにできるなんて……。父さんと母さんにはお礼を言わないとな」
ブツブツそんなことを呟いている。
「あ……や、やだ。やだぁああああ」
自然とそんな言葉が口をついた。
「そんなこと言っても駄目駄目。凜子ちゃん……キミは僕のものだ。僕のものなんだ!」
ギュッと抱きしめられる。
「いやぁああああっ!!」
条件反射のように私はこの人――雅人を突き飛ばす。でも、その瞬間、バチイイッと電流が流れた。
「ぎひいいいっ!」
痛みが走る。強烈な刺激に私は悲鳴を上げ、この場に倒れた。
「あ……い……痛いぃいい……」
ユナちゃんがそうしたように、私はビクビクと身体を痙攣させる。
「ご主人様に逆らっちゃ駄目だよ」
そんな私を労ることなく。楽しそうに雅人が見つめてくる。
これは現実なんだ。もう、私……逃げられないんだ。
その事実を突きつけてくるような視線だった。
「それじゃあ……僕が凜子ちゃんのマスター……アイドルマスターとなった証を刻ませてもらうね」
呆然とする私にそんな言葉を投げかけてくる。
「証? 刻む?」
わけがわからず首を傾げる。
「こうするんだよ」
ニタッと雅人は笑った。
するとスタッフたちが動き出す。彼らは私の身体を拘束すると、身に着けていた衣装を捲り上げてきた。私の下腹部が露わになる。
「な……何をする気!?」
「ふふ、生贄アイドルとして……これからマスターのために頑張って下さいね」
戸惑う私にスタッフが笑いかけてきた。同時に私の下腹部にシールのようなものを貼りつける。すると――
「なにこれ!? なにこれぇえええ!?」
私の下腹部に『生贄アイドル』という文字が浮かび上がった。
「奴隷の証です。その文字は二度と取ることができない」
ニタニタとスタッフが笑う。
「あ……そんな……イヤよ! こんなの……いやよぉおおお!」
私は悲鳴を響かせる。でも、どんなに泣き叫んだところで、私を助けてくれる人なんか一人もいなかった。

そして、私は雅人の家に連れていかれた。
ただ、家といっても一軒家じゃない。マンションだ。
「学生だからね。一人暮らしをしてるんだよ。狭い部屋でごめんね」
そんなことを言ってくる。
でも、この部屋、全然狭くなんかない。多分普通の一軒家なんかよりもずっとずっと広い部屋だ。マンションなのに一階フロアと二階フロアに別れていたりなんかする。お金持ちしか住めない部屋だ。
こんな部屋が実在するんだと私は呆然と立ち尽くす。
「ああ、もう我慢できない」
戸惑う私を雅人は背後から抱きしめてきた。ギュッと身体を密着させてくる。
その瞬間、脳裏に司会の人の言葉は蘇ってきた。性奴隷になってもらう、という言葉が……。
「あ、や……やだっ!」
血の気が引く。思わず身じろぎした。藻掻き、逃げようとする。
「逃がさない。逃がさないよっ!」
でも、雅人の力の方がずっと強かった。私は床に押し倒される。雅人が私にのし掛かってくる。
「やめて! お願い……やめてぇええっ!」
悲鳴を上げる。
「可愛い。凄く可愛いよ凜子ちゃん!」
だけど、何を訴えたところで雅人は聞き入れてなんかくれない。フーフーと荒い鼻息を漏らしながら、私を仰向けにし、腰の辺りにのし掛かってきた。そのまま私が身に着けているアイドル衣装に手をかけると、容赦なく剥ぎ取ってきた。衣装が破り捨てられる。白いブラが剥き出しになった。下腹部に刻まれた『生贄アイドル』の文字も……。
しかも、下着姿にするだけでは満足してはくれない。躊躇うことなくブラを上にずらしてくる。私の胸が、雅人の前に弾むように露わになった。
「ああ……大きい。凜子ちゃんのおっぱい……凄く大きい。これがおっぱい」
白い胸が、ピンク色の乳首が、雅人に見られてしまう。恥ずかしい。こんなの恥ずかしすぎる。耐えられない。
「やぁあああ……み、見ないで……。見ないで下さい」
裸なんて誰にも見せたことはないのに……。こんな、今日会ったばかりの人の前に晒すことになるなんて。こんなことあっちゃいけない。
でも、私が何を思ったところで、雅人は中断してなどくれない。それどころか手を伸ばし、胸を鷲掴みにしてくる。柔肉にゴツゴツとした指を食いこませてきた。揉んでくる。両手で胸を捏ねくりまわすように……。
「どう? 気持ちいい? こうやっておっぱい揉まれると、感じる?」
興奮した様子で尋ねてくる。
「……感じたりなんかしません」
だからやめて――そう訴える。
「本当に? それじゃあ、こんなのはどう? こうされるのは……」
でも、私の言葉はさらなる屈辱を導く結果にしかならない。ただ揉むだけではなく、唇を寄せてきたかと思うと、雅人は乳首を舌でぺろぺろと舐め始めた。乳頭を舌先で転がすように刺激してくる。
「やだ……やだぁあああっ!」
会ったばかりの男に身体を舐められる。これほどおぞましいことはない。鳥肌が立ちそうな気持ち悪さだ。でも、できることはなにもない。だって、雅人と私ではあまりに力が違いすぎるから……。
私の細い腕と身体で男のがっちりした身体を振り払うことなんかできない。
結果、さらに舐めしゃぶられることになってしまう。ただ舌先で転がしてくるだけじゃない。時には押しこむように刺激してきたり、時には乳首を甘噛みまでしてきた。
「感じる? 感じるでしょ?」
興奮しきった様子で繰り返し尋ねてくる。
「そ、そんな……ことっ!」
もちろん私は否定した。
でも、私の身体は意思に反して反応してしまう。舌の動きに合わせて、甘く痺れるような刺激を……。
なかなかアイドルになれない憂さを晴らすように、時々私はいけないことだと想いながらも自慰をしていた。しかも、乳首を弄るように……。だから私の身体は胸で感じることを知ってしまっていた。
その結果――
「あっ……んっ! くひっ! あっふ……んふううううっ」
声を漏らすことになってしまう。甘みを含んだ吐息を。
「ああ、やっぱり感じてるんだ」
当然雅人にも気付かれてしまう。彼は本当に嬉しそうな表情で私を見つめてきた。
「違う! 違うのっ!!」
認めるわけにはいかない。必死に首を左右に振る。
「これでも? ほら……ほらっ!」
でも、否定はさらなる責めを呼びこんだ。
雅人はより胸に対する愛撫を激しいものに変えてくる。大きく口を開いたかと思うと、パクッと胸を咥えてきた。そのまま頬を窄めて吸い始める。まるで赤ちゃんみたいに私の胸をチューチュッと啜ってきた。
「んひんっ! あっあっ……はんんんっ」
途端に走る性感。全身が痺れる感覚に、私はヒクヒクと肢体を痙攣させた。同時にまた声を漏らしそうになってしまう。でも、これ以上変な声を聞かせたくはない。
「ふううう……うっふ……くふううっ」
唇を閉じ、嬌声を抑えこもうとする。
「ダメ、聞かせて……凜子ちゃんの声を!」
我慢を雅人は許してくれなかった。
右の胸を吸いながら、左の胸を手で弄ってくる。乳房を幾度か揉みしだいたかと思うと、条件反射のように勃起を始めた乳首を摘まんで、シコシコと扱くように刺激を加えてきたりした。
「やっ! あっ……それ……ダメっ! んっふ……声……出ちゃうっ! あっあっ……あんんんっ」
そんな愛撫に私の身体は過敏に反応してしまう。閉じていた口が開き、甘い声が漏れ出てしまった。同時に全身がじんわりと熱く火照り始める。白い肌が赤く染まる。肢体の表面には汗が浮かんだ。下腹部がジンジンと疼き始める。
「感じてるんだ。凜子ちゃんって……凄く敏感なんだ。ああ、可愛い。そういうところもすっごく可愛いよ」
「だ……から……感じてなんか……」
「こんな姿を見てたら我慢できなくなる。だから……いいよね。もう、構わないよね」

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